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「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜  作者: 大好き丸
19章 機界大国 編①

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443/510

443、想定外の戦力

「何? デザイアの満足だと?……どういう意味だ?」


 ドラグロスは下から睨みつける様にオーギュストの顔を覗き込む。その威圧的な目に臆することなくオーギュストは首を傾げて見せた。


「どうもこうも、私が仲間になるのは偏(ひとえ)にデザイア様を喜ばせるためのもの。私はデザイア様に喜んでいただける様に常に考えて立ち回っておりますので、万に一つもレッドさんの仲間に加わることになったならば、御二方とは違う意味での参入となったでしょう。と、いう意味ですよ」


 ドラグロスは椅子を蹴倒しながら立ち上がる。


「チッ! 何がデザイアの満足だっ! お前に声かけに来た時間がもったいねぇぜっ!」

「あらら、そんなに怒んないでくださいよ。どの道牽制のつもりで来られたようですから、こうなることは最初から分かっていたことでしょう? 少しはグレゴール様を見倣って落ち着いて欲しいものですねぇ」

「っ!……見透かしたような口利きやがる。行くぞレッドっ! オカマっ!」


 ドラグロスは踵を返して歩き去ろうとする。


「あ、待ってよっ!」

「そうよっ。まずはちゃんと名前で呼んだらどうなの?」


 2人は立ち上がってドラグロスを制すが、当の本人は聞く耳を持たない。へらへらとした笑みで成り行きを見守るオーギュストにグレゴールは向き直る。


「……オーギュストちゃん。あなた自分の世界に未練はないの?」

「未練? 何故?」

「何故ですって? 生まれ落ちた故郷に想いを馳せるのは当たり前のことよ。デザイアちゃんですらそうなんだから」

「ふふふっ、誰もがその当たり前の住人ではありませんよ。それにグレゴール様は勘違いをなされています。デザイア様に故郷などという概念は存在し得ません。ここに来られた理由も御息女であらせられるスロウ様をお迎えに上ったまでのこと。御子息が既に亡くなられていたのは悲しい事実ですが、それ以上にスロウ様が生きていたことに感謝せねばなりませんよぉ。特にレッドさんがね。この世界が存続する唯一の理由こそ、スロウ様が生存している一点に限られるのですから……」


 レッドは間の抜けた様な声で「は、はぁ」ととりあえず相槌を打つ。そんなオーギュストの言い分にグレゴールは訝しむ。


「ええ、確かにスロウちゃんを迎え入れる目的があることは事実だわ。けど、この世界に入ってからデザイアちゃんが浮ついていたのは気づいてる? 私はあれを見て故郷に戻れたことを喜んでいると感じたわ。これは気のせいなんかじゃないと思ってる」

「思っている、ですか。実に主観的な意見だ。私はあなた以上にデザイア様のお側で仕えてきたのでよく存じ上げでおります。あなたのは全て気のせい。私以上にデザイア様を知る者などおりませんよ。ルークフィン様が私と肩を並べるくらいでしょうか?」

「……前々から思っていたけど、あなたデザイアちゃんに恋してるわね」

「ふんっ、低俗な……しかし、あえてあなたの意見に乗ってあげましょう。私はデザイア様に恋しておりますゆえ、裏切ることなどあり得ません。本当に時間の無駄で残念でしたね」


 相手の失望の眼差しにオーギュストの気分は高揚する。しかし、グレゴールもその反応になるだろうと読んでいたのか、特に焦ることもなくプイッとそっぽを向いた。


「そう、分かったわ。ドラグロスちゃんも言ってたけど今後は敵同士よ。もし私たちの前に立ち塞がることがあれば、遠慮なく叩き潰すからそのつもりでいてよね」

「この私が? 立ち塞がる? 必要……ありますか?」

「……ま、やっぱそうよね」


 道化は所詮道化。勇ましいことを吐いてもその責任を負うことなく、主人であるデザイアに丸投げするそのスタイルには呆れを通り越して感心の領域だ。

 オーギュストの立ち位置を確認し、レッドたちは要塞から立ち去ろうとする。


 ──ゾクッ


 急に全身が泡立つ様な感覚がドラグロスとグレゴールを襲う。レッドは2人の様に言い知れぬ恐怖を感じたわけではないが、強烈な違和感と危険な予感を感じて立ち止まる。いきなり戦闘を仕掛けられたような空気感に思わず剣の柄を握りしめ、臨戦態勢に入った。


 ──パンッ


 3人の反応を喜んでいるように、オーギュストは1つ手を叩いてニヤリと笑う。


「デザイア様がポータルを開いたようですねぇ。あなた方はもう終わりですよ」


 その言葉にドラグロスとグレゴールが勢いよく振り返る。


「……ポータルだと? まさかデザイアの野郎……『黒欲聖典(テスタメント)』を連れてくるつもりか?」

「違うわドラグロス。これは『つもり』とかそんな次元じゃない。連れてきたのよ」


 グレゴールのいつもと違う真剣な表情にレッドも戦々恐々とする。


「……って、誰を?」


 無知故の質問にフェイルは嘲笑した。


*


 オーギュストを味方にしようと画策するレッドたちの裏でさらなる災厄をデザイアは引き込もうとしていた。


「ねぇデザイア様ぁ〜。なんであいつらを呼ぶんですかぁ? 俺だけで良いじゃないですかぁ。他の女なんて要りませんよぉ〜」


 マイラがデザイアの側まで近寄り、肘掛に置かれた腕に頬擦りしながら媚びる。デザイアは特に邪険にすることもなくマイラに視線を向ける。


「ああ。本来なら黒欲聖典(テスタメント)は必要ないだろう。過剰戦力と言って差し支えない」

「じゃあ……」

「これは『ノヴァリンド』との約束でもある。ヴァイザーが死に、魔神の席に空きが出た時、『ノヴァリンド』を魔神の席に据える。兼ねてからの約束を今果たすだけだ」


 デザイアの揺るぎない意思に卒倒しそうなほどのカリスマを受けながらも、どうしても許せない怒りが精神を保つ。主人であるデザイアに対してではない。デザイアが口にした『ノヴァリンド』と呼ばれる女のことで頭にきていた。

 ノヴァリンドとはマイラと同じ世界で生まれ、マイラと肩を並べるほどの力を保有する魔神クラスの魔女のことだ。


「チッ……あのクソジジイ……簡単に死にやがって……っ!」


 苦々しく吐いた恨み言にルークフィンが苦言を呈す。


「いけませんなぁマイラ殿。ヴァイザー殿はデザイア様のためにその命を捧げたのです。その犠牲に報いるべきではありませんか?」

「へっ、ふざけろっ。デザイア様のために死ぬのは当然なんだよ。その上で任務を成功させ、主人を満足させるのが部下の務めだ。そうですよねぇデザイア様ぁ。……野郎はただ死んだだけだ」

「ふぅむ。ただ死んだだけというのは語弊があると思えますが、『部下の務め』ですか。その意見には賛成いたします」

「だろ?……ま、正直な話、よくもガルムやモロクより生き残れたもんだぜ。運が良かったにしろそこだけは褒めてやるよ」


 マイラはスッと立ち上がってデザイアから一歩距離を取る。


「あーあ。まぁしょうがないかぁ……ヴァイザーは間抜けだけど魔神クラスの実力者なのは事実。ガルムもモロクも倒された以上は空席を埋める必要はあるもんなぁ。デザイア様が黒欲聖典(テスタメント)を召集なさるのも無理からぬことです。俺は正直反対ですが、ノヴァとの約束を反故にするわけにもいかないでしょうし……」


 本当はこんな事を言いたくはない。同郷で犬猿の仲であるノヴァリンドが魔神の席に座るなど我慢ならない。マイラとノヴァリンドは2人ともデザイアのカリスマにやられ、心を掴まれた経緯を持つ恋敵同士である。黒欲聖典(テスタメント)の中で魔神という立場を利用し、主人の側に居ても許されるマイラだけの特権を恋敵と共有することになるのは癪だ。単純にデザイアとの時間を邪魔されてしまうのが嫌なのだ。

 しかし、ここで我が儘を貫いてデザイアに嫌われるなどもっての他。もしデザイアがマイラの我が儘を聞き入れてノヴァリンドとの約束を反故にしたとしたら、今後マイラ自身が何かしら約束した時にノヴァリンドにやり返されるのは目に見えている。

 マイラの打算的な考えを見抜きながらもデザイアは鷹揚に頷く。


「その通りだマイラ。それに私は今最も楽しんでいる。ヴァイザー、モロク、そしてガルムを滅ぼされ、2柱の魔神が反旗を翻しても尚、私の心は浮ついているのだ」


 デザイアは肘掛をバキバキと握り潰し、石とも金属とも取れる玉座の欠片を手の中で砂粒の様にグズグズに砕き、ザラザラと床に撒きながら肩を揺らして笑う。


「くくく……この高揚した感覚は筆舌に尽くし難い。私の全てを使う価値がこの世界にはある様な気がしてならないのだ」


 全身から溢れ出るオーラがうねりを上げてデザイアの気持ちを表している。ルークフィンは胸に手を当て嬉しそうに顔を綻ばせる。


「ついに見つけたのですなぁ。ご自分で見出されるとは流石デザイア様。それも生まれ故郷で、とは……運命を感じずにはいられません。出来ますれば、その喜びを吾輩が献上しとうございました」

「お前は私のためによく尽くしている。お前もだマイラ。私はよい部下を持った」

「勿体なく……」


 ルークフィンとマイラは同時に頭を下げ、最敬礼でデザイアの感謝を受け取った。デザイアは2人の反応に満足した後、玉座から立ち上がって空中に浮かぶ。そのまま壁に向かって進み、手をかざすだけでメキメキと穴が開いた。強引な形で外に出ると、両手を開いて迎え入れる様に天を仰ぐ。


「──罪重(カルマライズ)レベル3──無限界廊《インフィニティ・ワールドポータル》」


 デザイアは溢れ出すオーラを前方に集約させる。右手をかざすと、黒く巨大な大穴が開いた。金色の瞳が光り輝き、ポータルの先にいる3つの影を見据えた。


「機は熟した。黒欲聖典(テスタメント)よ、我が元に来たれっ」

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