411、無用な思考
大禍津日神は目を見張る。眼前で戦う男、レッド=カーマインの動きに翻弄され、自分が動くべきか図かねていた。
(……姿形も、気配もただの人間。しかし……)
大禍津日神の能力で生み出された赤いゾンビ兵たちはレッドを殺すために一心不乱に武器を振るう。剣を振り、槍で突き、弓矢を放ち、斧を振るう。あらゆる武器種の中に投げ縄を用いてレッドを拘束しようとするゾンビまでいた。
この能力で生み出された武器は実態を持っているが、ゾンビ兵同士で相討ちとなったり、武器が絡まって使えなくなるなどの無様を晒すことがないように、ゾンビ兵同士の接触も武器の接触もなく攻撃することが出来る。つまり、敵には武器の津波が襲ってきているよ錯覚するほどの波状攻撃が可能となる。
だが、レッドが捕まることはなく、それどころか傷一つ付いていない。すべて受け流される。
まるで、すべての攻撃を把握しているようなとんでもない動きだ。
(……解せん……何故これほどの攻撃を前に撤退を考えない……? 攻撃が兵士に当たらぬ以上、立ち止まるのは無意味……特に此奴は何が起こっているのかすべて見えておるはずなのに……)
戦う前のレッドの言葉を思い返し、大禍津日神は眉間にシワを寄せる。
(……本当に時間を稼ぐつもりか……? 勝ち目のない戦いにその身を捧げてまで……)
先の戦いでどうにか大禍津日神と戦えそうなのは、動き回って視界に入らなかったアキマサか、竜神帝の末裔であり呪いの効果を受け付けないニシキの2人。それ以外は有象無象。
大禍津日神を前にこれほどまで大立ち回りが出来るのはレッドをおいて他にいない。呪いの効果を受け付けない第2号であることと、魔力や気、聖なる力などに頼ることのない身体能力の化け物。まさに大禍津日神の天敵と呼べる存在。
レッドは考えていた。このまま時間稼ぎをしているのもありだが、本体を倒せるものなら倒してしまっても良いのではないかと。
事ここに至るまで何故攻撃を加えなかったのかには個人的な理由がある。大禍津日神に女神ミルレースを重ねていたからだ。多くの突飛な能力と荘厳な気配が滲み出る神性を感じさせた結果である。
(きっと攻撃してもすぐに再生しちゃうんだろうなぁ……。グルガンさんがいれば弱点も見つけてくれるんだろうけど、俺だけじゃ何にも分からないし……。でも物は試しか?)
レッドとしてもこの波状攻撃には目が回る思いだった。武器の切っ先を逸らすくらいのことはわけないが、30本の武器が一斉に振り下ろされれば方向を見定めるだけでもしんどい。いずれ疲れてきたら受け流す方向を失敗して剣をへし折られてしまうかもしれない。既に欠けた剣を思いながら武器を振るう。
(不味いなぁ。これシルニカさんにもらった剣なのに……でも剣は消耗品。壊されても次を出せば大丈夫か。シルニカさんには悪いけどこれあんまりしっくりこなかったし……)
レッドの頭の中に生まれ故郷である『忘れられた大陸』のロングソードが浮かんでくる。売られていた剣の中ではまずまずの値段で、安すぎず高すぎない丁度良い塩梅の剣。それなりに頑丈なのでずっと愛用していた。しかし最近では割と敵の攻撃が激しくなってきて剣が簡単に折られるようになってきた。大事に使いたい反面、もっと沢山ロングソードが欲しいと思ってしまう。
(あーあ。行商人とかがたまたま持ってきてくれるとかあれば良いのに……)
そんなことを考えながら迫り来る攻撃を掻い潜るレッド。次の瞬間、起きて欲しくなかった出来事がレッドを襲う。
──カィンッ
石の床を叩いた時のような嫌な音が鳴った。一瞬集中力を切らしたことが災いし、剣がまた欠けてしまったのだ。
「くっ……!? もう時間はかけていられないようだなっ!!」
レッドは考え込んだ挙句に隙が出来てしまったことを反省しつつ、大禍津日神に悟られないように焦って誤魔化した。幸いにも大禍津日神には感づかれていないようだが、こんなことは長くは続かない。
「──旋刃っ!」
──ビュオッ
『忘れられた大陸』の剣士が放つ3つの技の1つ。敵の武器が接触する瞬間に回転斬りを放つ。凄まじい剣圧に囲んでいた無数の兵士たち全員が吹き飛ばされ、バタバタと倒れる。
『……ほう……千人分の兵をひと薙ぎか……』
接触が存在しないということは重なるということ。最初は1撃や2撃程度の攻撃も、時間をおけば百を超え、千や万の攻撃が一斉に降りかかることになる。それも四方八方から同時に。
しかしレッドには通用しない。
レッドは大禍津日神に接敵し、攻撃を放つ。
──ザンッ
やはりというべきか、斬っている最中に再生が始まっている。ただ斬っているだけでは斬った後すら残らない。アキマサレベルの速さがあって初めて斬ったことが視認出来る。
「……何か能力を発動しているのか? それとも常時再生し続けているのか?」
『……後者……わらわを殺すことは出来ぬ……』
大禍津日神は錫杖をかざして環を鳴らす。
──チリリーンッ
『……死七複の陣──呪楼刃・四肢削ぎ白眉……』
錫杖から鋭く白い刃が鎌の刃のように出現する。
接近戦ように武器を出した直後、大禍津日神の腹に剣が生える。
──ドスッ
『……ぐっ……』
いきなりのことに大禍津日神も驚きが隠せない。レッドもこれも能力かと驚愕したが、背後にいる女性に目を見張った。
「ア、アリーシャ……さん?」
「──はい。レッドさん」
アリーシャは大禍津日神をその剣で刺した。




