441、目的確認
アセリアに手紙を送り、返事を待たずに魔導戦艦は魔導大国に向けて真っ直ぐ飛んでいく。
「アリーシャさんのお知り合いに何か言う気はありませんが、このまま入国して大丈夫ですか?」
ティオは困り顔で首を捻る。その質問にブルックが疑問を感じ「どういう意味だ?」と質問で返す。
「だって、前回の龍球王国ではいきなり巨大魔導弓を撃たれましたよね? しかも警告無しで。龍球王国は良くも悪くも魔法にそこまで比重を置いてないので被害も少なかったでしょうが、魔術に特化した大国の防衛魔法なんて想像したくもないです……」
言われてみればそうである。龍球王国ではアキマサに書状を送り、入国のお墨付きを貰ったにも関わらず攻撃を受けた。超合金ルイベニウムの硬さか、それとも魔法効果で浮力と同時に付与される防御能力の向上が魔導弓の攻撃力を上回ったか、あるいはその両方か。いずれにしろ命を拾えたのは運が良かったと言える。
ティオの疑問にブルックはハッとして口を噤む。当然今回も同じ結果が考えられるから何も言えなかった。それを見てセオドアはニヤリと笑った。
「おっと、こいつは盲点だったぜ。龍球のゴタゴタに巻き込まれてすっかり失念してたが、そういえばそんなこともあったなぁ。どうなんだ? 聖女さんよぉ?」
聞かれたアリーシャは首を小さく横に振る。
「──その点に関しては何とも言い難いところがあります。私の友人であるアセリアは領主ではありますが王ではありません。それなりの権限を有していても、四賢冠クラスが我々に敵意を持てば問答無用で攻撃がなされることでしょう」
「えっ!? ちょっ……待ちなっ! それヤバくないっ!」
アリーシャの悲観的な言葉にレナールが焦る。アドニスは腕を組みながら目を閉じる。
「端的で分かりやすい表現だが、語彙力をどこかに置いてきたようだな」
「はぁっ?! あんた誰に向かってそんな口を……っ!」
レナールは拳骨でもするかのように袖を捲り上げるが、ブルックが喧嘩の仲裁に入ったことでレナールは振り上げた拳を下ろした。
「……ったく、次ナマ言ったら承知しないよ?」
「申し訳ない。アドニスはついつい嫌味を言ってしまうのです。私からも謝罪を……」
ランドルフがアドニスの代わりに頭を下げ、レナールの留飲を下げる。
「でも本当にどうしましょうか。このままでは魔導大国の防衛魔法に阻まれてしまうのではないでしょうか?」
リディアの問いかけに対する無難な答えは、手紙の返信を待って防衛魔法の射程外から徒歩で入国する方法だ。
龍球の時もアキマサから入国許可の返信が届いたにも拘らず攻撃を仕掛けられた経緯を鑑み、威圧感を持たせる魔導戦艦での接近を排してこっそり入国を試みようという提案。
だが、この方法は攻撃はされないとしても時間ばかりが掛かってしまう愚策。新たな魔神の襲来を考慮し、今回ばかりは入国許可を信じて強行突破も手である。
「頭を捻っているところ申し訳ないけど、そんな必要はないよ」
ピシャリと言い放ったのはルイベリア。艦橋に集まったみんなの耳目を集めたところでルイベリアは口を開いた。
「言い忘れてたんだけど、僕は魔導局の人間なんだよね〜。魔導大国への入国の手順は誰よりも良く知っているつもりさ。行ったことないけど」
「?……いや、行ったことないのかよっ」
「うん。でも安心して良いよ。こういう日のためにシミュレーションはバッチリだからさっ!」
パチンッとウィンクをするルイベリア。アレンは「……ふ、不安しかない」と呟いた。
「それよりも問題は機界大国側じゃないかな?……ん?……いや、だから僕がいいたいのはだよ? 問題なのはアキマサ君のコネクションでしょってこと。龍球王国で入国許可が下りたのに攻撃を仕掛けられたんだから、まだ失敗してない僕よりも信用ないでしょ? ね?」
ルイベリアの質問に全員が沈黙で返す。たった1人、ブリジットだけは呆れた顔で冷たく言い放つ。
「……どっちもどっちでしょ……」
*
件のレッドたちは機界大国に行く前にオーギュストの要塞に向かっていた。新たな魔神に立ち向かうためには更なる戦力が必要なのだ。
「まぁ……無理でしょうね」
グレゴールは肩を竦めた。
何故なら誰もが恐怖するデザイアの命令でも、自分の手を汚すことがなく部下に丸投げする怖いもの知らず。オーギュストの性格上、戦いにすら参加することはないと確信している。
ではどうしてオーギュストに接触するのか。答えは明白で、もしもの時に備えて牽制する必要がある。戦うつもりなら覚悟しろと。
「チッ、気が乗らねぇぜ。あのピエロに助けを請うことになるとはな……」
ドラグロスは腕を組んで露骨に嫌な顔を見せた。レッドは不思議そうにドラグロスに尋ねる。
「オーギュストさんに何か問題があるの?」
「ああ、野郎は掴みどころのねぇ奴だ。俺やグレゴールほど単純なら可愛げがあるってもんだが、性根がねじ曲がってやがるから簡単には本性を現さねぇだろうな。つっても、ルークフィンとマイラが相手じゃ仕方ねぇ。あんな野郎でも仲間に引き入れとかねぇと……」
煮え切らない言い方だが、グレゴールもドラグロスの発言には大きく頷いている。
「おいおい、ちょっと待てよ。そのオーギュストって野郎は本当に強ぇのかよ? 聞いている限りじゃオメーらもそいつの実力を拝んだことがねぇって感じだぜ。本当は弱ぇんじゃねぇか?」
ディロンは疑問をぶつける。戦うこと自体を避け、部下に丸投げしているオーギュストが強いとは到底思えない。
「確かにオーギュストちゃんの実力は見たことないけど、あのデザイアちゃんが選抜した魔神よ? 例外があるなんて思えないわ」
「そういうこった。寝首掻かれてもウゼェだけだからよ。ぶっ殺されたくなけりゃ大人しくしてろって言っとかねぇと気が済まねぇんだ。……そういや、フェイルのクソガキにも気を付けねぇと。あいつはいきなり矢をぶっ放してくる可能性があるからなぁ。一番危険なのはあの女かもしれねぇ……」
頬を掻きながらオーギュストの最側近であり弓兵のフェイル=ノートを思い出す。百発百中の名手であるフェイルが勧誘を黙って見ているなど考えられない。
「……今居る全員でオーギュストの野郎を囲もうと思ってたが、ここは無難に俺、グレゴール、そしてレッド。この3人で勧誘に行こう」
ドラグロスの提案には静観していたライトが一歩前に出る。
「何? もし撃破を狙うなら俺たちも必要ではないか? 露払い程度ではあるが、ある程度は戦えるつもりだ」
「その必要がねぇための勧誘だ。野郎は元々戦いにあまり関心がない。だがフェイルはデザイアの不興を買わねぇように立ち回る。口火を切るとすりゃあの女だ。とはいえ、さほど強くねぇからぶっ殺さねぇように気を付けねぇと……」
ライトはその瞬間にハッとしてディロンを横目で見る。
「あ? よせよ。俺は殺さねぇって。女を殺すのは寝覚めが悪ぃからな」
「じゃぁあたいは? あたいの時本気で斧を振り回してたよね?」
「ラドは……いや、あん時は俺もまだまだ弱かったというか……なぁ?」
ウルラドリスに詰め寄られるディロンはレッドに助けを求めるが、擁護をすることは出来ないのでへらへらと笑って後頭部を触る。一連のやり取りを見てドラグロスはため息を吐く。
「いや違ぇよ。お前が殺されんだよ。遠距離から何も出来ねぇ内にな」
「あ? なんだとこの野郎?」
「すぐ喧嘩を買うんじゃねぇよ。それからフェイルの強さはそれなりだ。俺に比べりゃ誰でもそこそこだが、お前らは殺されちまうよ」
ディロンやライト、ついでにウルラドリスを指差しながらドラグロスはきつめに言い放つ。まったく笑えない雰囲気にピリッとした空気が流れた。そんな中、レッドは(え? その3人が駄目なら俺も殺されるんじゃ……?)と心臓を跳ねさせたが、口を挟む空気ではなかったので押し黙る。
「そう言うことならば仕方がない。勧誘は3人に任せるとして、我々は山に降りてみるとしよう」
グルガンはオーギュストの要塞の直下にある山を指差す。グレゴールは「あら? あの山に何かあるの?」と不思議そうに聞く。
「ドワーフの王国があるらしい。龍球とは長い付き合いがあるとアキマサから聞いたのだ。何でも上質な金属が掘れるらしくてな。見ておきたかったのだ」
「グルガンも鍛冶に興味があるようだからな。一肌脱いでやろうと思ってよ」
アキマサはあっけらかんとした様子で自分の腕をパンッと叩いた。
「それは丁度良いわねっ。抜け目ないあなたたちのことだからドワーフちゃんたちも仲間に加えようと思ってるんでしょう?」
「ご名答。ただし戦闘面ではなく、ドワーフの技術力でさらに上の武器を精製することを目的としたものだがな」
ドワーフは小人族と呼ばれ、成人しても身長はヒューマンの半分から少し上程度。その分、他の種族と比べて筋肉は多めに詰まっているが、小回りが利かないのが特徴的。斧やハンマーなど大味な武器との相性は抜群だが、戦力になるかと問われたら疑問が残る。その点、鍛冶や小物作りに特化した器用さを持ち合わせているので、仲間になってくれるなら心強い側面もある。王国に寄るなら是非とも仲間に加え入れたいものだ。
ドラグロスのちょっとした懸念から、土壇場でオーギュストの勧誘とドワーフ王国に分かれることになったレッドたち。
これからの動向に不安が残るが、そんなことなどお構いなしに蚊帳の外でスロウは大きなあくびをしていた。




