↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜  作者: 大好き丸
19章 機界大国 編①

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
440/510

440、裏面

 ラストゥスはメリオラと廊下を歩く。進行方向に長身の男が壁にもたれかかりながらこちらをじっと見ているのに気づいた。

 視線が合った瞬間、男は壁から勢いをつけて離れる。思ったよりもその勢いが強かったか、よろめきながら2、3歩前に出てしまう。運動が苦手なのか、バランス感覚はあまり良くないようだ。そのままふらつくようにラストゥスに向けて歩き出した。


「おやぁ? アーノルド君じゃないですか。こんなところで何をしているのですかなぁ?」


 男の名はアーノルド=ジューダス。

 身長は192cmと高いが猫背で若干低く見え、挙動がおかしい変人。手足が異様に長い上に、丈が脛のあたりまである長すぎる白衣のコートを着ている。肩まで伸びる白髪で丸眼鏡をかけており、いつも三日月のような口の形の笑い方をしている。


「吾輩がどこで何をしようと勝手ではないかなぁっ? んんっ?……とか何とか言って隠すほどのことではないでぇすね。あなたの拾って来た小ネズミが起きた様なので今後のために顔合わせしておこうと思いまして……」

「へぇ〜? これは耳が早い。情報は筒抜けかぁ」

「ふぅんっ! 吾輩を前に秘密など無駄だと知り給えよっ! そんなことよりも君も懲りない男でぇすねぇ~。スティーブだけでなく、あのような小ネズミを拾って来てしまうとは……」


 アーノルドはニヤついた顔でラストゥスの目と鼻の先まで近寄って話し掛ける。パーソナルスペースなど有ったものではないが、ラストゥスは特に嫌がることは無い。


「おやぁ~っ?」


 ラストゥスの陰に隠れるように白衣にしがみつくメリオラの姿を視界に捉える。


「はぁ~っ……全く悪趣味なものでぇすなぁ。実験体を侍らせて悦に入るとは……」

「おやおや、良くないねぇそういう言い方は……。アーノルド君は愛すべき子供が居ないからそういう風になっちゃうんだよぉ。もっと視野を広げて、僕のメリオラちゃんを愛でるだけの余裕を……」

「必要ありませんなぁっ! 何故なら吾輩には愛すべき主任が居ますからっ!」


 バッと両手を広げて天井を仰ぐ。この時ばかりは猫背であることを忘れてしまったかのようにピンッと背中が伸びる。


「はぁ……まぁ、趣味趣向は人それぞれといいますからねぇ……」

「おぉっとっ! こんなことをしている場合ではない。吾輩は忙しい身なのでぇすよっ!」


 アーノルドはラストゥスの横を颯爽と通り過ぎようとするが、見えない糸に引っかかった様に体が前に進むことを拒み、まるで抗えない力が働き、一気に持っていかれる様に背後に引っ張られた。この感覚は常日頃から感じている重力に似ていて、不思議なことに横に落ちた。一瞬で横に引っ張られる重力は消失したが、決して良いとは言えないアーノルドの身体能力では態勢を立て直すことが出来ずに無様に尻餅をついた。


「……ななっ!……実験体如きがぁ……っ!」


 アーノルドの目はメリオラを睨み付ける。当のメリオラはラストゥスの背後にサッと隠れた。


「あ〜らら。大丈夫ですかアーノルド君? しかしいけないなぁ……起きて間もない傷心の男の子を虐めようなんて悪趣味でしょう? ほらほら、そんな目をせずに僕の手を取って……」


 アーノルドはラストゥスの手を取ることなくサッと立ち上がった。


「ふんっ! もういいっ!……興が冷めました。あなたが何を考え、どうして回収に至ったか……ただ、その答えを知りたかっただけなのでね」

「そうですか。それで? 知りたいことは知れましたか?」

「それは、今からあなたに直接問い正そうと思いましてね……っ!」


 白衣の内ポケットに忍ばせた何かを取り出そうとした時、「そこまでだ」と背後から声をかけられた。振り返ると黒いフードを目深に被ったアサシンのような見た目の男性が立っていた。


「クリシュラ……」

「おおっ! 助かったよクリシュラ君っ! アーノルド君が通してくんなくてさぁ〜」


 クリシュラと呼ばれた男は漆黒の瞳をギラリと光らせ、2人を見つめる。


「……主任がお呼びだ」

「僕らを?」

「正確には十有指(シュラウド)全員を召集している。……来い」


 顎をしゃくってついてくるように指示する。アーノルドはラストゥスに向き直り、額がくっつくほど顔を近寄らせた。


「……これで終わったと思わないで欲しいでぇすねぇ。いずれその化けの皮を剥がしてやるっ」


 バサッと白衣を翻し、アーノルドはクリシュラの横を通り抜けて先に歩いて行く。ラストゥスはそれを見送った後、クリシュラを見た。


「召集ってさ、何のことだと思う? 侵略者のことか、それともレッド=カーマインのことかなぁ?」

「……知らん」


 クリシュラも呆れたように踵を返してトコトコ歩いて行った。


「……みんな愛想良くて楽しいよ本当に。でももう少しフレンドリーであって欲しいよねぇ? メリオラちゃん」


 メリオラからの返答はなかったが、ラストゥスは満足げに2人の後を追った。


*


 デザイアの襲来に無関心を装う『機界大国ジェムクロフト』。

 しかし、新たな魔神が『エデンズガーデン』へ干渉したことにより状況は一変することになる。


 そしてここにもう一つ無関心を装っていた国『魔導大国アイズオブトゥルース』でも動きがあった。


 ──コツコツコツッ


 硬い床を革靴が叩く。

 白くピッタリとしたタイトなスーツに身を包み丸メガネを掛けたまるで秘書のような雰囲気を漂わせる女性が、広い建物内を軽快に歩いて行く。

 目的地に向かって迷うことなく歩く姿に気品が感じられ、建物内を飾る数々の調度品や模様などが絵画の様な美しさを醸し出していた。

 そのまましばらく歩き、ようやくたどり着いた大きな扉の前でドアノッカーを持ち上げて叩く。


 ──コォンッ……コォンッ……


 甲高いノック音。女性は部屋の主に会う前に前髪を気にしながら見える範囲内で身だしなみを整える。ササッと素早く確認した後、小さく咳をしながら喉を慣らす。


 ──ガチャンッ


 大きな扉がゆっくりと開くが、開けた人物は見当たらない。女性は何でもないように扉の開いた隙間からスルッと中に侵入する。

 出入り口付近で女性の顔の大半を占める丸メガネをクイッと上げ、調整した視界の先に部屋の主を発見した。


 アンティークな机の上に資料と冷めたコーヒーを置き、背もたれのない丸椅子に足を組んで座る女性。

 少々癖っ毛な亜麻色の長い髪。眠そうな赤色の瞳の目の下に、濃いめの隈が付いている。赤いローブを羽織った下はグラマラスだが、猫背気味なせいであまり目立たない。


 魔導大国内にある18の地方の1つ『メルティアド』を統治する君主であり、8人の最高位魔法使い(マジックキャスター)『魔導星(スターズ)』の1人。

 『炎の魔導師《マスター・オブ・フレイム》』アセリア=クラウ=メルフロント。


 アセリアは気怠そうにチラッと入ってきた女性に目をくれると、すぐに手元の資料に目を落とした。彼女の興味なげな態度に女性は肩を竦ませる。それでも毅然とした態度でアセリアへと歩み寄った。


「また徹夜ですか? アセリア様」

「まーねー……」

「根を詰めるとお体に障ります」

「んー。でも生徒たちは今一番重要な時期だしー、あたしも休んでる暇無いというか……世界的にさ、デザイアだの魔神だのと大変だしねー」


 アセリアは書類に目を通しながら答える。


「講演会は一旦中止されてはいかがですか? 世界情勢を鑑みれば、今は上層部と動かれるのが良いと愚考いたしますが……」

「言ったでしょー、生徒たちも重要な季節だって。次の魔法試験で好成績を残したい生徒のためにも講演は必須。毎年恒例なんだし、今年だけやめるってのも不公平でしょー?」

「しかし四賢冠(リゾーマタ)からの要請もございますし……。はぁ。畏まりました。私はアセリア様の指示に従います」

「分かればよろしー」


 しばらく目を通していた書類を投げ捨て、手に取ったコーヒーカップに口をつけながらチラッと女性を見上げる。


「……それで? あたしに何の用があるのかな?」

「はい。アセリア様にお手紙が届いております」


 スッと差し出された手紙を手に取ると差出人を確認し、眠たげな目をカッと見開いた。すぐさま中身に目を通すと、鬼気迫る表情からニヘラと顔の輪郭が崩れるほどの嬉々とした顔へと変化する。初めて見た百面相の如き早変わりに女性は目を白黒させる。


「……エマ」


 アセリアの秘書であるエマは名前を呼ばれて冷静を取り繕う。


「はい。いかがいたしましたか?」

「事情が変わったから、半年間の予定は全部キャンセルでお願いね」

「はい。……は? 講演会は?」

「中止。そんなことをしている場合じゃなくなったので……」


 先ほどの溶けた様な表情をキュッと引き締めながら椅子からスッと立ち上がる。


「す、すべてをキャンセルとなりますと些か……いったいお手紙には何と書かれていたのでしょうか?」

「旧友があたしを訪ねてくるんだよ。それだけで全ての用事をひっくり返して余りある」

「し、しかし、立場上……はぁ。畏まりました」


 アセリアのわがままに振り回されるエマは迷惑そうに見えるが、ちょっと嬉しそうにも見えた。踵を返して部屋から出て行ったエマを見送ったアセリアはもう一度手紙に目を通しながら、ほぅっと湿り気のあるため息をついた。


「ああ、アリーシャ。まさかまたあなたに会える日が来るなんて……」


 アセリアは目を潤ませながら手紙を抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。