465、マスゲーム
──ところ変わって機界大国周辺。
小国家連合と機界大国の戦争は始まってからかなりの時間が経過していた。
機界大国との戦いは膠着状態。オディウムは魔力の限りミノタウロスを産み続け、ついに1000体を超える数となった。
「相手は万を超える兵隊です。数の上では圧倒的に相手側が有利……」
シズクは神妙な顔で分析している。しかしアキマサは特に深刻でもなさそうに肩を竦める。
「問題ねぇよ。低く見積もっても1体につき兵士10人分だ。下手すりゃ15……いや20人分か、それ以上」
アキマサの言葉にグルガンも頷く。
「うむ。思った以上だな。あちらの武器もかなりのものだが、あと1000体確保出来たなら問題なく蹂躙出来る」
グルガンはチェスの駒でも打つようにミノタウロスを模した駒をコトッと机の上に置く。
この3人はミノタウロス軍の司令塔として後方に控え、機界大国同様に現在の戦況を前面に映し出されたホログラムで確認しつつ指示を飛ばす。
「牡羊座。今そこはどんな様子だ?」
グルガンがホログラムに向かって話しかけると、少しして答えが返ってくる。
『ボチボチってとこかな。奴さんたちは僕の能力で慌てふためいてるけどねぇ』
声からは確かな自信と自慢が見え隠れしている。
グルガンの持つ魔剣『翠緑の牙』の守護者、牡羊座のアリエスは土を自在に操る能力を保有する。簡易的なものも細部に拘ったものも構築可能。土魔法も網羅しており、従来の土魔法の使い手より扱いが格段に上手い。
この能力を利用して本来敵に有利に働くはずだった地の利を消し、自分たちの意のままに地形をいじっている。塹壕も丘も思いのまま。落とし穴も指を鳴らすだけで作れてしまう。
「そうか。引き続き頼む」
『りょうか〜いっ』
アリエスとの通信を終了し、グルガンはさらに駒を進める。
「待ってくださいグルガンさん。あまり進めすぎると手薄になります。ここは待機を命じられては?」
「ふむ。ならばここは散開させて待ち伏せで敵を討とう」
グルガンは進めた駒を元の位置に戻してホログラムを見る。
「射手座。ミノタウロスを散開させて待ち伏せろ。分かっているとは思うが、お前は動くなよ?」
『分かってますよリーダー。今回は私たちの出る幕はないってんでしょ?』
「そうだ。指示役だ。それから何度でも言うが、強者が現れた時は……」
『はいはい。撤退でしょ? 了解していますよ』
サジタリアスの反応にグルガンは肩を竦める。アキマサは終始不思議そうに眺めている。
「……本当に魔剣から生み出された生命体だってのか? 何で会話まで出来るんだよ」
「我の願望から生み出した魔剣だ。物言わぬ兵隊では我が何かしら間違った時に正すことが出来ないからな」
「つまり第三者視点を持とうと思って作ったってことかよ? そんな気持ちで作れりゃ鍛冶屋も廃業だぜ」
アキマサは不貞腐れるように椅子にもたれかかる。シズクも疑問に思っていたことをグルガンに投げかけた。
「しかし、これだけの戦力を1人で保有しているのは些か過剰では……いや、今となっては備えあれば憂いなしなのですが、あなたも支配者であるならそれなりに部下も居たでしょうに……」
グルガンは頷くだけで特に返答しない。アキマサはそれで察し、シズクに向かって口許に人差し指をかざして口を閉じるように示した。シズクもようやくハッとして小さく何度も頷いた。
「……んで、どうするよ? ミノタウロスの数にも限りはあるし、防戦一方となるとジリ貧だぜ? ここらで一つ博打を打ってみるか?」
「どうかな? 相手も相手のようだ。なかなか尻尾を掴ません」
グルガンは敵の司令塔を幻視しながら駒を適度に進める。
「絶妙なタイミングで下がり、また絶妙なタイミングで攻撃を仕掛けてくる。奇襲まで備えているようだ。魚座の戦列が乱れたのは記憶に新しいな」
「機界大国にもそれなりの指揮官が居るということですか。であるなら、やはりボロを出すまで防御に回ってはいかがですか?」
「奴らの武器の威力がそこそこならそれも考えたが、こちらも着実に数を減らされている。時間をかけるのは不味い。アキマサの言う通りジリ貧になる。オディウムからミノタウロスが絶えず生み出されているといっても魔力に依存している以上限界はあるだろう。オディウムがこれから一気に絞り出して3000体を出すというなら防御に徹するが、それは現実的ではない」
グルガンは配置を決めながら顎を触る。
「敵を誘い出しての両側から挟み撃ちでどうでしょう?」
「悪い考えではない。だが肝心の数がな……」
ミノタウロスは強い。今残っている数を市街地に投入出来たなら、一夜で国を滅ぼせるだけのポテンシャルはある。ピラミッドのダンジョンの狭い通路で出会ったなら死を覚悟する必要があるだろう。
しかし、こと戦場という開けた場所においては優れた筋肉も腕力も発揮されるまでにかなりの時間を要する。接近しなければ攻撃出来ないという致命的な弱点が明るみになったのだ。装備のしょぼい小国や拳法国ライレンといった接近戦を重要視している国ならいざ知らず、機界大国という装備が充実した国が相手だ。何体かのミノタウロスが既に土に還ったことを思えば、一般兵でも侮れない強さを持っていると考えるべきである。
「挟み撃ちも悪かねぇよ? でも慎重そうな相手だし、タイミングが難しいよな〜。とりま100体ほど進軍させて罠を張るってのはどうよ?」
「しかし相手もそう単純ではあるまい。誘い出しと見せかけて落とし穴などの罠を張りつつ、敵が退いたところを第2波が攻撃。退くに退けない空気を感じさせ、突っ込んできたところを罠にかける」
「それで『やっぱり罠か』って退いたところを追撃。そこでシズクの得意な防御戦を仕掛けて敵の体力を削るって寸法か。これは堪えそうだぜ」
「両翼を固めて入れば敵は漏斗に流した水のように中央から進軍を仕掛けるだろう。良し、新しく生み出されたミノタウロスは両翼を固めて敵の流れを作るぞ」
アキマサとグルガンの戦術を聴きながらシズクも負けじと声を上げる。
「であればミノタウロスに石を投擲させ、相手を撹乱させるのも一手でしょう。ここまで接近戦しか仕掛けていないのでここで投擲は驚くはずです」
「よかろう。この際下手でも何でも良いから石を投げさせてみようではないか」
グルガンに採用され、シズクも笑みが溢れる。
「おっ! らしくなってきたじゃねぇかシズクっ!」
「からかわないで。ここからが本番なんだから……」
外の戦場とは打って変わり、司令部は和気藹々とした空気で指示を出す。
『翠緑の牙』の守護者とミノタウロスは指示に従い、戦場を駆け回る。罠を2重3重に仕掛けた攻防は段々と小国家連合に軍配が上がりつつあった。




