474、次なる目的地
「レッドを出すなら俺たちも参戦したのに……」
「そうだぜっ!! 俺がメッタメタのギッタギタにして心を折ってやったってのによぉっ!!」
ライトとディロンは不満を述べる。ディロンは純粋に戦いたいという一点に尽きるが、ライトはレッドのことを案じてのことだ。最強であるレッドに心配など不要だが、精神面に難がある。一緒に戦うことで重荷を1人で背負わなくて良いとアピール出来るので、積極的に参戦したいと考えている。
「グルガンさんが俺1人で十分だと思ってくれたんですから、あれで良かったんですよ。ディロンさんはやりすぎるかもしれないし……」
「んだとっ! おいレッドっ! 俺が不器用だとでも言いたいのかっ?!」
「そ、そう言うことじゃないですけど……」
レッドは言葉を濁しながらライトを見る。ライトは微笑みながらコクリと頷いた。
「ああ、レッドの言う通りだ。お前は暴走傾向にあるから下手をすると兵士を殺している。今回は待機で正解だよ」
「いやそんな……俺は何もそこまで……」
あたふたと焦りながらレッドはディロンの様子を伺う。戦えなかったことによるフラストレーションからかビキビキと青筋を立てながらも、何とか感情を抑え込み、腕を組んで拗ねるように我慢した。ディロンの感情抑制にウルラドリスは感心した様子でいる。
「おぉ……喧嘩腰にならないなんてディロンらしくないけど、今は手放しに褒められるよ」
「んなもん要らねぇよ。余計な気を回すんじゃねぇよ、ラド」
顔をプイッと背けながらも満更ではないディロン。それを知ってか、ウルラドリスはくすくす笑いながらディロンの服の裾を握る。一連の流れを見ていたスロウはソファに寝転びながらあくびをする。
「血気盛んねぇ~。もう少しゆったりすれば良いのに~」
むにゃむにゃと今にも寝そうなスロウを尻目にグルガンが口を開く。
「今回貴公らを下げたのは他でもない、敵に情報を与えないように立ち回っただけのこと。同時にミノタウロスの実験場にも出来たので、かなり有意義な時間となった」
グルガンの一声で皆の耳目が集まる。それを聞いたオディウムが不満たらたらに文句を言う。
「何が実験場だよ。この俺様にどんだけの魔力を使わせたか分かってんのか? ピラミッドの中でも短時間にこんな量を出したことねぇよ。魔力が枯渇しちまうぜ……」
疲れからかぐったりしていると、そーっと近付いてきたスロウのマフラー型魔道具『極戒双縄』に絡め取られてスロウの下に引き寄せられる。オディウムは「うおぉっ!?」と一瞬かなり驚いていたが、スロウの抱き枕になったことで呆然とした表情をレッドに向けた。レッドに無言の助けを求めたつもりだったが、レッドにその思いが通じることなく「良かったな」と親指を立てられる。
「……何故俺がこんな目に……」
エデンズガーデン産の魔神であるオディウムがこのチームの中でマスコット扱いをされている。オディウムの生みの親であるモラクスが今の状況を見れば、驚愕と共にレッドと同じく親指を立てていたに違いない。
「……して、情報を与えないようにとはいったい何のことか?」
このわちゃわちゃとした空間を引き締めるかのように凛とした声でヒビキの質問が飛ぶ。それにはアキマサが答えた。
「ああ、それな。小国家連合の会議に参加したんだけどよ、1人を除いてどの国も内情を開示する気が無かったみたいでさ。こっちの情報のみを収集してくっから、全体的にきな臭さを感じたのよ。だからミノタウロス以外の戦力を隠した状態で戦争に臨んだわけだ。つっても、中盤辺りで瓦解しちまったが……」
アキマサが両手を上げてお手上げのジェスチャーを見せる。それに付け足すようにシズクも口を開く。
「何と言うか、こちらの情報が筒抜けだったように思います。連合側で裏切った何者かがこちらの配置を現地で把握し機界大国へと流したか、それとも全てを予見し得る神の如き存在の介入か。いずれにしてもあのままでは勝ち目はなく、押し切られていたことは明白。こちらも切り札を切る他ありませんでした」
シズクはチラッとレッドを見る。レッドは目をパチクリさせながら「切り札? 言い過ぎじゃないかな?」と謙遜している。
「レッドを1人で行かせたのは情報の収集を完全に止めるためだ。レッドは漠然と強いということは一目で分かるものの、その漠然とした強さを推し量ることは不可能。他の戦力を隠すために必要な工作だった」
これを聞いて腑に落ちる。魔導大国側に向かった剣聖と七元徳はアノルテラブル大陸では知らない者が居ないほどその名が知れ渡り、当然各国の情報網に引っかかる。先にどれほど強大で強力な戦力かが分かれば相手も下手に攻撃してこず、膠着状態となったことは言うまでもない。
しかし今回それほど有名な戦力は居ない上、一瞬で勝負の決する存在がポコッと戦場に現れた場合、何も知らない機界大国はこれを好機と捉えて進軍。せっかく優勢に働いていた戦線は瓦解し、バグやチートと呼ばれるべき無敵の存在が小国家連合を勝利へと導き、全てが丸く収まった形だ。
「あえてレッドを投入することで大幅な時間短縮になったということか。確かに我々が勇んで参戦するよりは終戦が早まって合理的だ」
ヒビキは納得の姿勢を見せる。誰もがディロンのように戦闘狂ではない上、このような些事に構っている暇など本来ない。
「うむ。それに入国に関しては良い手土産も出来た。まさか将軍が最前線に出てくるとは……。捕虜の命と交換で和平を結ばせることに繋がる思った以上の戦果だ。つい先ほど公爵から和平に関する書簡も手に入れた。グスタフ王には今すぐに門を開けるよう捕虜を盾に機界大国との交渉を任せている。直にお呼びがかかることだろう」
グルガンの掲げた書簡を見て「おおっ」と感嘆の声が上がる。しかしそれに横からドラグロスが水を差す。
「悠長なことをしてんじゃねぇよ。あのピエロも間接的とはいえ邪魔しに来やがった。これは深刻な状況かもしれねぇぞ?」
いつそこに居たのか、ドラグロスとグレゴールが壁にもたれかかるように立っていた。
「そうよ。ドラグロスちゃんの見立ては正しいわ。オーギュストちゃんがこんな風に関わってくるのは珍しいことだから……。その上、デザイアちゃんの力で生み出された黒炎とかいう子も驚異的よ。負ける気なんてさらさらないけど、厄介な相手だということは心に留めておいてね」
「デザイアの力で生み出された?……つまり前回戦った黒雷や黒風の亜種といったところか……」
グルガンは顎を触りながら考える。超自然現象の塊である存在。精霊王など塵に等しいレベルの戦力。そんなものをポンポン生み出されては困る。一応レッドが黒雷を倒しはしたが、オディウムと同様に魔力さえあればいくらでも生み出せると言われたら堪ったものではない。
「……今のままではやはり不十分か……何かしら戦力の増強が必要だということ……」
グルガンはチラッとアキマサを見る。アキマサはその視線に気付き「アレか?」と意味深に呟いた。
「うむ。理論の構築に時間が掛かっているが、あと少しといったところだ。必ず完成させる。今しばらく付き合ってもらうことになるが良いか?」
「は? 嘘だろ。この前教えたばっかだぜ? 早過ぎねぇか?」
「時間がないからな」
アキマサは肩を竦めた。グルガンとアキマサの間で交わされていることに疑問こそ湧くが、何かしらの対策を考えているということで流す。
「んで? どうする気だ?」
「どうするもこうするもない。現状維持だ。たとえ今の状態でデザイアに戦いを挑んでも敗北が濃厚。それならば奴がわざと見逃し、遊んでいる今の状況を我々は最大限利用させてもらう。それだけだ」
確固たる意志を見せつけたグルガンにお手上げのドラグロスたち。
「よぉ、お前凄ぇよ。こう、胆力が違うってか……髭の野郎と気が合いそうだぜ」
「髭の野郎?」
その疑問にグレゴールが答える。
「ルークフィン=ヴィンテージよ。私たちと同じ魔神。あの浮遊要塞の位置から見て機界大国に降り立ったことだけは確かよ」
「あの悪趣味な要塞か」
黄金で出来た要塞を思い浮かべながら鼻を鳴らす。
「ええ。けど気を付けてね。あの悪趣味な要塞は……いえ、全ての要塞を設計、建造したのはルークフィンちゃん。あの子は私たちの中で間違いなく最強の魔神よ」
グレゴールの言葉にグルガンはすぐにドラグロスに視線を走らせる。ドラグロスはバツが悪そうに後頭部を掻いた。
「それは一大事だな……」
思った以上に大変な状況になっていることを悟って腕を組む。するとノックすることもなく急に部屋をガチャリと開けてドワーフが入ってきた。
「グスタフ陛下がお呼びじゃ。すぐに来るように……おおっ!! な、なんじゃぁっ!?」
ドワーフはドラグロスを見るなり目玉が飛び出そうなほど驚いた。
「丁度良い。いろいろ思うところはあれど、ともかく我々は機界大国に行くぞ」
決意新たにレッドたちは機界大国へと向かう。




