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「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜  作者: 大好き丸
20章 魔導大国 編①

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480/510

480、アセリアの悔恨

 魔導大国の首都『アルマリウス』までの道中、魔導車の中でアリーシャとアセリアは向かい合わせで座り、それぞれに思いを馳せる。

 アセリアはアリーシャに合えた幸運と幸福を。アリーシャは過去、魔導大国で受けた仕打ちを考えていた。思い出すだけでも吐き気がする。

 嫌がるアリーシャを強引に監禁し、男女の関係を迫った『魔導帝』フェーデラント=エディドヤ=リースハイン。そして、帝(みかど)から直々に命令された四賢冠(リゾーマタ)も協力し、彼女は為す術もなく囚われる。閉じ込められた部屋の中、魔導帝は常々アリーシャにこう伝えていた。


『何故私の寵愛を拒む? これはお前にとっても必要でこの国にとって約束された完璧な未来につながるのだぞ?』


 拘束され、魔法やいかがわしいお香、薬などを用いてアリーシャに自ら体を差し出すように仕向けられた。唯一救いだったのが無理やり組み敷いて貞操を奪おうとするような色情狂でもなければ乱暴者でもなかったことだろう。それだけは彼のプライドが許さなかった。


 生まれた瞬間から最も優秀な血統、最も高い魔力、最も優れた教育、最も尊い地位を与えられ、そして何より歴代魔導帝が築いた歴史がフェーデラントにこう教え続けた。『魔導帝とは世界を導く者である』と。


 だから彼にとって支配は悪ではない。むしろ選択肢を与える方が残酷だと。

 能力ある者が決め、弱き者は従う、それが慈悲だとそう信じている。


『私は奪わない。お前が私へ差し出すのだ』


 皇帝に娶られることは最上の幸福である。妻になり、子を成せば最高権力を手に入れたも同然。魔導大国に生きる人間にとって絶対に落ちることのない権力の取得は憧れの対象である。だが、アリーシャにとって権力などどうでもよかった。ただ自由に生きることが望みだった。


「……随分と複雑な表情じゃんアリーシャ」


 特に表情を変えたつもりもなかったが、アセリアには読まれたようだ。


「──ええ、まぁ……」

「煮え切らないみたいね。でもま、当たり前かぁ……どうする? 引き返すなら今だよ。大体、直接なんて言わずに手紙で伝えるのもアリだと思うけど? 父上に頼んで直接渡してもらえばあいつも信用するはずよ」

「──アセリアは優しいですね。しかしそういうわけにはいかないんです。……とにかく今は時間が惜しい」


 アリーシャの真顔にアセリアは肩を竦めた。


「……正直に言うよ。あたしはこの戦い、勝ち目は皆無だと思ってる。話を聞く限りじゃ相手が悪すぎる。友好の道を模索すべきじゃないかな?」

「──それは難しいです。私も一度妥協案を考えたこともあります。しかしながら、こちらにも譲れない事情というものがありまして……」

「事情ねぇ。聞かせてもらっても?」

「──分かりました。先ほどティオさんからもお伝えした話と被ってしまうところもありますが、より細かいところをお話しします」


 アリーシャの口から出たのは戦う理由となった人物、レッド=カーマインという名前だ。レッドはデザイアと深い因縁があるようで、友好はもとい折衷案(せっちゅうあん)も期待出来ないそうだ。

 面倒な話である。国家レベルの話かと思いきや個人がこの問題の中枢に深くかかわっている様だ。レッドが譲歩することで収まっていたこともあると考えるが、単純にレッドを生贄に差し出すくらいでは収まりそうもないことが理解出来る。


 世界の命運を左右する事態。


 しかしアセリアはそんなことよりもレッドがどのような人物かが気になった。一応女性という可能性を考慮して詳しい話を聞いたが、聞けば聞くほどに頭の中に男性の像が結ばれる。性別を聞くまでもなかったが、念のために尋ねた。


「──?……ええ、はい。レッドさんは殿方ですよ」


 アセリアは顔を覆いたい気分になったがグッと堪えた。


「つ、つまりそのレッドって人のために命を懸けるつもりなの?」

「──それはちょっと違います。レッドさんとの出会いはこの戦いに参戦するきっかけとはなりましたが、命を懸けるべき目的は世界平和です。侵略者は討滅されなければなりません」


 この答えには深く納得する。ここで『レッドのため』と言われていたら卒倒するところだ。『ちょっと違う』というところに引っかかるところがあったが、そこはあえて無視をする。


「なるほど、一貫しているのね……。でも不思議なものね。魔導帝には見向きもしなかったあなたが、なんでレッドという男との出会いで命を懸ける大舞台に上がることになったのよ? もしかして魔導帝なんて及びもつかない凄い美形とか?」

「──いえ、私が知る限りあの方はそれほど美形ということはありません。あまり殿方をまじまじと見たことはありませんが、特徴のないごく普通の方ではないかと思います」

「ええ? それじゃますます分からないな。あたしの質問じゃ答えに辿り着けそうもないから、アリーシャから教えてよ」

「──……良いですけど、笑わないでくださいね?」


 アリーシャは恥ずかしそうに頬を赤く染める。アセリアはアリーシャのその反応にドクンと心臓が跳ねた。

 そんなはずはない。アリーシャは魔導帝に受けた仕打ちのせいで異性に対して恐怖心を抱いているはず。美形でもない普通の男に万が一にも一目惚れなどあろうはずもない。彼女の美的感覚が狂っていないことを祈りつつ、アセリアは固唾を飲んでアリーシャの答えを待つ。


「──見えなかったんですよ。彼が……」

「……へ?」

「──私のこの目は覚醒してからというもの全てを見通してきました。単に目を閉じていても意味はありません。この『聖骸布』と呼ばれる特別な力を持つ布で目を覆っていなければ、力が溢れ出して日常を過ごすことすら困難でした」

「あ、それオシャレとかじゃなかったんだ。珍しいことしてるとは思ってたけど……」

「──ありていに言えばこの状態でようやく普通に見ることが出来るのです。……不自由なものです」


 俯き気味にため息をつき、一拍置いてからまた口を開く。


「──それが普通だった私にはレッドさんが恐ろしかった。姿かたち、影すらも見えない、何をしてきても抵抗出来ないんです。私は未知との遭遇に怯えました。……だというのに、彼はそっと手を引いてくれ、優しく抱き上げて介抱してくれる。見えない恐怖は見る必要のない安心へと形を変えました。窮屈だと感じていた世界に新たな可能性を見せてくれた唯一の人なのです」


 レッドがすぐそこに居るかのように嬉しそうに語るアリーシャ。アセリアは右の瞼を痙攣させるようにピクピクと動かす。聞けば聞くほどに欺瞞であり、レッドに対する猜疑心がむくむくと湧いてくるのだ。

 正直これは嫉妬から来る苛立ちだが、自分よりも関わりが薄い男にアリーシャを取られたような気になるのは癪なので、あえて感情を圧し殺す。


「な、なるほどー。良い出会いだったんだねぇ。……まぁ、あたし的にもラッキーだったかもね。こうしてアリーシャが帰ってくるきっかけにもなったし? 思ったよりも早く会うことが出来たし。……どのみち、時間がある時にでも聖王国に足を運ぶつもりではいたけどさ……」

「──魔導大国に行くことを決めた時、アセリアに会える日を楽しみにしていました。昔と変わることなく私に接してくれるあなたに感謝しています」

「何言ってるのよ。あたしたちはずっと友達じゃない。この思いは決して変わらないわ」


 一時の沈黙。2人で見つめ合ってお互いにお互いの気持ちを確かめ合う。


(ああ……このまま時間が止まってしまえば良いのに……)


 楽しいひと時などあっという間に過ぎ去る。だからこの瞬間を閉じ込めていつでも取り出せるように仕舞っておきたい。もう二度と離れることがないようになどと、アセリアはアリーシャを見つめながら取り止めのないことを考える。

 アリーシャも自分と同じことを考えていたらと思ったその時、魔導車が止まった。アセリアは肩を竦めて「やっぱりね」と呟くとため息をつく。


「……さぁ、愚鈍な魔導帝を引っ張り出すとしますか」

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