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「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜  作者: 大好き丸
20章 魔導大国 編①

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490、粒揃い

「……陛下が負けたぁ? そんな話を信じろとでもぉ?」


 間延びしたようなネチネチとした喋り方で配下に睨みを利かせる男。真っ暗な部屋で陰に隠れた男はパタンと1冊の本を閉じ、1本の蝋燭の火を吹き消す。闇に紛れ音のない数秒間が流れた後、灯りの下にヌゥッと顔を出す。

 うねるワカメのような黒髪と落ち窪んだ目が印象的な30代から40代の病的な男。顔と両手だけを外に出した黒いローブを羽織り、日の光を避け続けたであろう真っ白な肌がチラリと見える。闇から這い出て来た怪異の様な存在は見開いた目をギョロギョロと動かし、配下を一瞥するとそそくさと部屋から出て行く。

 背筋を這い上がってくるような気味の悪い存在を前に何事もなく背後に付き従う配下。慣れた手つきで男に情報が内包されたクリスタルを手渡す。男は歩きながら即座に起動し、頭の中に情報を入れていく。


「……この私の計算では陛下の負ける確率はほぼ無いと言ってよかったんだがなぁ……しかし結果は惨憺(さんたん)たるものだぁ……。四賢冠(リゾーマタ)ですらこのザマかぁ……」

「いかがいたしましょうかメロ様」


 配下の質問にメロと呼ばれた男は立ち止まる。


「……最悪を想定しない者から死ぬ」


 ポツリと呟いた言葉だが、その一言には感情がこもっていた。


「……取り合えず使えそうな巻物(スクロール)を中心に魔法道具(マジックアイテム)を買い漁れ。罠の手入れをし、守りを堅牢にしろぉ……。万事恙無(つつがな)くなぁ……」


 命令を承った配下は一礼して下がる。

 配下を見送ったメロは思案しながら歩き出す。魔導帝を屈服させた敵を幻視しながら自身の安全確保のため、作戦立案所と題されたセーフティールームに入っていく。


 彼こそ『魔導星(スターズ)』の1人。

 『闇の魔導師《マスター・オブ・ダークネス》』メロ=クラウ=ディアルマ。

 『魔闇のメロ』とも呼ばれ、『ブルクト城塞』を統治する君主でもある。


 メロとしては魔導帝を倒した敵と相対するなど御免被る。だが黙って傍観しているなど出来ない。命を投げ捨てることと同じだ。

 それならば潜れば良い。矢面に立たないが、兵を指揮することで間接的に戦う。


*


 魔導帝の敗北に反応したのはメロだけではない。

 魔導大国の地方都市『エタールシュ』の君主も声を上げた。


「馬鹿な……こんなことがあっても良いのか? 陛下は無敵のはずではないのか?」


 高級そうな眼鏡を付け、純白のローブを羽織る男。年齢は20代と目され、若く溌溂(はつらつ)としたオーラを発散する金髪碧眼のイケメン。見た目から威厳はあまり感じられないが、それでも上位者の空気を感じさせる。


 彼はマウロン=クラウ=シェイラス。メロとは真反対となる『光の魔導師《マスター・オブ・レディアント》』。

 『魔光のマウロン』という渾名(あだな)で通っている。


 魔導帝の敗北でマウロンがショックを受けるのも無理はない。彼は才能主義の最たるもので、生まれながらに最強を義務付けられた魔導帝フェーデラントに心から敬意を持っている。フェーデラントの信奉者とも呼ぶべき彼だが、フェーデラントが参戦する魔神との戦いには参加しなかった。その理由は主に2つ。


 1つは四賢冠(リゾーマタ)が参加を要請してきたことにある。老害どもがいつまでも特権階級にしがみつき、後世に譲らない姿勢が気に食わないのだ。若き帝の側に侍るべきは同世代の才覚ある自分であるべきとの考えが反発を生んでいる。

 2つは魔導帝自らが攻勢に打って出たことだ。自分が信じる国で最も才能のあるフェーデラントが、どこの馬の骨とも知らぬ敵に絶対に負けるわけがないと高を括っていた。いや、絶対に勝つと信じていたからこそ魔導帝の邪魔にならないようにあえて身を引いたと言っても過言ではない。


 マウロンはフェーデラントに一方的に裏切られたようなショックを勝手に感じていたのだ。


「選ばれし存在だったのにっ!!」


 ──バギンッ


 怒りのままに蹴飛ばした椅子が砕け散る。マウロンはぶかぶかの服の下に引き締まった筋肉を内包している。彼は『他人に愛され、尊敬され、理想の自分として扱われたい』という行動原理によって動いている。そのため、目に見えて実感出来るボディメイクには時間を惜しまない。


「……いや、そうか。陛下は結局偽物だったのだ。……私こそが本物。ようやくその時が来たということだなっ」


 先ほどまでの狼狽した様子とは打って変わってキリッとした目つきで虚空を見つめる。


「皆の者よく聞けっ!!」


 延々独り言を喋っていたマウロンは部下に語りかける。


「機は熟したっ! 今や天下分け目の大勝負の時っ! この私が国の王となるべく動き出す時っ!! 魔導帝を差し置いて敵を倒す策略を……私が輝けるステージを用意せよっ! よいなっ!!」


 マウロンは無理難題をふっかける。部下たちは魔導帝がやられた段階で敵に平伏するしかないと密かに考えていたが、突然やる気になった主人の命令には逆らえない。プランAとなる降伏案を隠して命令を快諾する。こうでもしないとマウロンが拗ねるからだ。拗ねたマウロンは面倒という言葉では片付かない。

 玉座の間から離れ、マウロンから遠ざかった段階で部下たちは話し合う。


「マウロン様からの命令は草案の段階で満足してもらうとしよう。我々は予定通り先の計画で進める」


 その言葉に部下たちは頷き合った。それも当然のことだろう。勝ち目のない戦いに身を投じることがどれほど愚かなことかなど誰でも分かる。現に一部を除いて『魔導星(スターズ)』の半数が白旗を挙げることを密かに決めている。アセリアは別にしても、最初から戦う前提で物事を考えるのはマウロンぐらいのものである。


 だが、もう1人の気狂いが魔導帝敗北という異常事態に花を咲かせていた。


 その人物とは地方都市『グリザーブ』と呼ばれる地の君主、アイザック=クラウ=ペイルウェスト。

 別名『魔雷のアイザック』。『雷の魔導師《マスター・オブ・ライジング》』の称号をいただく変人。


「凄いっ!! 凄すぎるぅぅっ!! 支配空間を後から出した支配空間が塗り替えるなんてっ!! どんな魔法だっ?! 知りたいっ!! 知りたすぎるぅぅぅぅぅっ!!!」


 アイザックは頭を掻き毟りながら膝から崩れ落ちる。

 支配空間とはいわば使用者の世界。魔導を極めし者が辿り着く極地。アイザックが驚愕しているように支配空間を後から飲み込んで自分の支配空間に変えるなど出来ない。いや、出来なかった。マイラが実践するまでは。


「異世界の理論は我々の理論を大きく超えているのかっ!! これは凄い発見だっ!! 興味が尽きないっ!! 弟子入りをするべきではないだろうかっ!? いや、しかしいきなり行って嫌われでもしたら遠ざけられて二度と近付けないかもしれないなっ! 慎重かつ大胆にアレに接近しなければっ!!」


 彼の求める魔道の深淵。その答えを知っている可能性のある存在の出現に興奮冷めやらない。

 魔導帝の敗北は新たな進化の発展となるか、またはこの国の終焉となるか。魔導星(スターズ)の中でも意見が割れるところだろう。


 剣聖と七元徳(イノセント)による魔導星(スターズ)懐柔作戦は、メロやマウロンから始まり、アイザックのような曲者揃いを相手にしなければならない。まさに前途多難である。

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