431、思わぬ事態
レッドはオディウムを連れ、グルガンと共に聖王国に転移した。
そこで待ち受けていたのは歓迎ではなく焦燥と敵意であった。
「敵襲っ!! 敵襲っ!!」
聖騎士たちはレッドたちの急な出現に味方を呼ぶ。
「待った待ったっ! 俺たちは敵じゃないってっ!」
警備を固めていた聖騎士はガチガチに装備を整えてレッドたちを迎え討とうとしたが、隊長格の男が「待てっ!」と止める。
「魔族だっ! エルフじゃないっ!」
聖騎士たちは獅子頭にハッとして剣を鞘に納める。つい最近、聖王国を救った魔族のことを思い出す。
「失礼いたしましたグルガン殿。今この国はエルフの侵攻を受けておりまして、常時警戒中なのであります」
「エルフの? しかしそんな素振りは……いや、話は猊下に聞こう。猊下に謁見をお願いしたい」
聖王国を救ってくれた英雄であるグルガンならと、すぐさまローディウス教皇に話が行き、謁見の許しを得た。部屋に通されるとローディウスは両手を広げて歓迎する。
「レッド、グルガン殿。よく来た」
「お、お邪魔します」
フカフカのソファに座らされ、給仕がお茶を運んでくる。
「早速だが猊下。何があった?」
ローディウスは手を挙げてグルガンの言葉を一旦制すと、部屋から部下を追い出した。
「今はローディウスで良い。君たちが龍球へと出発してからしばらくは平和だったのだが、突如としてエルフが侵攻を開始したのだ。どこかからか、七元徳の留守を聞きつけたのかもしれん。またはガブリエル元教皇の退位が引き金を引いたのか……」
「ふむ。それもあるだろうが、十中八九デザイアによる侵攻だろう。ドラグロスからの情報ではデザイアは大陸のほぼ中央に位置するエルフの国『神都パラディス』に降り立ったそうだ。エルフを使って侵攻を開始したとしても不思議ではない。獣王国の消滅と神選五党の全滅により、ならず者たちという緩衝材が消えたことで動きやすくなったおかげでもあるだろうが……」
「……獣王国はともかく、神選五党の壊滅に消極的だった背景にはエルフに対する牽制があったのか……?」
「いや、そこまで考えていたかは分からぬが、ある種の盾になっていたことは間違いない。どの道、デザイアが深く関わっている可能性が高い」
グルガンの指摘にローディウスは頷く。だがグルガンとしてはどうしてここまでの危機が放置されているのかという疑問が湧く。
「ローディウスよ。どうしてこのことを我らに共有してくれなかった? 通信はいつでも開いていたのに……」
「エルフの侵攻は寝耳に水でな。それにそれほど激しい侵攻でもなければ、七元徳が居ない今でも膠着状態にまで持ち込んでいる。持ち堪えられそうだったので少し安心してしまっていた。本来すぐにも君たちに連絡をすべきだっただろうが、対応を間違えていた様だ」
ローディウスは深く反省する。グルガンは「反省は後だ」と切って捨てる。
「とにかく、聖王国の有事に対応すべきだな。七元徳を返還し、聖王国の防備を固めるべきか」
「しかし、デザイア軍に対応している君たちの戦力を削ぐ狙いであれば、奴らの掌の上で踊らされることになりかねん」
「ならばそれ相応の戦力を聖王国に送ることを約束しよう」
「それはありがたいが……ところで君たちはどうして今ここに?」
聖王国の事態回復に努める目処が立ったところで、ローディウスはレッドたちの訪問に着目する。
「ジャガラームに行こうと思ってまして」
「ジャガラーム? 何故直接行かなかったのだ?」
「グルガンさんがジャガラームに行ったことがなかったので、聖王国を中継して行く必要があるなって……」
レッドの説明で納得する。
「なるほど。ありがたいことだ。私たちには特に都合が良い。しかし、知っての通り、ジャガラームは場所的に神都パラディスと聖王国の丁度真ん中にある。ジャガラームは中継基地として使用されている可能性がある。十分に気をつけなければならないぞ?」
「えぇ……」
「君の敵ではないだろうが」
ローディウスはニヤリと笑う。レッドは焦って「いやいや」と否定する。オディウムがレッドの背中からひょこっと顔を出す。
「そんな奴ら、俺様がぶっ飛ばすぜっ」
「おぉ……居たのか? 『比類なき力』も力を出すなら問題ないな」
「まぁなっ」
オディウムは胸を張って主張する。グルガンはレッドの肩に手を置く。
「申し訳ないがレッド。ジャガラームにはオディウムと共に2人で行ってくれ。我は一度龍球王国に戻って戦力を聖王国に送る様に話をつけてくる。後で合流しよう」
「あ、はい。分かりました。でもジャガラームの場所が……」
「大丈夫だ。ある程度の位置は既に掴んでいる。用事が終わり次第ジャガラームに向かうので、待っていてくれるか?」
「はい。こちらも大丈夫です」
レッドとグルガンの今後の動きも話し合ったところでローディウスが頭を下げた。
「我が国のために申し訳ない。よろしく頼む」
*
グルガンと別れ、レッドはオディウムの背中に乗ってジャガラームへと向かう。その道中、ローディウスの言葉を思い出していた。
「言い忘れていたが、ジャガラーム方面にはエルフの軍が陣形を展開している。君たちの敵ではないだろうが、念のために警告はしておくぞ」
10m近くまで巨大化したオディウムの背中の上でキョロキョロとエルフ軍を探す。しかし探すまでもなく前方に陣形が展開されているのを確認する。
「本当にいるじゃん。あれ全部エルフ?」
「そんなん気にしてられねぇよっ! 邪魔するなら跳ね飛ばして行くぜっ!!」
ゴリラの様に腕も使った四足歩行で走るオディウム。エルフたちは陣形を整えながら弓を構えた。容赦なく射るエルフたちだが、オディウムの体に刺さるわけもなく。
──ドカカッ
何人かを跳ね飛ばして突っ切った。エルフたちは態勢を立て直して背中にも弓矢を放っていたが、オディウムの足が早かったので、その内見えなくなった。
まったく問題なく久々のジャガラームへと到着したレッドたちだったが、やはり懸念通りジャガラームはエルフたちに占領されていた。
「……ま、そりゃそうか」
ここにくるまでに見たエルフ軍を考えれば当たり前の光景。また面倒なことになりそうだなぁと、レッドも呆れる様に頬を掻いた。




