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「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜  作者: 大好き丸
19章 機界大国 編①

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451/510

451、上層部

 ──カツンッカツンッカツンッ……


 石畳の床を硬い靴の踵で小気味良く鳴らしながら大聖堂の様な建物の中を急ぎ歩く女性の姿があった。彼女はぽっちゃりとした体形に似合わない機敏な動きで、長い金髪を左右に揺らしながら苛立ちを隠さすことなく目的の場所までまっすぐ歩き続ける。

 そうしてまもなく目の前に現れた大きな両開きの扉に行き着く。彼女は右手をかざし、手を外側に弾くように振ると、触れてもいないのに両扉が開き始めた。せかせかと動く彼女の妨げにならない程度のスピードで開き切り、大きな広間に招き入れる。

 磨き上げられた大理石、天井は高く机と椅子以外を置かないようにした殺風景の広い部屋。ただ天井付近にはステンドグラスが吊るされているかのように小さな鉱石の粒が、キラキラと光を放ちながら旋回して部屋を照らしている。そんな謎めいた空間に男性2人の姿があった。


「ジェダはどこっ?!」


 挨拶もなしに放たれた怒気を孕んだ声に2人の視線は女性に向く。ツリ目で意地悪そうな雰囲気を放ち、泣き黒子(ぼくろ)が特徴的な彼女は『四賢冠(リゾーマタ)』の『風賢師』ルタ=クラウスト=オル=メヒューム。

 責めるような口調で尋ねられた2人も同じく『四賢冠(リゾーマタ)』であり、禿げ頭の老人が『地賢師』サルモン=クラウスト=グリーザ。長身で細身のナイスミドルが『水賢師』ダルクフ=クラウスト=マドーラ。そして、この場に居ない最後の『四賢冠(リゾーマタ)』、『火賢師』ジェダ=クラウスト=メルフロント。

 『四賢冠(リゾーマタ)』とはこの魔導大国に置いて上から2番目の地位であり、最上位の『魔導帝』を支える魔導大国の柱のような存在。『魔導帝』は血族で決まるので、魔導の最高位の職業である。因みに姓に付いた『クラウスト』は『四賢冠(リゾーマタ)』を表す名称であるため、『四賢冠(リゾーマタ)』以外の人間がクラウストを名乗ることは許されない。


「落ち着いてよ~ルタちゃん。ジェダ君はまだ来てないよぉ」


 ダルクフは静かで深い声音でルタの質問に答える。


「今が落ち着いていられる状況だとでもっ? 先程『ケレブルム』から報告が上がったわっ。あなたたちもその件でここに集まっているのでしょうっ?」


 語気を強めに早口気味で捲し立てられ、居心地が悪くなる。サルモンはため息を吐きつつ肩を竦める。


「魔導戦艦ルイベーとか吐(ぬ)かしおる件(くだん)の船のことか?」

「そうよっ! 当然でしょうっ?!」


 バンッと机が一瞬ひん曲がったかと思うほどの衝撃でルタの平手が放たれる。

 帝国でのガルム討伐以来、魔導大国も本腰を入れて調査に乗り出し、ある程度の情報を手にしていた。魔導戦艦の情報、乗組員、加担した国、他国に乗り込んでまでやって来たことまでも。


「ルオドスタ帝国は牙を抜かれ、聖王国は教皇が代わり、砂漠の王が逃げ出したっ! 秩序が乱れ、密かに進めていた国交も、砂漠からの献金も全てがパァッ! おまけに龍球王国も悲惨なことになったでしょっ!……ま、この際龍球は良いわ。それ以上にっ!! 今まで他国から集めた機密情報が全ておじゃんよっ! こっちがどれだけ必死になって集めた情報かっ!! これならいっそ、魔神の連中に談合を持ちかけた方が良かったわっ!!」

「だから落ち着いてよルタちゃん。不可抗力ってやつでしょ? 確かに今まで僕らが植えて来た種を蹴散らされたのは痛いよ? けど相手が相手だからねぇ。ほら、体に菌が入ったら追い出そうとする免疫機能の様に、彼らはこの世界から侵略者という病原菌を追い出そうと必死なのさ。感謝こそすれ、否定するのはお門違いでしょ」

「お門違いですってっ?! どこがっ?! 既にこの国に入国し、次はこの国が渦中に曝されるのよっ!? 今や対岸の火事ではなくってよっ!! どうしてこの国にっ!? これには何か裏があるのよっ! そうでしょっ!?」


 ヒステリックに騒ぐルタを無理に宥めようとせずに傍観を決め込むダルクフとサルモン。次第に興奮も覚めるだろうと思っていたが、それは淡い希望に変わる。


「──世界平和だ」


 ルタが開いた入り口からジェダが入ってくる。肩幅が広く、筋肉質で分厚い。魔法よりも近接格闘が得意そうな見た目。とてもじゃないが、魔導大国を率いているとは到底思えない男は肩で風を切りながら歩く。申し訳程度にかけたメガネがキラリと光る。

 3人の視線はジェダに注がれた。


「奴らは世界平和のために戦っている……」

「はぁっ? 正気っ? ちゃんと資料を読んだのっ?! あの連中の動線を辿れば、各国がどれほどひどい目に合って来たか詳細に書いてあるわっ!」


 ルタはツカツカとジェダに詰め寄りながら怒りを露(あらわ)にする。ジェダは「もちろん」と言ってクリスタルを取り出す。クリスタルを天井に投げると、宙に浮いていた他のクリスタルと混ざって光り輝いた。光が像を結び、ホログラムを生み出した。そこにはレッドやライト、ディロンやグルガンたちの姿が映し出される。


「彼らに悪意は存在しない。あるのは魔神を討伐することのみ……」

「そんなの上っ面だけじゃないっ! 見なさいよあの戦力をっ!! 剣聖に七元徳(イノセント)っ! さらには『月光の乙女』と『暗黒騎士』まで同行させているらしいじゃないっ!! あれが突然牙を剥いてみなさいっ! どの国も一溜まりもないわっ!!

「そうだな。だが、それほどの戦力をどうやって手にした?」

「それは……あれよ、剣聖が旅に同行していることを思えば帝国から何某か信頼は勝ち得たのでしょうけど、聖王国に至ってはあのローディウスが教皇の椅子に座ったのよっ?! 七元徳(イノセント)が彼らの戦線に加わったのは、教皇に押し上げてもらった恩義からに違いないわっ!」


 中空に浮かぶホログラムを指差しながら非難する。この言い様にはダルクフも眉をしかめた。


「そいつはちょっと穿ち過ぎやしないかい? ローディウス君はガブリエル元教皇に次ぐ人気者。彼が『忘れられた大陸』から無事に帰ったタイミングで教皇選挙が行われれば、考えるまでもなく彼で決まりでしょ」


 ダルクフにサルモンも同意する。


「その通り。ローディウスの件はそれほど驚くこともない。じゃが、七元徳(イノセント)が全員ついて行ったのには少々困惑した。帝国は層が厚いから剣聖不在でもそれなりに立ち回れよう。しかし聖王国は七元徳(イノセント)以外それほど大したことはない。神都パラディスに攻められている現状を鑑みれば、愚策であったとしか言いようがないのぅ」

「僕もサル爺と同意見さ。付け加えるなら、諸教派の『暗黒騎士』と『月光の乙女』まで不在。守る人も、鍵すらもない宝物庫を襲わない盗賊はいないよ。案の定、『神都パラディス』が攻めてるし……でも意外なほど聖王国は保(も)ってるよねぇ? 噂によれば、牛頭の兵隊さんが守っているそうだけど、どこの差し金かな?」


 顎を撫でながらニヤリと笑う。この言葉にルタは奥歯を噛み締める。


「……何なのよあんたたち。つまり何? 現状に不服があるのは私だけってことなのっ?!」

「そうじゃないさ。ただ何となく彼らを敵と位置付けるのは早計じゃないかと思うだけ。一番は話を聞いてみることだけどさ。召集に応じてくれる相手かどうかが分かんないよねぇ〜?」


 そう問いかけながらダルクフはジェダに視線を移す。


「ねぇジェダ君。よければ君の方からアセリアちゃんにお願いしてみてくれないかなぁ? 召集に応じる様に彼らに説得して欲しいってさ。何かしでかそうってんなら知っておきたいし、出来れば歩調を合わせたいからねぇ」


 ジェダはしかめっ面のまま目だけでダルクフを見る。


「……必要ない。炎の魔導師(マスターオブフレイム)が許可を出した。それだけでこの国に害することなどないと言える」

「おぉっ! 凄い自信だねぇ〜。だけどさぁ、ルタちゃんが警戒するのも分かっちゃうなぁ。だって彼らの行く先々で国の勢力図が変わっちゃってるんだもん。国家転覆とまで言わずとも、背後からの攻撃は避けたいよねぇ?」

「心配ない。背後から攻撃を画策する様な卑怯者ではないからな」


 自信に満ち溢れた言葉にルタは肩を竦める。


「アセリアを買い被りすぎよ。娘贔屓(びいき)も大概にしないと、痛い目を見るのは私たち以上に国民だということを忘れないでね」

「左様。魔神と事を構えるのに際し、使用されるのは我らの大地。獣王国の滅亡を他山の石とし、儂らの国は守り切らねばならぬ。足並みが揃えば、もし万が一のことがあったとて悲劇をコントロール出来る。この国を守るためにも、もう少しだけ広い視野を持ってくれるとありがたい」


 サルモンも苦言を呈するが、ジェダは「……肝に銘じる」とだけ言って踵を返す。ジェダの心変わりを誘発することが出来なかったと悟った3人。その不甲斐なさにルタは歯噛みする。


 既に入国されてしまった魔導戦艦の所在を知りながらも強権を発動することが出来ないのは他ならぬジェダのせいである。娘を庇う父親の図は傍から見ていても決して気持ちの良いものではない。


 しかし、魔導大国内の領土や都市を預かる『魔導星(スターズ)』が保身しか考えず、自領から出てこない中にあって、侵略者の魔の手から国を守れるのは他ならぬ『四賢冠(リゾーマタ)』のみ。

 『四賢冠(リゾーマタ)』が瓦解すれば、それこそ七元徳(イノセント)を失った聖王国と同じ状況となってしまう。


 最大戦力で共に戦うために、今はジェダとその娘アセリアの我が儘をある程度許容する以外に選択肢はなかった。

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