459、憂鬱の魔神
魔導大国の上空に訪れた天地を揺るがす異次元からの災厄。
立ち向かうは魔導大国きっての強者『四賢冠』。
本来ならたった4人で挑むべきではない。相手は魔神クラスの実力者3人と召喚された悪魔。数は同じでも戦力にはかなりの開きがある。
出来ることなら各地の領主である『魔導星』にも協力を仰ぎたいところだが、大概の『魔導星』にとって『四賢冠』は目の上のたん瘤。討ち取られたのなら勢力図は変わり、国の政治そのものに食い込める。今後好きに出来る環境が転がり込んでくるのなら、加勢せずに放っておくのが有利に働くので緊急の招集にも無視を決め込む。
だが4人とも悲観していない。何故なら『四賢冠』とは魔法使いの最高峰の称号。そこに行き着くには努力では補えない天性の才能が必要なのだ。
「……この世界にやって来たことを後悔させてやろう」
ジェダは拳を握り込み、体内から噴き出すような炎を腕に巻き付ける。同時にダルクフは水、サルモンは鋼、ルタは風とそれぞれに力を発揮する。それを見たマイラは感心したような顔でニヤリと笑う。
「へぇ……まぁまぁやれそうじゃん。ちょっと遊びたくなってきたなぁ……」
マイラはペロリと下唇を舐め、スクッと立ち上がる。リジュールは「え? やるの?」と言いながらキョロキョロと目を泳がせる。ヴィシャナは腰に佩いた刀を持ち、ため息を吐く。
「……まったく……悪魔は契約を軸に存在を許されると記憶していたが、この程度の交渉を纏められないとは情けない」
ヴィシャナの苦言にグラシャラボラスはイラっとしたが、自分よりも強い存在に文句を言うことなど出来ない。
『それは申し訳ございませんね。わたくしはどちらかというと暴力の方が得意ですので……』
「言い訳は無用」
ヴィシャナの言葉でリジュールは慌てる。
「ま、待ってよっ。リジュの使い魔を殺さないでよ?」
『誰が使い魔ですか……』
呆れるグラシャラボラスとリジュールを無視してヴィシャナは4人を睨む。
「交渉が決裂したんだ。先に悪魔がほざいたように、この者たちに分からせてやらねばなるまい?」
そう言うと刀を抜き、戦闘に備える。4対4の攻防が始まるかと思われたその時、マイラがふっと手をあげる。
──ビシュッ
その瞬間マイラの手の先がスライムのように不定形となり、鞭のようにしなりながらヴィシャナを襲う。ヴィシャナは即座に飛び退き、マイラの攻撃を回避した。
「貴様……何の真似だ?」
「それはこっちのセリフだ。俺の獲物を取るなよ。今ちょうどムラムラしてきたとこだからさぁ」
フワッと浮いたマイラは4人の前に出る。不味いと思ったグラシャラボラスは一礼をした後、すぐに下がった。
「あらら、これは意外ね。全員で掛かってくるかと思ったのに……」
ルタの見解をマイラは嘲笑う。
「はははっ! そんなことしたらお前ら何も出来ねぇまま死んじまうだろうがっ! ちったぁ使えるんだろ? 俺を気持ちよくさせてみろよ」
マイラの挑発に苦笑するダルクフ。
「いやはや……女の子がそんな言葉を使うもんじゃないよ? お口が汚くなっちゃうじゃないか」
「俺がどんな言葉を使おうが勝手だろ? おっさん」
「でもさぁ、好きな男の子が君のそのセリフを聞いてたらどう思うか考えたことはないのかい?」
「口調で幻滅する野郎なんざ俺が片っ端から殺してやったよ。それに俺はあの御方以外の男になんざ興味がねぇ」
「そうかぁ、どうりで僕のことを見ても靡かないわけだねぇ」
「随分な自信だな。その自信はその顔から湧いてくんのか? だったら俺がめちゃめちゃにしてやるよ」
ニヤァッと耳元まで裂けるような笑みを見せるマイラ。その顔には心底恐怖させられる。そんなマイラの体からはジェダと同じように紅蓮の炎が体を包み込む。
「おやおやぁ? ジェダ君と同じ炎使いのようだねぇ。張り合ってみるかい?」
「……」
ジェダもその気になっているのか、腕に纏わり付く炎が一層激しく燃え上がる。しかしサルモンがそれを止める。
「バカを申すなダルクフ。これは遊びではない。1人のところ申し訳ないが、儂らはそれほど余裕がないでの。全員で貴様と戦うぞ?……悪く思わんでくれよ」
「了承を取る必要あるか? とっとと掛かってこいよ」
マイラの自信にルタが鼻で笑う。
「自分が強いと信じてやまないんでしょうけど、それは本物に会ったことがないからそんな顔をしていられるのよ。私たちがあんたたちを倒してあげる」
「知らないのはお前たちの方だろ? この世界しか知らない鳥籠の小鳥に俺が享受してやるよ。本物をなっ!!」
荒ぶる炎は世界を焼き尽くすほどの勢いを持って燃え滾る。
ここに来るは憂鬱の魔神マイラ=イブリース=バートリ。
魔導大国アイズ・オブ・トゥルースを手中に納めんがために猛威を振るう。




