444、黒欲聖典
「機は熟した。黒欲聖典よ、我が元に来たれっ」
デザイアの呼びかけに応える様に巨大な穴を通り抜けて女性3人が姿を現した。
最初に現れたのは青みがかった銀髪の腰ほどまで伸びたロングヘアに、蒼色の瞳を持つ女性。白を基調としたドレス調の衣装に白のプリーツスカートを穿いている。下は白のサイハイソックスに足を通し、白のハイヒールを履いた格好。肌が白く、まつ毛まで真っ白でツリ目気味のジト目。
全体的に華奢な体系をした彼女の名はノヴァリンド=シルヴァリア=スノー。マイラとデザイアの間で交わされた会話の中で出た件の魔女だ。冷静沈着で表情の乏しい彼女だが、デザイアに対する情熱だけはマイラに引けを取らない。
次に現れた女性は髪はぼさぼさに長く伸びてくせ毛で前髪まで長く、ジメジメした印象を発っしている。目の下にクマがあり、更に黒い瞳には光が無く吸い込まれる様なグルグルと渦巻いている。全身真っ黒な丈の長いドレスを着こみ、黒タイツを穿き茶色の丈の長い革靴を履いた、濁った感じで根暗を形にしたような見た目。外見だけでなく性格は見たまんま根暗でコミュニケーションに難がある魔女。
その名はリジュール=メイスン。何を隠そう、彼女もデザイアに恋をしている。出来うることなら独り占めしたいが、マイラとノヴァリンドの手前、自分を出すことが出来ずに萎縮してしまっている。
最後に黒い穴を潜ったのは緑色の長髪を無造作にポニーテールでまとめており、菫色の瞳を持つ凛々しい女性。少々大きいサイズの藍色で男物の和服を着こみ、肩には武者の鎧のような大袖が付いて、右手だけ魔石の付いた手甲を付けている。和服の下に黒いミニスカートのようなものと黒いサイハイソックスを穿き、絶対領域から覗く白い肌が眩しい。
腰に刀を差しているので2人とは違い、接近戦を重視しているがれっきとした魔女。とてもグラマラスな肢体をしていて、マイラを含めた4人の中では最もスタイルが良い。
彼女はヴィシャナ=ケラウノス。力の信奉者であり、絶対的な強者であるデザイアに惚れ込んでいるが、マイラ達の様な過激派ではなく第二夫人でも良いと考えている。
3人全員が魔神クラスの実力を持つ実力者たち。こだわりの強いデザイアは魔神の席を増やそうと思わず、魔神の補欠要因で確保していた。
「我が命によくぞ応じた。お前たちの変わらぬ忠義に感謝する」
「……何をおっしゃいます。デザイア様のためならば、この命ある限り何処へでも参ります」
ノヴァリンドの返答にデザイアはコクリと一つ頷く。それを見てリジュールが「うぇへへ……」とニチャニチャとした粘性のある笑みを浮かべた。
「リ、リジュもですぅ。リジュの全てはデザイア様のもの……」
くねくねと動きながら俯き加減で下腹部を押さえている。リジュールの奇行を見たヴィシャナはため息混じりに目を伏せる。
「無論、僕も同様だよ。ようやく僕らの出番というわけだ」
腰に差した刀を触りながら戦いを意識する。ノヴァリンドは鼻で笑いながらヴィシャナを見据える。
「あら、良いことを言いましたねヴィシャナ。本当に……随分遅い召集です。いついかなる時でもお待ちしておりましたのに、全く呼んでくださらないなんて……。まさに『ようやく』といったところです。もしかして、マイラとお楽しみでしたか?」
ノヴァリンドの責める様な口振りにデザイアはマントを翻した。
「ふんっ……お前たちの言いたいことは分かる。だが理解していたことだろう。魔神は強い。たとえヴァイザーであろうともだ」
「……何があったのです?」
「詳しい話は後でルークフィンにでも聞け。アレなら既にありとあらゆる情報を入手したことだろう。分かりやすさという側面から見ても適任だ」
デザイアは満足した様に玉座の間からぶち開けた穴に入っていく。それに追従する3人の魔女。
「なんとっ!! その様なことがっ!? くぅっ! 吾輩がもっと早くにこの世界に降り立っていれば……っ!!」
玉座の間に入るとルークフィンが珍しく悔しがっていた。いつも悟り切ったすべてを見透かした様な雰囲気を醸し出す男の予想外の反応に魔女たちも困惑を隠せない。
『ええ、ええ。そうでしょうとも。しかしながら、デザイア様が手ずから生み出してくださったこの私、黒風が先に見つけました。これはデザイア様が与えたもうた宿命だったのですっ!』
「う、うぅ……」
膝でも突きそうなほどに苦しんでいるルークフィン。何があったのかを聞こうとした時、不貞腐れた黒鎧の騎士が目に入った。龍球王国から無理やり連れてこられたフィアゼスである。黒風は自慢するためにフィアゼスを連れ回していた。そして黒風はルークフィンのお陰で欲しかったリアクションを手に入れたのだ。フィアゼスの体から滲み出るオーラと雰囲気に初めて視認した魔女たちも気付く。
「……まさか、この方は……」
「そう、私の息子だ」
その瞬間に3人の魔女の目は零れ落ちんばかりにひん剥かれる。憎悪にも似た視線がフィアゼスに注がれたが、デザイアが手を水平にかざして魔女たちの感情を抑制する。
「息子と言っても、擬似的なものだ。私の因子を私の預かり知らぬところでどこぞの魔族に植え付けた不届き者がいたようだ。しかし、そのお陰で図らずも私の力を受け継いだ息子と呼ぶに相応しい存在が誕生したのだがな……」
心底楽しそうな含み笑いに魔女たちの溜飲は下がる。何より、この世界の女性と関係を持った末に生まれたというわけではなかったのが大きい。ホッとしたと同時に早く正妻に選ばれる様により一層の努力が必要であると認識した。
「よう、お前ら。久しぶりだな。会いたくなかったぜ」
マイラの軽口にイラっとさせられる3人の魔女。とうとう集結したデザイアの最後にして最高の戦力。この世界の覇権をかけた究極の戦いが幕を開ける。




