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「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜  作者: 大好き丸
18章 龍球王国 後編

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426/436

426、覚悟の差

 一歩、また一歩。ゆっくりと歩きながらナガヨシは野太刀の柄を持ち、鞘から刀身を引き抜く。

 長い。100cmを優に超える長い刀身。

 ナガヨシの持つ野太刀は最上大業物に数えられる魔刀。その名を『風林火山』。

 風、木、火、土の4つの属性を内包するツキグマ家の家宝。属性を使い分けることも出来れば、全て一気に使用することも可能。技も豊富で切れ味も抜群の名刀である。


 ツキグマ家が誇る最強の刀を担いでシュウザの駕籠の前に立つ。


 ──ボッ


 流れるような動作から袈裟斬りに駕籠を真っ二つにする。ズルッと斜めにズレた駕籠を野太刀の峰でコンッと小突くと、まるでハンマーにでも殴られたように砕けながら吹き飛んだ。風の加護による衝撃波が見舞われた影響だろう。それなりに重量もあったので、地面に転がる音は小屋が崩壊していくくらいの騒音となる。


「……あ~あ。あれまだ使えたのに……」


 コジュウロウは勿体なさそうに肩を竦める。シュウザのような巨漢を乗せて問題なく移動可能な駕籠は物資運搬に重宝する。シュウザのような存在するだけで害悪の存在とは打て代わって有用な乗り物な上、無傷の状態だったので出来れば今後も活躍させたかった。

 ただ、破壊した行為を咎めることなど出来ない。ナガヨシの癇癪を抑えることなど自殺に等しい。普段は温厚で、自分のことなら度を超えた悪口すら許容する男の器が、ひとたび決壊した時の苛烈さは筆舌に尽くし難い。

 主人であるヒビキですら見たことのない本気の怒りを前に、周りは自分が標的にならぬよう息すら止める。狙いはただ一つなので、ナガヨシの前に出ない限りは命の危険は無いと分かっていても体は無意識に反応してしまう。

 ヨリマロが放った言葉『禍津神を超える大怨霊となってこの国に災いを(もたら)す』。あの言葉が如何にちっぽけで、如何に空虚なものか、ナガヨシから発せられる殺気が物語っている。


「……出てこいムネヤス。残るはお前1人だ」


 ナガヨシの言葉で観念したか、ムネヤスは乱れた服を整えて立ち上がる。ピッとした佇まいは年相応の威厳を感じさせたが、焦燥や死の恐怖からかギラリと光る眼光は鳴りを潜め、目が泳いで明らかな動揺を見せていた。どんなことでも動じない鋼の意思があるのかと思いきや、命の危機に瀕すれば天狗とて感情を面に出す。

 ムネヤスの顔を見てさらに怒りが湧いたナガヨシは刀を握る手に力を込める。今にも容赦なくぶった斬るかと思われたその時、ムネヤスは右手を前にかざしてへっぴり腰となった。


「ま、待てっ!! ナガヨシっ!! 儂を殺せばこの国に災いが起こるぞっ!!」


 その言葉にナガヨシの手は止まる。ナガヨシが逡巡しているのだと悟り、喜色満面で好機と捉えたムネヤスは立て続けに語り始める。


「ふ、ふははっ! 何故か知りたい顔だなっ! 良かろうっ! 特別に教えてやるっ! 儂の命を助けるならのぅっ!!」


 ──バキョッ


 ムネヤスの側にあったヨリマロの駕籠が内側から破壊される。音に釣られて視線を向けると、蔦が巻き付くように地面から生え、地中に飲み込むように引きずり込んで原形がなくなる。


「や、やめろと言っておるのが分からんのかっ!? 儂は……ええいっ! 儂とヨリマロは『ブラックガーデン』の幹部じゃっ!! お前らがヨリマロを殺したせいで後がなくなったわっ!! もし儂が死ねば組織との全面戦争じゃぞっ?! 良いのかそれでっ!!」


 コジュウロウはその名に聞き覚えがあった。

 『ブラックガーデン』。世界を股にかける犯罪シンジケート。人身売買、窃盗、強奪、武器や麻薬の製造から密売、国政を揺るがす内紛や戦争を引き起こすなどを裏で手引きをしている組織であり、その存在は実しやかに囁かれている。

 もしもそんな組織が実在するならきっとヨリマロも所属しているだろうと笑い話にしていたが、まさか本当に、しかも幹部だったとは思いも寄らない。とはいえ驚愕するほどではなく、やっぱりそうかという納得しかなかった。


「何を隠そうヒズミを抱えているのもブラックガーデンじゃっ! もう分かるじゃろうっ?! 儂がここで死ねばお前たちは確実に今代で滅ぶっ!! つまりは儂を生かすことが、この国を守ることに直結するということじゃっ!! どうじゃっ?! 儂は生かすに値しようっ!!」


 ムネヤスは両手を広げてアピールする。ナガヨシにはもちろんのこと、周りを囲む忍びたちにも聞かせる大々的な宣言。たとえ殺さなければならない存在であろうとも、ムネヤスの持つ多様な人脈と犯罪集団の手口、ブラックガーデンの動きを予定段階で入手し、裏ルート等を確保出来れば、他の国を差し置いてブラックガーデンの深部を握ることも出来る。

 清濁併せ持つことを理想とされる忍びたちの心をくすぐる言い分だ。死にたくないが故の口から出まかせでないなら、生かしておく方がメリットはある。


 ──ベキィッ


 しかしそんなことなどお構いなしにムネヤスの駕籠が蔦に破壊される。ヨリマロの駕籠と同様に地中に飲み込まれていった。


「……こ、ここまで言って分からんかっ!! お前は何がしたいんじゃっ!?」

「俺が今この場で知りたいのは、お前の選択だ」

「……せ、せん、選択?」


 狼狽するムネヤスにナガヨシは続けて投げかける。


「何故オキノブの妻子を手にかけた?」

「はっ!?」


 一瞬言われている意味が分からなかったが、オキノブがナガヨシに友好的に接していた過去を思い出す。


「わ、儂ではないっ! あの女はオキノブが死んだ時、共に死ぬようカラクリが仕込まれておったのじゃっ!」

「いい加減なことを抜かすなっ!! ならば何故お前の剣が2人を貫いていたっ!!」

「あれは……赤子が煩わしくて……あっいや、オキノブの働きに報いるために小太刀を息子に与えたっ! 主君として当然の……そ、それが何だというのだっ? お前にはあの男の妻子のことなどどうでも良かろうっ?! 関係ないことを持ち出すなっ!! お門違いも甚だしいっ!!」

「お門違い……だと?」

「そんなことよりもオキノブを殺した張本人を咎めよっ!! そやつがオキノブを……カラスマ家を滅亡させた元凶じゃっ!! 儂は関係ないわっ!!」


 関係ないとまで言い切るムネヤスにナガヨシは鬼の如き形相で睨み付けた。


「……刀を抜けムネヤス。反撃の機会を与えてやる」


 ナガヨシは最上段に野太刀を構える。これ以上の問答は無いと悟ったムネヤスは焦り散らかす。今にも泣きそうな顔でコジュウロウを見たが止める気配はない。先の『ブラックガーデン』発言ですぐにも身の安全が保障されると踏んでいたのだが皮算用が過ぎたようだ。


 ここでようやくムネヤスは刀を抜いた。


 大業物『名刀・無明(むみょう)』。


 家宝というほど立派なものではないが、ムネヤスが手入れを怠らないほど気に入っている刀。通常時はよく切れる刀という印象しかないが、ひとたび能力を発動させれば効果は絶大。斬りつけた個所を一時的に麻痺させ、使用不能にすることが出来る。薄皮一枚程度でも効果は発揮され、掠ることさえ危険な毒剣として一部の界隈では別名『番狂わせ』とも呼ばれている。


 そして、ムネヤスの流派は『天降捻流(てんこうねんりゅう)』。捻じりをもって相手を巻き込むことを主とする剣術。食らいついたら離さない、しつこいまでの捻じり突きは、ムネヤスの性格と相性が良い。たったの一太刀。それだけで相手は戦闘中に機能を失い、無防備に首を晒すことになる。


 ナガヨシをここで仕留められれば、きっとコジュウロウは『ブラックガーデン』のことを深堀りするため、最重要人物としてムネヤスを死んだことにしてでも匿うはず。


 何かに縋っていないと立っていられないほどに疲弊した心に、一発逆転の芽を植え付けることで自身を奮い立たせる。ここが正念場だと。


(ふんっ……甘いなナガヨシ。儂に機会を与えず、叩き切っておれば死なずに済んだものを……)


 ナガヨシの刀は長く、間合いも遠い。しかしそれ故に小回りに欠け、剣に振り回されるは道理。さらに、突きに特化したムネヤスの流派は、上段から振り下ろすよりも速くナガヨシを傷付ける。それを知らぬわけもないだろうに天高く刀を構えている。もしかしたら少々斬られたところで構わないと考えているのかもしれない。刀の能力を知らないが故の余裕。


(大方、回復の護符でも持っておるのだろう。それは儂も同じこと。少々斬られたとて構わぬ。最後に勝つのはこの儂じゃっ!!)


 ムネヤスは目をカッと見開き、捻じりを加えながら刀を押し出す。


「チェェェエエイッ!!」


 『岩孔(がんこう)風魔殺(ふうまさつ)』。岩盤をもぶち抜く捻じり突きと、開けた穴に大量の空気を注ぎ、中から破裂させる天降捻流の奥義。

 もちろんこの技でナガヨシを倒せるとは微塵も思っていない。より早く傷を付け、相手の行動を奪うことを念頭に技を放っている。


「──蒼月(そうげつ)っ」


 風林火山の全属性を解放し、この一太刀にすべてを乗せて力いっぱい振り下ろす。

 丁度ムネヤスの刀の切っ先とナガヨシの刀身がかち合う。コンマ数ミリでもズレたらあり得なかった奇跡の瞬間。


 ──ガギャンッ


 砂埃が立ち、ここに集まる全員の視界を遮る。


 ──ドチャッベチャッ


 水を含んだ何かを思い切り投げつけたような音が聞こえた。すぐに突風が砂塵を吹き飛ばし、勝負の行方を見せる。

 そこには当然のようにナガヨシが立っていた。

 ムネヤスは有無を言わさず頭頂部から真っ二つに斬られ、地面の染みになり、血縁以上に大事に扱ってきた刀もバキバキに粉砕される。


「馬鹿だねぇ……。なかなか無いから『番狂わせ』って言うんだぜ?」


 コジュウロウは呆れた顔でため息をついた。


 ナガヨシはオキノブの無念を晴らし、ここに復讐は成った。

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