484、魔導帝参戦
──時は来た。
浮遊要塞を駆る3魔神が悪魔を召喚し、魔導大国へと襲い掛かる。
迎え討つは四賢冠。魔導大国を守るため、4人が力を合わせて魔神に対抗する。
牙を向いたのは『憂鬱の魔神』マイラ=イブリース=バートリ。待ち構える4人に対し興が乗ったマイラは、戦いを楽しむ目的で横入りがないように仲間を牽制し、四賢冠に単独で戦いを挑む。
1対4。数の上では魔導大国側が有利。実際、全員の魔法が完璧に機能し、マイラを圧倒──するかに見えたが、マイラは凄まじい魔力量と特異な能力にモノを言わせて4人に力を見せつける。
4人で既に遊ばれていた事実に絶望し、もうダメかと思われたその時、一筋の光明が差す。四賢冠がどれだけ懇願しても動かなかった魔導大国最強の存在が重い腰を上げた。
『魔導帝』フェーデラント=エディドヤ=リースハイン。
この世界で並び立つものがいない史上最高で最強の魔法使い。
出来ることならマイラの他に悪魔を含めて3体の強者が待ち構えている現在、フェーデラントに頼るのは敵をある程度疲弊させ、情報を抜き出してからここぞという時に参戦して欲しかった。しかし魔神は4人の計画など簡単に踏みにじりゴミのように捨て去る。
もはやしのごの言っている場合ではない。後はフェーデラントに丸投げするより他にない。
しかしようやく姿を見せたフェーデラントに仲間意識など皆無。出現と同時にダルクフの奥義『氷界天幕・水月帰還』を破壊。四賢冠を辱めながらマイラを見据える。フェーデラントの登場に魔女たちは挑発を始め、フェーデラントは挑発に乗る。
「愚かな。この私と戦って勝てるつもりとは片腹痛い。弱い者いじめでこの世界の底を知った気になっているようだが、それは大きな間違いだぞ? 私という『頂き』を知り、地べたに這いつくばらせてやろう」
「無知は辛いねぇ。この世界だけで強くなった気でいやがるのなら俺様が『本物』って奴を見せてやるよ。魔神に楯突いたことを、一生消えねぇトラウマに変換してお前の心をズタズタに引き裂く。泣いて謝っても容赦はしねぇからな?」
「それはこちらのセリフだ。……後悔するなよっ!!」
──ドンッ
フェーデラントは一瞬の内にマイラに接敵する。マイラは特に防御することもなくフェーデラントの行動を観察している。
「随分と余裕だなっ! だがその余裕もそこまでだっ!!──旋穿・氷槍撃っ!!」
握りしめた槍をマイラへと突き出す。空間が一瞬で凍りつくほどの冷気が渦巻いてマイラを穿とうと穂先が迫る。その危険極まりない攻撃をマイラは平然と左手をかざすことで止めようとする。
──ピキピキピキッ
当然のように手は凍りつき、捻り切るように左腕が吹き飛んだ。凍りついた左腕は空中で氷の飛沫となり、キラキラと光を反射しながら霧散する。左腕は跡形もなくなったが、マイラは片眉を上げる程度でダメージがないように見える。
「へぇ? 俺の腕を落とすか。流石にソロモンが作っただけはあるぜ」
「それは違うな。この私が使っていることにこそ意義がある」
「へっ。言ってろ」
マイラの傷口から血が噴出する。この光景にフェーデラントはニヤリと笑った。いくら我慢していても所詮はその場しのぎの嘘。血液を魔力で押し留めることなく傷口から吐き出させた。これはマイラの超速再生が凍らされたことによって封じられたことによる効力か、それとも動揺から魔力で血流を防げなかったことによる弊害か。だが次に起こったことでどれとも違うことが知れる。
マイラの傷口から噴き出した血液が凝固し、左腕を形成する。ずっと赤い手袋をしているものだと思っていた腕は血液だったとこの時気づけた。
「ほぅ? 我が臣下『火賢師』ジェダの炎で燻されながら蒸発せぬか」
「あんなもんじゃ俺の『血粧体』を突破することは出来ねぇよ」
「ヴァルルージュ? 聞かん魔法だ。異世界の侵略者という触れ込みは間違いではなさそうだな」
フェーデラントは左目を閉じ、右目だけでマイラを見つめる。彼の両目には特別な力が宿っている。使用しているその右目に宿るのは『天理眼』。見た魔法の術式を完全解析し、最適解の構築を行う。一度見た魔法は自分用に再構成可能。魔法使いなら誰もが喉から手が出るほどに欲しがる魔眼を持っている。破格の力ながら欠点も存在する。
(……莫迦な。ただの体液操作ではないというのか?)
どれほど凄まじい性能を持っていたとしても原初魔法・神界系・神器系は完全再現不能。この事実から察するに相手は魔神というだけの能力を保持していると考えるべきだ。
(……いや、考えられることがもう一つ。魔法ではなく、あの女にしか使えない固有能力か)
視線をマイラから外すことなくルタに抱えられたジェダをフェーデラントの魔法『空間知覚』によって感知する。感覚器官を魔力によって広げ、死角を潰す魔法。増幅出来るのは視覚と聴覚と嗅覚で、一つに絞れば知覚効果を倍に増やすことが出来る。
この場で増幅させるのは視覚。気絶したジェダの傷ついた腕を観察するために360度の視野角と、知覚したい物に近寄らずとも細部まで観察出来る能力を得る。
(……腕が内側から破裂している……やはりそうか。ジェダの魔法効果を無視して攻撃を通したことからも分かるように、自分のルールを押し付けて一方的にダメージを与える力。血液操作は奴の固有能力に違いない。であれば我が至宝『星冠『摂理』』の魔法無効は使えんな……)
フェーデラントが左目を開けた時、血液で作り出した左腕を観察していたマイラは鼻を鳴らして嘲笑する。
「……戦力分析は済んだかよ? ったく、待ちくたびれたぜ」
端から見れば血液で腕を作った工程に驚いたように見える状況だったが、フェーデラントの沈黙を戦力分析であると見事に当ててきた。こういう輩は自己の強さをひけらかし、敵が怖気付いたと考えて挑発をしてくるものだと認識していたが、思った以上に頭が回る。見識が浅かったと思う反面、四賢冠を手玉に取るほど強い存在が知能まで持っていることの厄介さを感じた。
「フッ……確かに私は貴様を見縊っていたようだ。少々改める必要があるな」
フェーデラントはマイラ他、2人と1匹の驚異度を引き上げる。そして何故アリーシャが自らの貞操を賭けてまで魔神を倒すように求めてきたのかもようやく理解した。
(なかなかの難易度だな。しかし、私にかかれば造作もあるまい)
ニヤリと笑い見下すようにマイラを蔑む。
「気が変わった。最初に言った第二妃の件だが、取り消させてもらうぞ」
「はぁ? まだ言ってんのか? 最初から受ける気なんざねぇよ」
「フッ、強がるな。その機会に恵まれた瞬間があっただけでも誉だぞ? だがもう遅い。貴様を倒し、妻と共に貴様らの血で祝杯をあげることに決めたからだ」
フェーデラントは構える。普段ならどのような戦闘であれ構えたりしない。魔導帝として挑戦者を受け入れる仁王立ちの姿勢で敵の攻撃を待つ。それが筋であり超越者としての務め。しかし並び立つものが現れた時、事態は一変する。アリーシャとの賭け以前に魔導帝に敗北は許されない。フェーデラントの考える『構え』とは絶対勝利の誓い。
「貴様らの死体の先に私の未来がある。ここで朽ち果てろ。異世界の魔女ども」




