492、時短
ブルックたちはアセリアの館から出立し、魔導星勧誘のために動き出した。
潜入調査をしたことがあるのはブルック、セオドア、レナール、デュラン。彼らは時間短縮のために4箇所に分かれることにしたのだ。
ブルックにはランドルフが付き、セオドアにはオーウェンとクレイが、レナールはブリジットと行動し、アドニスとクラウディアが付く。そしてデュランはアレンと行き、ティオとリディアが教会に招く。
それぞれがそれぞれの都市に到着し、教会を拠点として情報収集を開始する。
まず、ブルックとランドルフが訪れたのは『シルヴァージュ』という領地。最古の五賢者の一人の名前を冠した都市『ゼルフ』があり、『水の魔導師』が治める魔導大国の東部方面に位置する軍事魔導都市。
総人口は70万人弱。種族は人族が多く、エルフや獣人族を含めた亜人種は少ない。
特産物はポーション、麦、塩、魚など。海に面しているため漁業も行われており、塩もその過程で生成されている。あとは何と言ってもポーションの種類が他の都市とは違い豊富。マナポーションやライフポーションや状態回復系ポーションなど上げればキリがない。
その理由は水の賢者が建てたとされる名門『シルバーホーン魔導学園』が深く関係している。優秀な魔法使いを数多く輩出している偉大な学園で、魔導学園での実験や都市の店がそれぞれ競いながら純度と効果の高いよりよいポーションを作って売っているからである。
国力は地方の中で中の下。四賢冠が定めたアルファベット判定では『C 評価』とされている。
ランドルフはキョロキョロと街の様子を見渡す。古風ではあるが、一周回って近代的に見える石造りの建物。石畳もしっかり整備されていて、清掃が行き届いているのか目立ったゴミも落ちていない。
「いやぁ、なかなかのものですなぁ。この地方に来るのは初めてですので驚きました。こんな時でもなければ観光でもしたいくらいですね。……まぁ、有事でもなければ訪れることもなかったのでしょうが……」
その言葉にブルックはランドルフの肩を叩く。
「慣れた土地で十分だよ。それよりも教会はこっちだそうだ」
ブルックは目立たないように鎧を脱いで白いフードをかぶっている。顔を隠してランドルフに仕える敬虔な信徒に見せて関所を抜けて来た。
かなり厳しい関所だったが、アセリアの館出立前にこの国の各所に点在する教会関係者へ七元徳の威光を借りて協力を要請していたので、地方に到着の際に身元を保証する準備を事前に整えていた。
ブルックとランドルフが訪れた都市『ゼルフ』では、司教が取り巻きを連れて迎えに来てくれ、到着後間も無く入ることが可能となった。多分、他の場所でも同じように侵入したと予想する。
多少はゴタつくものだと身構えていたブルックもすんなり入れたことに驚き、潜入調査の時はかなりの時間をかけたことを思い出し苦笑してしまったほどだ。
世界的に有名で、かつ地域に根差した慈善事業に力を入れる宗教という団体は信頼も厚い。
特にエデン正教が説く死生観は世界的に認められている。冠婚葬祭は主にエデン正教の教会が使用されるので、無くては困るものだ。だからこそ教会関係者が迎えに来たとなると検問も甘くなる。ぶっちゃけ敵対したくないので、明らかな異常でもない限り素通り出来てしまう。
(それもこれも七元徳だからこそだな。彼らでなければこうも簡単にことが運ばないだろう……)
エデン正教の力を十全に使いこなせ、信徒はその名を聞いただけで跪く、特例とも呼べる最強のカード。何度も使用可能と言うわけではないだろうが、それでも潜入には打ってつけであることに変わりない。
七元徳の偉大さを実感していると、大きな教会が姿を現す。この都市は高い建物が多いので、目立つ建物でもすっかり隠れてしまっている。地図を見てある程度の地形や建物の位置などを頭に入れないと迷うことは必至。
この都市内にエデン正教の施設は3箇所。今回に限り、ブルックは3箇所全ての使用を許可される。どこにも辿り着くことの出来ない最悪の場合も想定し、逃げ込む先も用意する必要がある。
「……そういえばブルック殿はこの都市に来たことがあったのですかな?」
「ああ。随分と前だがな。この場所についての知識はその頃から止まってはいるが、見た感じでは特に変わっていないように見える」
「そうですか。それではそれほど時間をかけることなく領主に近付けそうですね。とはいえ一応教会側から近況は聞いておきますか?」
「助かる」
ブルックとランドルフは教会に入り、奥の部屋に通される。ランドルフの口利きもあって都市の情報を入手する。といっても概要くらいで思った以上の情報は聞き出せなかったが、それ故に前に来た時から然程変わっていない証左となった。
「現『水の魔導師』は確か『魔水』のディラード、だったか?」
「はい、その通りにございますブルック様。フルネームはディラード=クラウ=アヴァンチル。年齢は30代だったかと……」
「前に一度だけその顔を拝見したことがある。張り付いたような笑顔で小言を吐いていた。見るからに神経質そうな糸目の男」
「まさしく。その男こそ、この都市の領主に相違ありません」
年配の司教は顔面をひくつかせながら肯定する。ディラードに何らか恨みでもあるような空気を孕んでいるが、陰口を叩くことなく淡々とブルックに対応する。
「……ディラードのスケジュールを知る術はあるか?」
「生憎そこまでは分かりかねます。しかし彼は名門『シルバーホーン魔導学園』の臨時教師も務めておりまして、たまに教鞭も振るいます。現在は魔導帝の敗北騒動で講師の日程は全てキャンセルしている可能性がありますが、足跡を辿る手立てはあるかと……」
急にディラードの居城に乗り込んでも門前払いを喰らうだけ。敵対することなく味方に引き入れたいので、力尽くのような強引な手は避けたい。
「どこから調べようかと考えていたところだ。協力に感謝する」
「勿体なきお言葉」
ブルックはシルバーホーン魔導学園に狙いを定め、情報の収集を図ることにする。
「私も付き添いましょう。学園長に話を伺うとしましょう」
「確かに。子供の学び場に不審者が歩き回るよりはエデン正教の力を借りる方が得策か。ふっ……君たちには足を向けて寝られないな」
「これも世界平和のためですよ。共に力を合わせましょう」
行く道は同じ。ならば歩調を合わせて助け合うのが道理。
ブルックは現在の地図を司教から譲り受け、ランドルフと共に学園に向けて出発した。




