464、尊大なる男
──現在。
ダルクフの魔法で支配空間にマイラを閉じ込めることに成功したが、いつまで保つか分からない。万が一にもダルクフが殺されてしまうようであれば大変な損失であると共に、勝利からまた一歩……いや、どれほど遠ざかるかも分かったものではない。
今何かしら手を打たねば、ダルクフの犠牲は無駄になると判断したサルモンとルタはお互いを見やる。ルタはジェダを抱えている。サルモンは手ぶら。サルモンはルタに頷いて自分が行くことを無言で告げる。
ヴィシャナとリジュール、グラシャラボラスの3人が傍観の姿勢を崩していないので、『魔導帝』を呼びに行くなら今しかない。
空中で踵を返したその時──。
「どこへ行く? 逃げることはこの私が許さん」
急に掛けられた声は頭上からのものだった。サルモンは一瞬、敵が間合いを詰めて来たのかと背筋を凍らせたが、視線をあげるとそこには呼びに向かおうとした件の君がマントをたなびかせていた。
「陛下っ!!」
サルモンとルタは驚愕と喜びが混じった複雑な表情で魔導帝フェーデラントを見た。フェーデラントはルタに抱き抱えられたジェダに視線を移し、ため息をつきながら肩を竦めた。
「ふっ……情けない奴だ。無駄に筋肉を付けるから敵に遅れを取る。魔力とは外付けの筋肉。魔力を高め、魔法技術を極めればどんな敵にも勝利出来る。つまり私はこの国で最も強い存在と言えよう」
マントを翻し、ダルクフの展開している支配空間に干渉する。
──パシャアァァンッ
支配空間が弾け飛び、ダルクフの魔法を無効化した。いきなりのことに面食らったダルクフだったが、そのすぐ後に見えない手に襟首を掴まれ引っ張り出されたように勢いよく背後に吹き飛ぶ。
「うおぉっ!?」
そのまま投げ飛ばされたダルクフはすぐさま体を回転させ、威力を殺しつつ姿勢を制御する。空中で急ブレーキをかけた後、自分を引っ張り出した存在を確認した。
「へ、陛下ぁ? そんなまさか……僕の支配空間を破壊するなんて……」
「はーっはっはっはっ!! 我が前にお前の魔法など無力。私は唯一無二にして絶対なのだっ!」
フェーデラントは高笑いしているが、四賢冠は静かに戦力分析をする。
(……星冠『摂理』の能力か……。まさかこれほどとは……)
『星冠『摂理』』とは魔導大国が保有する国宝の一つ。装飾の凝っている白銀の冠。
全ての魔法を無効化、または軽減する能力を持つ。どんなに複雑に組まれた術式も解くことが出来る優れもの。ダルクフが才能と努力、そして経験の末に手に入れた支配空間をも無効化してしまった。
他にも三つの宝玉が付いた白銀の腕輪『命環『法典』』と『神鎗『究明』』と呼ばれるシンプルな見た目の白銀の鎗を装備している。
魔導大国が誇る四つの宝。その総称を『四宝守』。4つの中、3つもの破格の性能を持つ国宝を持ち出し、魔神に挑むようだ。ちなみに最後の一つは別の者に預けているため、この国には今現在存在しない。
「ん? ね、ねぇヴィシャナ。あれってなんか……へんな感じしない?」
浮遊要塞の上にちょこんと座って戦闘を眺めていたリジュールはフェーデラントの装備を見て疑問に思い、ヴィシャナに質問する。
「変? いや、何も感じんな。その感覚を説明してみろ」
ヴィシャナは逆にリジュールに問う。だがリジュールにも説明することなど出来ない。何となく変だと認識したパッと見の違和感という奴だ。つまりは尋ねた本人もよく分かっていない。しかし、ここでグラシャラボラスがそのパッと見の違和感を説明することになる。
『ふむ……あの装備品は多分、魔導師ソロモンの発明品でしょうね。わたくしには分かります』
その名を聞いてリジュールは花咲いたように笑い、ヴィシャナは感心したような表情を見せた。ひと目見ただけで看破されたことに四賢冠は驚愕する。だが、悟られないように表情を固くして情報漏洩を防ぐ。
「ほぅ? 分かるか。よく勉強しているな、魔物」
四賢冠の努力を無下にするフェーデラント。サルモンも堪らず「陛下……っ!」と苦言を呈しかけた。
「狼狽えるな愚か者ども。それを知っていようが関係ない。何せ我が武器は防ぎようがないのだからな」
凄まじい自信と傲慢な態度にダルクフとの戦いを邪魔され、手持ち無沙汰となっていたマイラが頬を掻いた。
「いきなり出て来て何だよお前。陛下って言われてたが、もしかしなくてもお前がこの国の支配者か?」
「如何にも。我が名はフェーデラント=エディドヤ=リースハインっ! この国の帝王っ! お前たちは噂に聞く魔神どもで間違いないか?」
「魔神ども? 違うね。俺が魔神だ。あの2人は関係ねぇよ。ましてあの悪魔もただの使いっ走りだ。そんなことよりも、よくぞ出て来てくれたなフェー……フェー……帝王さんよ。手間が省けたぜ」
「フェーデラント=エディドヤ=リースハインだっ!……まったく、一回で覚えたらどうだ?」
呆れてため息をつくフェーデラントにマイラはニヤァッとイヤらしい笑みを浮かべる。
「っんなことどうだって良いんだよ。今度はお前が相手をしてくれるんだろ? 優男。そこのデカブツよりは気持ち良くさせてくれよ?」
ジェダを指差して挑発する。フェーデラントはチラッと気絶しているジェダを見て鼻を鳴らす。
「なかなか気の強い女だ。それに、我が国が誇る四賢冠の1人を撃破した実力者でもある。適任だな。お前を第2王妃として迎えてやっても良いぞ?」
「……あぁん?」
「もちろん、後ろの女共も妾として迎え入れてやっても良い。いや、互いに争って第2王妃の席を奪い合うというのも一興か。……今なら私がお前たちを王族に加えてやろう。喜びに打ち震えて咽び泣くが良い」
フェーデラントは両手をかざして早く来いとでも言うように手招きの要領で指を動かしている。
「わ、わぁ……」
「キモ……」
リジュールとヴィシャナはドン引きしている。しかしマイラは肩を上下に揺らしながら笑い始めた。
「ひゃはははっ!! なんだこいつっ!! 面白ぇ野郎だぜっ!! ぶっ殺してやろうかと思ったが、それじゃとことん楽しめねぇなぁ。……おいヴィシャナ。俺たちはこの国をどうするんだっけ?」
「デザイア様に献上するために支配する」
「だよなぁ。ってことは支配者を手懐けりゃ俺様がこの国の支配者ってことになる上に、デザイア様にいつでも献上出来るってことだよなぁ?」
「本気か? こんな気持ちの悪い奴を生かすのか?」
「おうよ。文句あっか?」
ヴィシャナはそれ以上口を出さない。『好きにしろ』と顔に描いてある。
「愚かな。この私と戦って勝てるつもりとは片腹痛い。弱い者いじめでこの世界の底を知った気になっているようだが、それは大きな間違いだぞ? 私という『頂き』を知り、地べたに這いつくばらせてやろう」
「無知は辛いねぇ。この世界だけで強くなった気でいやがるのなら俺様が『本物』って奴を見せてやるよ。魔神に楯突いたことを、一生消えねぇトラウマに変換してお前の心をズタズタに引き裂く。泣いて謝っても容赦はしねぇからな?」
「それはこちらのセリフだ。……後悔するなよっ!!」
──ドンッ
フェーデラントは一瞬の内にマイラに接敵する。
頂上決戦。『憂鬱の魔神』マイラ対『魔導帝』フェーデラントの戦いの火蓋が切って落とされた。




