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「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜  作者: 大好き丸
18章 龍球王国 後編

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425、無駄な抵抗

 国外逃亡を図ったムネヤスたちはコジュウロウ率いる忍び軍団『虎噤(とらつぐみ)』に行く手を阻まれる。相手はテンクウ家が抱える忍び『走狗』とは一線を画す優秀な忍びたち。相当な訓練を課せられ脱落する者も多く、虎噤として活躍出来るのは一握りとも称されているエリート集団。それ故に数も少ないのだが、今回に限っては例外とも言える。


 かの禍津神との戦いを経た後だというのに、疲弊も人数の低下も感じられない。これはあり得ないことだ。


 事情を知らないムネヤスは困惑していた。空が黒くなり、無重力で体が浮き、爆発音や金属が砕けるような音が何度も聞こえて来たというのに、何故こんなにも多くの忍びが生き延びているのかと。目の前で展開されている忍びの壁がムネヤスの『沢山死んで疲弊していてくれ』という淡い期待を削り取ってしまう。


 呆然とするムネヤス。そんなことなどお構いなしにシュウザは声を荒げる。


「何をしておるんじゃっ!? とっとと駕籠を発進させろっ!! 奴らを跳ね飛ばせぇっ!!」


 駕籠の中から怒声を上げながら部下に命令する。部下たちは主人の命令を無視し、3人の駕籠の乗降口を開け放つ。


「バ……っ! 何を……っ?!」


 ヨリマロとムネヤスはそれをただ見ているだけだったが、シュウザは慌てて扉を閉めようと手を伸ばした。するとその手に細い鋼の糸が巻き付き、体重移動を利用して外へと引っ張り出された。


「あばばばっ!? ぶっ!!」


 太り過ぎて動きも緩慢なシュウザはバランスを保つことが出来ずにゴロゴロと転がって地面に顔を付けた。鋼糸はシュウザの肉に食い込んで離れず、血が滲んでいる。シュウザは何とか手を使って立ち上がろうとするが、焦りと腹の肉が邪魔をして上手く立てず、腕に食い込んだ鋼糸を見て怒りを覚えた。

 蜘蛛糸術と呼ばれる秘伝の技。糸をまるで手足のように自由自在に使用出来る乱波の高等技術。これを使用出来るのは限られており、中でも鋼糸を主力武器にまで昇華したのはただ1人。


「ハ、ハンゾウっ!? キサマぁっ!!」


 ギロッと糸の先を睨む。そこには確かにハンゾウが立っていた。


「う、裏切るつもりかキサマっ!! テンクウに居させてやった恩を忘れたかっ!!?」

「……黙れ」


 ハンゾウは巧みに糸を操り、シュウザの体全身に巻き付ける。キュッと少し強く絞ると、ボンレスハムのように余った肉がはみ出す。その過程でシュウザの体はいくらか切れたようで鮮血が流れた。


「我々『走狗』は……いや、我々『猟犬』が恩を感じているのはゴウザ様のみ。偉大なる我らの当主ゴウザ様の忘れ形見ゆえにあなた様をお支えすると誓ったが、御方の血を受け継いでいるとは到底思えぬ醜悪さには愛想が尽きた。この国に(もたら)した災厄と罪をその血で(あがな)え」

「ま、待へっ……待っへふれ……。いふ、いふふらひっふぁ?」

「『いつ裏切った』、か。人身売買に初めて手を染めたところから乖離は始まってはいたが、元を辿れば虎噤との小競り合いが激化し、秘密裏に停戦を申し出たところからと言っておこう。いわゆる落とし所という奴だ」

「おへいはい~っ (小競り合い~っ)?! ふいふんまへへはないふぁっ (随分前ではないかっ)!! ふひふぁあんふぁとっ (罪だなんだとっ)、ぬぁふぁいひふぁほほを言っへ (生意気なことを言って)、ひははらほほうはいへふぁないはっ (キサマらも同罪ではないかっ)!!」


 口に何本か糸が絡まっているためにふがふがと豚のように鳴き喚くシュウザ。ハンゾウは悲しそうな目で俯く。


「……我らもあなた様のことを糾弾出来るほど聖人ではない。結局はあなた様の命令を実行していたのだからな。今後は国のためにこの身を粉にし償っていく。だがその前にテンクウ家の汚名をそそぐっ!」

「やへるぉぉっ (やめろぉぉっ)!! わひお (儂も)、いひへふぐぬぁっへ (生きて償って)……っ!!」


 ──キリキリキリ……バシュッ


 ハンゾウが鋼糸を体全身で引っ張り、シュウザの体は原形を留めぬほど輪切りにし、肉の塊となって地面のシミとなる。同時に懐から火の護符を取り出して肉塊へと放る。張り付くと同時に発火した護符は炎の柱となってシュウザだったものを灰にした。


「……往生召されよ……シュウザ=テンクウ」


 合掌まではせず、片手で拝むハンゾウ。一部始終を見ていたヨリマロは、跡形もなくなった共犯者の影を追うようにふらりと駕籠から姿を現す。その手には唸るほどの銭を使い、金銀宝石で(こしら)えた一等輝く刀が握られていた。

 最上大業物・魔刀『神罰』。恐ろしく切れ味が良く、濡れたような刃は見る者を魅了する。雷属性の魔刀と噂されており、能力を使えば電撃を身に纏って触れることが出来ない上に雷撃を飛ばすことが出来る。雷を切ったという逸話も存在し、使用する者によっては『敵なし』と称される刀。

 ヨリマロよりもずっと昔のキジン家当主がカタログスペックで気に入り、大金をはたいて手にした経緯があり、本来はもっと簡素な拵えだったが、代を継承するごとにデコレーションされた結果が今にある。


 チラリと背後を見れば走狗が並び、前を見れば虎噤が待ち構える。絶対に逃げられないだろうことを悟り、自嘲気味にニヤリと笑いながら刀を抜いた。


「おいおい、抵抗するつもりか?」


 コジュウロウの質問に鞘を投げ捨てることで返答する。


「お頭。ここは我らが……」


 そう言って虎噤の中から5人がヨリマロに向けて走り出す。刀身が短めの忍者刀や鈎爪などの近接武器や、クナイなどの投擲武器を備えて攻撃を仕掛ける。

 ヨリマロはふらふらとした覚束ない足取りで前に出たかと思うと、接近する忍びに合わせて刀を振った。


「今の麻呂は哀しみに満ちておる……──玄武心陰流(げんむしんかげりゅう)──悲煉羅刹(ひれんらせつ)っ」


 ──ビュンッ


 悲しみに暮れる剣は太刀筋の読めない軌道を描き、最上大業物・魔刀『神罰』の切れ味と電撃による付属効果が防御を許さない。最初に接近した2人を撫で斬りにし、クナイや指弾などの投擲武器を電撃で無効化。全身に纏っていた電撃を四方に飛ばされ、3人が貫かれる。

 あっという間に倒された5人の精鋭。ヨリマロは無傷で倒した5人を一瞥する。


「この程度のものか……最初から麻呂が出ていればジキマロはあのようにならなんだやもしれん……」

「やってくれたなヨリマロぉっ。玄武心陰流免状の腕前は伊達じゃねぇかっ」

「……禍津神も役に立たん。走狗もシュウザもムネヤスも、全部全部役に立たんっ!!」


 ──ゴバァッ


 ヨリマロは全身から雷を発生させる。


「麻呂の命が欲しいか? コジュウロウ。……良かろう。この命を取るが良い。しかしっ! 麻呂の恨みは消えぬっ!! 麻呂は禍津神を超える大怨霊となってこの国に災いを(もたら)そうっ!! だが、ただでは死なんっ! 麻呂の命尽きるまで抵抗してみせるでおじゃるぅっ!!」


 ヨリマロは狂気の笑みを浮かべながら刀を振りかざし、地面を蹴って走り出す。狙いを定めて走るヨリマロにコジュウロウは目一杯息を吸い込んで叫んだ。


「その意気や良しっ!!!」


 コジュウロウはヨリマロの動体視力では捉えられないほど速く踏み込み、瞬時にヨリマロの懐に飛び込んだ。ヨリマロは一瞬完全にコジュウロウを見失ったが、地面を蹴った時の小石の飛び方や草の揺れ方でおおよそのタイミングを掴む。


「──玄武心陰流──怒髪天・招雷っ!!」


 ──ボッ


 本来当たるはずもない振り下ろしのはずだった。だが今、ヨリマロには眼前のコジュウロウが見えていた。完璧なタイミング、完璧な太刀筋、さらに雷撃まで加わり、非の打ち所がない。命が掛かった戦いに初めて身を置いたヨリマロは自分の潜在能力に身震いしていた。もう少し鍛錬していたらあるいはこの状況を簡単に覆せたかもしれない。そう思えるほどに。


 しかしそれは泡沫の夢。


「──悪ぃなヨリマロ。そいつは過ぎ去りし過去だ」


 ──ブンッ


 ヨリマロの剣は空を切り、目の前のコジュウロウが残像であったことにようやく気付いた。


「神刀『爪牙(そうが)』──猛虎伏走(もうこふくそう)っ」


 ヨリマロの背後に立つコジュウロウはいつの間にか鉤爪を装備していた。

 五つしか存在しない『天目一箇(あまのまひとつ)』級の逸品であり、天下護剣の一つ、神刀『爪牙(そうが)』。

 刀とは名ばかりの鉤爪型の見た目ではあるが、しかしその爪は神刀の名に相応しい作りとなっている。オリハルコンやアダマンタイト、それどころか竜鱗すらも簡単に寸断し、その傷は治りにくいとされる。驚くほど軽くまるで羽根の様であり、持ち手のポテンシャルを損なうことが無いまさに神刀と呼ぶにふさわしい武器。


 ヨリマロは徐々に感じる違和感に首が切れたことを察した。すぐさま刀を放り投げて首を両手で挟み込む様に押さえつける。ちょっとでもズレたら死ぬ。それが感覚で分かった。

 しかしその努力は無意味。押さえた腕も、胴体も、足も、頭も、全て斜めにズレた。バラけて肉塊となるヨリマロに背を向けてコジュウロウは呟く。


「……迷わず地獄に落ちろよ。大怨霊」


 ヨリマロに引導を渡したコジュウロウはまだ顔を出していない大犯罪者の駕籠を見た。


「さ、後は任せたぜ。ナガヨシぃっ」


 ナガヨシは野太刀を担いで前に出る。

 ──復讐の時、来る。

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