438、行動開始
デザイアたちの戦力増強に関する情報をドラグロスとグレゴールから手に入れたレッドたちは、次なる目的地に向けての準備に入っていた。
「おいおい、俺らの話を本当に聞いてたのかよ? 生半可な連中じゃ戦力にならねぇことぐらい分かんだろ? 相手は魔神なんだぜ?」
ドラグロスは呆れながらグルガンに苦言を呈す。
「ああ。よく分かる。だからこそ国との連携は必須だ。何が起こっているか、どうしてこうなったかを教え、デザイアの支配を受け入れるのではなく我々と共に抗う土壌を作る。共通の敵を出汁に仲間を増やすことでデザイアへの反抗心を育てるのだ」
「……ったく、そんな暇があるのかどうか分かんねぇぞ? ルークフィンの野郎はともかく、マイラのガキは我慢が利かねぇ。現状を知って怒り狂ってるのが目に見えるぜ」
苦虫を噛み潰したような顔で苛立ちを見せるドラグロスだが、グルガンは至って冷静にしている。
「その2人がどれほどのものか、あるいはどういう性格かなど知る由もないが、あまり時間を掛けていられないことは重々承知だ。アリーシャの提案で二手に別れるというアイデアは渡りに船と言えよう」
「もしかしてだが、ガルムの件で調子付いてんじゃねぇよな? あんなまぐれ当たり、他じゃあり得ねぇよ」
しつこく忠告を繰り返すドラグロスにグルガンは顔を上げた。
「落ち着けドラグロス。敵を良く知っているからこその焦りなのだろうが、闇雲に突っ込んだところで勝ち目など無いことは貴公が一番よく分かっているはずだ。あいにくとこの世界の住人で魔神に比肩し得る実力がある者など限られている。明確に上だと思えるレッドも、自分の本気の力に耐える武器を持ち合わせていないのが現状だ」
ドラグロスはグルガンの言っていることを頭の中で整理しているのか、困惑気味に目を泳がせている。
「……情報は力だということだ。敵を知り、己を知り、その上で最適解を導き出す。弱点さえ掴めればどんな相手にも対処出来る」
「だからってこの戦力分散は不味いだろ? レッドや俺たち魔神の内1人も魔導大国について行かねぇってのはいくら何でもやり過ぎだっ」
話し合いの中で決した次なる目的地。機界大国と魔導大国の同時入国。アリーシャのコネを頼って魔導大国に入国し、説得を試みる。同時進行でレッドたちはオーギュストを仲間に引き入れることを目標にしつつ機界大国へと移動して、デザイアとの最終決戦に向けて準備を整える。
時間に猶予がないからこその分散と分担を『戦力の低下』と見たドラグロスは、敵がこちらの動きに気付いた際の各個撃破を危惧していた。レッドや魔神クラスが1人でも居れば守れる命も取りこぼす可能性がある。
しかしドラグロスの言い分にアキマサが異を唱える。
「言いたいことは分かるぜドラグロスさんよぉ。つっても、オーギュストって魔神を仲間に引き入れるんなら最大戦力で行かなきゃ駄目だぜ。交渉にはそれ相応の対価を必要とするように、交渉相手も欠かせねぇ要素だ。だからって他を疎かにしていいわけねぇ。その間2手に別れて同時進行。これが最善なのさ」
諦めたように肩を竦めるアキマサ。こうまで言われてようやく冷静さを欠いていたことに気付くことが出来たドラグロスは、腕を組んで唸りながら目を閉じた。
「話はまとまったな」
スッとブルックが立ち上がる。
「私たち剣聖と七元徳、そして月光の乙女は魔導大国に向かう。ルイベリアの魔導戦艦を使わせてもらうが問題ないか?」
向けられた視線にグルガンはコクリと一つ頷いた。
「我らは浮遊要塞を使う。良いか? グレゴール」
「ええ良いわよ。もう魔王ちゃんたちも居ないし、部屋はいくらでもあるから好きなように使っちゃって」
「では遠慮なく」
そのやり取りにドラグロスはフッと鼻で笑う。
「何だったら俺の浮遊要塞でも良いんだぜ?」
「む? いや、流石にあの怪物と一緒はキツイというか……」
「へっ、冗談だ」
場が和んだところでシズクがスッと手を上げる。
「ん? どうしたシズク? 何か気になることでも?」
アキマサの質問にシズクは手を下ろす。
「……今回の一件、特に問題なさそうであれば国に残ろうと考えていましたが、これ以上ないほどの由々しき事態。このまま指を咥えて見ているのも辛いものがあります。よければあたしも旅に同行させていただけませんか?」
「何? お前も来るのか?」
「ええ」
ニコリと笑うシズクにドラグロスが牽制する。
「遊びじゃねぇぞ嬢ちゃん。危険に首を突っ込むってことは、その首を刎ねられても文句は言えねぇんだからな?」
「危険は承知です。それにあたしは機界大国には留学経験があり、地理を知り尽くしています。必ずお役に立てます」
シズクの自信満々な態度にドラグロスは感心する。アキマサはニヤリと笑ってシズクを後押しする。
「剣の腕も確かだ。おまけに賢い。俺は賛成だ」
「我も構わない」
龍球王国から新たにシズクを加え、話し合いは決着した。
*
「あ、そうなんですね」
レッドやライトたちは話し合いで決まったことを聞いて頷いた。アリーシャから別れて行動するなどと不穏なことを聞いて内心穏やかではなかったが、剣聖や七元徳も一緒に行動すると聞いて安堵した。単独行動でなかったことだけが救いである。
「魔導戦艦での移動ではないと……じゃ、ちょっとオリーやルーさんに会っとかないと」
「そうだな。一時の別れとはいえ、しばらくオリーさんたちと会えなくなるわけだから。必要なことだ」
ライトは嬉しそうに笑う。オリーは魔導戦艦の操舵手であるためにレッドたちとは別行動になる。寂しい半面、頑張っているオリーが誇らしくもある。
「あぁ? やめとけやめとけ。辛気臭ぇなぁ……」
ディロンは即座に否定する。
「オメーら分かってんだろ? こっからは一気に最終決戦まで一直線だ。生きてまた同じ空気を吸いてぇならフラッと言ってフラッと帰る。このスタンスの方が気負わなくて良いんだよ」
「ディロンってば何か分かった風なこと言うじゃん」
「生死が懸かったデカい戦いの時はそういうジンクスってもんがあんだよ。古来からなぁ」
ウルラドリスとの会話で得意満面のディロン。ライトは首を小さく横に振りながら呆れた様子を見せた。
「それは貴様のスタンスだろ。絶対帰ると意気込んで戦いに臨むためにも大事な人との挨拶は必要なんだよ」
「分かってねぇなぁ。命張る時にそいつの顔がチラついてみろ、肝心な時に一歩踏み出せなくなんぞ?」
「……このことについては貴様とは意見が合いそうにないな」
ライトは肩を竦め、ため息をついた。ディロンは「忠告はしといたぜ」と言ってウルラドリスと歩き去る。
「いやぁ、さすがに百戦錬磨のディロンさんが言うと重みが違いますね。俺じゃ出せない貫禄だ」
「あれは捻くれてるだけだよ。絶対に真似しない方が良い。……さ、オリーさんのところに行こうか」
レッドとライトは気を取り直して魔導戦艦に急いだ。
限られた時間と選択肢の中、各々のやるべきことを胸に新たな国へと移動を開始する。




