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「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜  作者: 大好き丸
18章 龍球王国 後編

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418/436

418、人

 レッドは元来た洞穴に戻る。すぐ道に迷うレッドが割と早く戻れたのは、洞穴から砂浜までの道中、草木を力任せに掻き分けたおかげで分かりやすい道が出来ていたのだ。

 レッドは脇目も振らずに走り出す。坂もカーブもない真っすぐの一本道。間違っていれば引き返して『停滞』まで戻ることも可能な安心すら出来る一直線。


 そして、行き着いた先は思念の壁。


 亡者が蠢き、完結することのない思考と苦しみが苦悶の表情を見せている。焚き火の場で卑屈なおばさんが言っていた通り、これを見れば永遠の苦しみが待っていると言われても頷ける。

 大凡(おおよそ)直視出来ないほどに歪んで醜い。全ての顔が絶望と恐怖、そして恨みと憎しみで溶け合った群衆。これが天位の神から追い出された者たちの悲痛な叫び。


 レッドは涙を流して戦慄(わなな)いている。


「……俺も……この(ざま)だったのか?」


 レッドは自分の嫌な記憶を鮮明に思い出す。

 追放され、居場所を失くし、自分の殻に引きこもっていた1年という期間。周りから見ればどれだけウザく、どれだけ気持ち悪かったのかを考えて自己嫌悪に陥る。単純に見た目がグロすぎる。

 一歩間違えれば自分も復讐に身を焦がし、ビフレストに剣を向けていた可能性があることを思えば恐怖に挫けそうになる。幼馴染で親友のニールに剣を向けるなんて考えられない。でも、目の前の情景は今までのレッドに真っ向から唾を吐く。

 憎悪は決して消えることはない。復讐こそが解決に導くのだと叫んでいる。


「これが俺のもう一つの選択……」


 レッドだって当然怒りはあった。追放された時はもちろん、ゴールデンビートルに煽られた時も、お試しですらどのチームにも入れてもらえなかった時も、蔑まれ、軽んじられ、居ない者のように扱われた時だってそうだ。

 それでも人に剣を向けなかったのは倫理観があったからだ。刃物は危ないもので、人に向けてはいけないものだと強く心に刻んでいた。

 であれば、剣でなくとも拳を使うことだって出来たはず。癇癪に身を任せてぶん殴る方が簡単だったはずだ。

 しかし、そうしなかった。出来なかった。人を傷つけるのが怖かった。

 もしも人を傷付けたら二度と人里にはいられないのではないかという危機意識が打算的に働き、意図的に害意を排除していた。田舎者ゆえの弊害だったのかもしれない。


 力だけでは生きていけない。共に支え合うことで『人』は成立する。


 だからレッドは今、剣を構える。

 あったかもしれない可能性を睨み付け、今ある事実を胸に呪いに立ち向かう。



「あれ船だったのかよっ!」


 大禍津日神が防御するために生み出した板張りの建築物は無重力のおかげかフワリと浮き上がり、地上組に船底を晒して静止する。


「……あ、しまったっ! 避難が裏目に出たかっ!?」


 アキマサの顔に悔しさが滲む。せっかく浮遊要塞の上に国民を避難させたというのに、あれでは丸見えだ。国民の安全を確保し、総力戦で大禍津日神を追いつめる案が、皮肉にも国民を危険に曝すことに繋がった。力を封じられ、頼みの綱の封印術が届かない空に逃げられた。ここまで想定を超える化け物を前に『万が一』が頭を過ぎる。


『……なかなか面白い余興であった……そろそろ全てを統合しよう……』


 船の内部に仕舞いこんだ呪いの泥が継ぎ目からじわじわと顔を覗かせた。脂が浮いているようにぬらぬらとテカっている紫の液体は明確な意思を持って動く。

 八十禍津日神。大禍津日神の消化液であり、無数の魂の集合体。触れたら最後、精神の崩壊と共に肉体が消滅する。解き放たれれば最後、骨すら残さない。


 ──ピィィィィンッ


 今にも呪いの泥が溢れ出すその時、耳を(つんざ)く音が鳴り響く。急な音に大禍津日神も驚愕する。


『……なんだ?……この音は……?』


 音の発生源を辿ろうと耳に集中する。耳鳴りにも似た音が真下から聞こえることに気付いた時、船にガラスのヒビのような光の筋が無数に、そして一瞬の内に走った。初めての光景を前に大禍津日神も面食らって身動きが取れない。


 ──パァッ


 船の内側から閃光が瞬き、剥がれるように弾ける。

 爆発ではない。破裂音がするわけでもない。光と共に膨張した透明の膜に押されて耐え切れなくなった船が内側から崩壊したようだ。

 同時に赤いゾンビも巨大な骸骨も余波に巻き込まれるように消滅していく。アリーシャですら苦戦したというのに簡単に消えていく様は、まるで最初から能力ごとに時間制限が設けられ、時間切れで一気に消滅していくかのような儚さと唐突さがあった。

 まったく理解不能な状況。しかし、次に起こったことでこの事象を引き起こした犯人が分かる。


 ──バキィンッ


 黒い空が割れる。今度はハッキリと金属が砕けるような甲高く響き渡る音が鼓膜に振動して感知させる。青い空が見え、重力が戻った時、唯一この能力に真っ向から挑める男の姿が脳裏に過ぎる。


 ──シュタッ


 同時に赤い髪にクロークを羽織った剣士が浮遊要塞の上に着地した。大禍津日神は目を見開き、瞳孔を収縮させながら奥歯を噛みしめる。

 呪いの泥に飲まれ、消化吸収されたと思われていた男は無傷で眼前に現れた。それも八十禍津日神を消滅させ、何事もなかったかのように大禍津日神を見上げる。


『……レッド=カーマイン……っ!!』


 レッドは大禍津日神に哀しみの目を向けていた。


「……オオマガツヒノカミ。お前の気持ちは理解出来る。追放なんて誰だって嫌だよな……けどな、復讐のために誰かを巻き込むなよ」

『……っ!?……お前に……お前に何が分かるっ!!』


 大禍津日神はレッドに向かって右手をかざす。しかし何かをする前にドラグロスに背後を取られた。


 ──ゴギンッ…………ドォンッ


 ドラグロスの回し蹴りが大禍津日神の顔面に直撃し、そのまま垂直に地上へと叩きこまれた。凄まじい爆風と衝撃が地上に吹き荒れる。もはやコウカク家の屋敷がどこに建っていたのかさえ分からないほどの破壊が行われ、大禍津日神は瓦礫に埋もれてしまった。


「シャアオラアァァッ!!」


 ドラグロスは攻撃がクリーンヒットしたことにガッツポーズを見せた。


「もう、や〜ね〜。野蛮なんだからぁ……今の内よっ! あんたたち避難所に隠れてなさいっ!」

「は、はいっ!」


 何とか助かった避難民たちは急いで避難所に戻る。もう気持ち悪いなどと言っていられない。


「ところでレッド。あなたどこに居たの? こっちはすっごくピンチだったんだからっ」

「え? あっ、申し訳ないです。どこって言えばいいのか……」


 レッドがごにょごにょと口の中で言葉を転がしている最中、グルガンが割って入る。


「話は後だ。とにかく戻って来てくれて助かったぞレッド。引き続き禍津神を頼めるか?」

「あ、はいっ。任せてくださいっ」


 レッドは力強く頷いて剣を握り締める。その様子にグレゴールは肩を竦ませた。


「さ、それじゃ行きましょうかっ」

「……え? でも、どうやって下りれば……」

「どうって……飛び降りれば良いでしょ?」

「えぇ……?」


 レッドは浮遊要塞の端で下を覗き込むように見る。


「我に任せろっ」


 グルガンはグレゴールとレッドと共に転移する。下に到着すると「後は任せたっ」と言って早々に上に戻っていった。


「……一緒に戦ってくれないなんて……グルガンさんってもしかして疲れてました?」

「そうよ。魔力の使い過ぎでね。……でも、彼が居なくても平気でしょ?」

「はい」


 レッドは瓦礫に埋まった大禍津日神の元に歩く。


「……出てこい、オオマガツヒノカミ。決着をつけるぞっ」


 ザッと地面を踏みしめて剣を握り込む。


 ──ゴゴゴゴゴゴゴッ


 レッドの発言に呼応するかのように瓦礫が揺れ動く。何かの前触れのような張りつめた空気が流れ始めた。


『……死七複(しちふく)(じん)──壞脾吮(えびす)金剛呪霊堂(こんごうじゅれいどう)……』


 ──ズゴゴゴオオォッ


 瓦礫を跳ね除けるように下から立派なお堂が姿を現した。瓦屋根に木造作りで漆塗りの荘厳な佇まい。そのお堂に多数のミイラ化した人間の死骸が助けを求めるように縋り付いている。

 屋根の上に立つ大禍津日神は錫杖で屋根を突く。


 ──チリリーンッ


 澄んだ環の音が鳴り響く。するとお堂の堅く閉ざされた扉が金属が擦れる音と共にゆっくりと開き始めた。

 空間にポッカリと穴が空いたような真っ暗な内部から赤子の鳴き声が聞こえてくる。


『……決着を望むか……よかろう……レッド=カーマイン……お前を殺し、世界を飲み込み……わらわは天位に復讐を果たす……』

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