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「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜  作者: 大好き丸
19章 機界大国 編①

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454/510

454、兄妹

 長い廊下を早足で歩く褐色肌の男。金色がかった茶髪で、瞳の色は赤く、獅子のように鋭い目をしている。極限まで鍛え上げられ引き締まった体をしており、背筋がピンとした長身。胸当てや肘や籠手、ブーツなどの一部のみであり、動きやすさ重視した簡素な黒い鎧を着ている。


 男は限られた上層部のみで構成された協議の場に急ぎ向かっていた。その理由はもちろん戦争の阻止。アンドレイドが勝手に国の代表の様に出した書状のせいで問題となった4ヵ国とのいざこざをすぐにも解決しなければならない。


 ──バンッ


 部屋にたどり着き、遠慮なしに思い切り開いた。そこにはエクセルとハインケル、マチルダとスレイフの姿があった。アンドレイドは既に居らず、かなり急いだつもりだったが協議のことを聞いたのが遅かったのか、話し合いは決着し解散の流れになっていた。


「お兄様っ」


 エクセルは男を見た瞬間に声を上げた。


 男の名はライオネル=アミュール=ラプター。

 アンドレイドの長男であり、『戎戦主(キング)』の称号を冠する若き英雄。二十代半ばの年齢であり、若い頃のアンドレイドによく似ているらしい。しかし、若き頃のアンドレイドを大きく凌ぐ鬼神の如き剣才を持ち、機界大国最強と言われる現アンドレイドの正統後継者と噂されている。


「エクセル。お前も協議に参加していたのか。どうりで情報統制されていると思えば……元帥はどこだ?」


 ライオネルは鋭い視線で部屋を見回しながらエクセルに質問したが、エクセルが答える前にハインケルがライオネルの前に立ち塞がって勝手に答える。


「既に部屋を後にされた。今更なんの用かな? ライオネル殿」

「……やめようハインケルさん。俺たちが争っても意味はない」

「争う? ふっ、随分と飛躍する。これは単なる世間話だ。ちなみにこの戦争にあなたの居場所はない」

「戦争に参加するつもりはない。むしろこの不毛な戦争を止めるために来た」


 ライオネルの発言でピリッと空気がヒリつく。


「不毛だと? 聞き捨てならんな。この戦争は我ら機界大国ジェムクロフトが全世界を掌握するための序章に過ぎんのだぞ?」

「元帥の夢は独りよがりで身勝手な侵略行為だ。昨今世間を賑わせている浮島の連中と大差ない」

「違うっ! 奴らはただの侵略者だが、我らには古くからこの地で紡いできた歴史がある。それに世界統一は機界帝国『アドミニスト』の時からの悲願。決して独りよがりなどではないっ」

「……ハインケルさん。帝国は滅んだんだ。それも随分昔に暴君の歴史と共にな……」

「滅んでいようがいまいが関係ない。これは意思の問題だっ」


 売り言葉に買い言葉。ああ言えばこう言うを地で行く2人の諍いにマチルダも呆れる。その様子に荷物をまとめていたスレイフが肩を叩いて退室しようとジェスチャーを入れた。巻き込まれたら面倒だと顔に出ている。

 エクセルも肩を竦めてライオネルとハインケルに声をかけた。


「もうその辺で……将軍は早いところ準備を進めねばならないでしょう? お兄様も、元帥に用があるのならここで油を売っている暇はないのではありませんか?」


 ハインケルは肩越しにエクセルを見た後、ライオネルに向き直る。


「ふんっ……いい機会だからこれだけは言わせてもらうぞライオネル殿。私はあなたの実力は認めている。かの『トリアーノの冒涜獣』の討伐に寄与した最功労者であるあなたの実力はな。しかし軍の秩序を乱す様な行為は国の根幹を揺るがすのと同義。戦争に反対を表明する程度なら私もこれ以上は何も言わぬ。もし立ち塞がるというのなら容赦はせん。分かったな?」


 睨みを利かし、人差し指を突きつけながらライオネルに脅しかける。ライオネルはハインケルの瞳を視線を逸らすことなくじっと見つめる。歴戦の将軍の圧にも脅しに屈しない若き猛将にハインケルは下唇を噛み締めて苛立ちを見せた。その後、ライオネルを押し除ける様に直進しながら扉から出て行った。


「嫌われてるわね。ライオネル君」


 マチルダとスレイフも退室のために立ち上がり、ライオネルに声をかけた。ライオネルはマチルダとスレイフにスッと頭を下げて敬意を示す。マチルダたちもそれ以上何を言うこともなく肩を軽くポンッと叩いて退室した。


「……ふぅ、まったく。お兄様も懲りませんね。そういう潔癖な正義は嫌われるだけだと何度も申し上げているでしょう?」

「懲りてないのはどっちだ? また俺を外したな?」

「当然です。 オーファウス様が同席なさるのならともかく、そうでないならお兄様は徹底して父上と対立されるだけではないですか。協議を停滞させるだけの存在を排除するのは理に適っています」

「俺はこの戦争に異議を唱えているだけだ。元より4ヵ国が仕掛けたのなら俺だって反対しない。始めた切っ掛けを無視して俺を悪に嵌め、被害者ヅラをするんじゃない」


 ライオネルの強い言葉にエクセルは反抗的な目を向ける。しかし、芯の通った強い意志を宿す瞳の前にエクセルの反抗心など軽く往なされてしまう。


「……私はお兄様を心配しているのです。兄妹として……」

「であるなら、俺の気持ちを汲むんだ。元帥に取り入るなんて危ない橋は渡るな。お前はどこでも卒なくこなせる筈だろ?」

「はっ……子供扱いですか。大きなお世話です。それは私に対する侮辱と捉えます」


 エクセルはプイッと顔を逸らす。


「……この戦争は既に引き返すことの出来ない領域に入りました。ハインケル将軍の仰った通り、反対を表明する程度の児戯であるなら容赦されます。しかし、万が一にも武力を行使するつもりなら、私も守りきれません。父上はお兄様を軍法会議に掛けることなく処刑を選択するでしょう。無論、父上に会われるのは自由です。ですがその行動には爪の先程も意味がないということを肝に銘じておいてください」

「エクセル。一つ良いか? もしかしてお前も父上の夢……元帥のやり方に納得しているのか?」

「元帥は国王に次ぐこの国の柱。そしてこの私は戎戦姫(クイーン)。上の方針に従うのは部下としての務めです」

「それが間違っていることでもか?」


 悲しみを湛えるライオネルの瞳をエクセルは鼻で笑い、それ以上は何も言わずに退室する。部屋に残されたライオネルは俯き加減で物思いに耽る。


「何をしている? ライオネル」


 背後から掛けられた声にライオネルはハッと振り向く。そこには壁に寄りかかり、こちらを見る女性が居た。

 プラチナブロンドの髪を後ろでまとめたアップヘアで、冷たい印象を受ける切れ長の目をしていて瞳の色は緑。妹のエクセルに勝る完璧なボディラインをダボっとした服装で隠し、内向的な雰囲気を漂わせている。


「スティカ? お前今までどこに……いや、いつ戻ったんだ?」


 ライオネルは最近見なかった顔に少々驚き、戸惑いながらも心配した様子でスティカに話しかける。


「すまない。野暮用で国を離れていた。帰ってみればアディルとフローネから戦争の話を聞かされてな。気になってお前を探していた」

「何度も言っているが、いきなり居なくなるなよ。こっちだって探したんだぞ?……まぁ良い。2人から詳細は聞いたと思うが、4ヵ国との戦争だ。元帥の一存でな。俺も先ほど協議が開かれていたことを聞いて止めようと思ったが、時既に遅しだ」

「そうか。最近静かにしていたと思ったが、ここにきて一気に動き出した様だな。それで? どうする?」


 スティカの問いにライオネルは懐から書状を取り出した。


「もうすぐ龍球王国から友がやってくる。……ふっ、こんな時にと思っているかもしれないが、かなり重要な話があるそうだ。戦争に巻き込まれでもしたら大変だから何とかしたいが……」

「……戦場に止めに入るか? 私たち『三従士(トレスセイン)』を使うなら準備するが……」

「いや、一応戦争が落ち着くまで動かない様に書状を送っている。既にすぐそこまで来ていたら非常に不味いが、彼もかなりの腕前だから万が一には潜り抜けてくれると信じているよ」

「そうか。相手を聞いても?」

「アキマサ=リクゴウだよ。スティカはまだ会ってないだろうから入国次第紹介する」


 スティカはその名を聞いて肩を竦める。裏の作戦でかなり前に龍球王国に潜入した折、アキマサに正体を見破られそうになったのを思い出した。最近潜入した時は顔を合わさない様に徹底して避けていたというのに、まさか国の外にまで出てくるとは思っても見なかった。


(龍球王国の復興のために国内に残ることを期待していたが、当てが外れたな……)


 ちゃらんぽらんで軟派な雰囲気を漂わせながら意外に鋭く、賢いアキマサとは正直二度と会いたくなかったが、機界大国までやって来るというのなら仕方がない。その上、ライオネルの友人とくれば、多少のリスク覚悟で会わざるを得ないだろう。


「了解した。……用事が終わったなら行こう。2人も戻るのを待っている」

「ああ。分かった」


 ライオネルは逆らうことなくスティカと共に部屋を後にする。

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