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「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜  作者: 大好き丸
19章 機界大国 編①

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455/510

455、戦争開始

 ──2日後。

 朝日が大地を照らし世界に光が満ちた頃、機界大国と小国家連合との戦争が始まろうとしていた。


 機界大国は圧倒的な物量と戦力を武器に、書状にて降伏を勧告する。

 しかし小国家連合はこれを拒否。戦争前に両軍の指揮官が行う最後の示し合わせをも拒否し、時間と共に戦争開始を通達した。


「降伏に応じず、最後の話し合いも拒否だと? 勝てる見込みなどないというのに、この私の譲歩すら要らぬというのか?」


 圧倒的戦力を前にこれほど豪胆な選択をされたことのないハインケルは、小国家連合の指揮官の精神を心配する。というのも、ハインケルはこの戦いの絶対勝利を確信していた。まず、相手の情報が筒抜けであり、兵力と武器の総数をほぼ完璧に把握出来ていたのだ。

 4ヵ国中の半数が機界大国に寝返り、密かに戦争に参加しない旨を通達している。具体的には『ティノバ共和国』と『トリアーノ』の2ヵ国が裏切り、自分達が知りえた全ての情報を機界大国へと流し、平伏を誓っている。

 つまり指揮系統が外からたまたま居合わせた髭面の大男と龍球王国の知恵者であるということ、大男の失策によって『ギュプロス公国』も『ドルドバーン王国』も手出しをしないこと、龍球王国からの援軍がないこと、動けるのは『拳法国ライレン』からの非公認の援軍だけということなど致命的な部分が全てが筒抜け。これらを鵜呑みにするなら兵士をただ前進させただけで戦争に勝てるほどに間抜けな状況だと言える。


 ハインケルは歯噛みした。

 この状況で通達された命令は『待機』。


 ただちょっと進むだけで相手は降伏し投降するだろう間抜けな戦場に対し、さらに間抜けな命令が下っている。何をせずとも勝てるというのに足踏みすら許されない。ハインケルの中でルークフィンは戦場を知らない愚か者か、稀代の阿呆かという2択で苛立ちを募らせる。


「……いっそ黙って兵を動かすべきか?」


 勝機を逃すのは得策ではない。今こうしている間に、小国家連合を束ねる大男と龍球の知恵者が、何とか兵士を融通してもらおうと奔走している最中かもしれないのだ。少しでも遅れれば攻め込むのが面倒になる可能性もなくはない。

 しかしもう一つの考えがその逸(はや)る心を制止する。もしここで自分の考え通りに戦場を駆け、全てが万事上手くいけば、その手柄は何もしていないルークフィンのものになるのではないか。このまま放置し、ルークフィンが失態を起こすのを待っているのも良いのではないだろうか。


「ハインケル様。ここは一つ先遣隊を組織し、確認がてら敵陣営の偵察を行なってはいかがでしょうか?」

「ううむ……」


 考え込むハインケル。まさに今考えていたことを進言され、背中を押された気になる。周りから見てもここは行くべきだと警鐘を鳴らされる。部下の反応と自分の考えを照らし合わせ、やはりルークフィンの対応がおかしいと決定付ける。


「……よし、急ぎ偵察部隊を組織しろ。様子を確認次第、一気に畳み掛ける」

「畏まりました」


 ハインケルの了承を得た部下は何があっても良いように既に準備させていた部隊に合図を送る。部隊長は合図を受け取ると10人くらいの小隊で敵陣営の偵察に向かう。


「準備が良いな」

「ええ。皆、燻っていたので……」


 小国家連合など恐るるに足らず。彼らの懐事情を知らずとも戦争に駆り出された兵士たちは全てをなぎ倒すつもりで臨んでいる。ハインケルは部下たちの覚悟と練度の高さを誇らしく思うと共に、ルークフィンという邪魔者を疎ましく感じた。


(そうだ。こういう時にはやはり土地柄という長年の勘が戦況を左右する。異世界からやってきたくせに偉そうにしゃしゃり出おって……勝機を逃すのはいつも外様(とざま)の輩のせいよ)


 この決定こそが完璧に正しいのだとニヤリとほくそ笑む。アンドレイドの失策とまで言うつもりはないが、ルークフィンは間違っていると心で納得させた。


 偵察部隊はそれぞれ剣や戦斧などの『戎器(じゅうき)』を構えて警戒しながら敵陣営を進む。

 機界大国の兵士が当たり前に装着している『戎器』とは、またの名を『マグナレクス』ともいう機界大国オリジナルの武器のことだ。これは『機界帝国アドミニスト』の独裁を終わらせた『偉大なる王(マグナレクス)』であるジェムクロフト=ライトレイルに因んで名付けられた革新的機械の総称である。

 機界大国の技術を束ねる『技術開発機関(ダイダロス)』が作り出した最新鋭の武器であり、全兵士が一定の兵力を持てることをコンセプトに日夜開発に勤しんでいる。これを以って戦力の平均値を底上げし、一般兵でも強力な力を使用することが可能となった。

 アンドレイドが支配を目論む背景には、この『戎器』の存在も欠かせない要素となっている。正直、作戦など立てずとも『戎器』を携えた兵が脳死状態で敵陣に乗り込めば勝利出来ると思わせるレベルなのだ。


「……ここまで異常なし。情報通りか……」


 部隊長は肩を竦める。もう少し手応えのある敵だと戦いにもなるが、相手は所詮小国家。4ヵ国が足並みを揃えていたとしても機界の軍勢に勝てるはずもないと高を括る。まして、その指揮権を何の信頼もない外様に移譲するなど戦いを放棄したも同義である。


(いや、それはこちらにも言えることか。いずれにしろ相手が悪かったな……)


 偵察部隊はこれ以上は無意味だと悟り、陣地に引き返し始めた。


「かかれぇっ!!」


 その一瞬の隙をついて油断した偵察部隊に何人かが飛びつく。遮蔽物に隠れ、気配を消していた拳法国ライレンの拳士たちが攻撃を仕掛けたのだ。急に飛びかかられて焦った兵士たちだったが、相手は棍棒で上から叩き下ろすだけの野蛮な攻撃方法であり、装着した鎧の前にはそれほどダメージにならない。

 しかし1人に対して5、6人が一斉にぶっ叩く多勢に無勢の攻撃には流石の兵士たちも無事とはいかない。4人ほど気絶に持ち込まれ、6人は逃げ帰ることになる。


「いいぞっ! よくやったっ!」


 肩で息をする拳士たちを労うようにチェン老師が現れる。


「し、しかし老師。どうしてこんなものに頼る必要があるのでしょうか? 俺たちには老師に教えてもらったこの拳が……っ!」

「馬鹿ものが。見よ。相手はこのように鎧を着て戦ってくる。戦争は長丁場になることが多いのだから初手で拳を痛めることはない。その拳はまだ仕舞っておけ」


 弟子たちは棍棒を握った手が痺れていることに気づく。まるで硬い石や金属を思いっきり叩いたような振動がそのまま棍棒から手に通じている。棍棒で殴ってこれなら確かにいきなり素手で行くのは間違っている。素手は最後の手段にとっておくべきだと感じた。


「さすがは老師っ! この戦法は卑怯だと思っていましたが、俺が浅はかでしたっ!」

「うむ。覚えておけ、戦争に卑怯はない。何を使っても勝たねばならないのが戦争だ。拳法の約束事など、戦場(ここ)では通用しないぞ」


 老師の言葉に「おおっ!」と歓声が上がる。

 たかだか40人程度の棍棒を振り回す原始人如きが偵察部隊とはいえ、機界の兵をコテンパンにするなどあり得ない事態。これはハインケルの逆鱗に触れる。激怒したハインケルだったが、その実冷静な側面が虎の子とも言える拳法国ライレンの兵隊を最前線に送っている現状を鑑みて勝機を確信する。部下もこれには苛立ちを見せるが、情報通りの事態に満足している。


「やりましたなハインケル様。後はルークフィン殿に進言すれば一気に……」

「……もう良いわ。第1、第2、第3部隊までを残し、残りの部隊を出撃させろ」

「なっ!? し、しかし将軍、今はまだルークフィン殿からの指令はございませんが……?」

「必要ない。私が命令を下す。鏖殺(おうさつ)だ」


 こめかみから走る青筋が今のハインケルの心情を色濃く表していた。

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