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小話01.贈り物〈side:リュザフィール〉

66.贈り物の裏話です

 アルネイアの、噴水が綺麗だった街――プレスコットの街の地下での戦闘があった次の日、何故かヴェルフリードが俺の部屋を訪ねてきた。

『なに…?』

 正直『目』を使い過ぎて死にそうで、思わず胡乱な視線を向けてしまう。ヴェルフリードは天馬で移動したから、あんまり休めていないはずなのに、全然疲れた様子はなかった。流石だなあ、真似できない。

『付き合え』

『え、なにに…?』

『買い物に』

『ええ…ひとりでいきなよ…俺寝てたい…』

 わざわざ騎士宿舎まで来て…扉に手をついて溜息をつくと、眼前の無表情の彼は、ぴくりと片眉を上げた。うわ、こっわい。ヴェルフリードの顔はやっぱ怖い。よくこの顔相手にスグルは普通に喋れるなあと思う。

『…わかったよ、何買うの…?てか俺いる?いらなくない?』

『いる。櫛が欲しい。店を知らん』

『櫛…?』

『知らないのか』

『まあ、知ってるけど…。他の人は?アレクシスさんとか、リーゼロッテさんとかさ』

『アレクシスは職務中だ。あの女とはあまり会話をしたくない』

『同期なんじゃないの…?』

『そうだがな。嫌われている』

『なんで』

『知らん』

 だからってなんで俺に頼むんだ。うう、と唸っても、ヴェルフリードは無反応だった。ほんと、スグルの前じゃないと表情も反応もかなり薄い。多分本来はこっちなんだろうなあ…。機嫌が良いのか悪いのかも伝わって来なくて、ちょっとやりづらい。機嫌の良し悪しが有るのかすら不明だけど。

『…準備するから、待ってて』

『悪いな』

 …ほんとに悪いと思ってんのかなあ…。無表情の顔からは何も伝わってこなくて、思わず溜息が漏れた。



 まさかまた2人で街を歩くことになるとは思わなかった。…少し前まで雲の上の人みたいなものだったし。俺より低い位置にある頭は真っ直ぐ正面を向いている。櫛を買いに行くとは思えないくらい空気が鋭いのだが。

 彼の剣の腕は噂では聞いていたが、直に見るとその凄まじさは想像以上だった。どういう鍛錬をしたらあれ程までになるのか分からないが、太刀筋に全く無駄がない。何より終始冷静すぎるくらい冷静で、以前手負いの魔獣と一緒に戦った時は、こっちにまで血がかからないように気を配っていた。まるで先を読んでいるかのような動きにいつも驚かされる。

 が、そんなヴェルフリードでも、スグルのこととなると冷静さを失うようで…側から見ていて凄くわかりやすいのだが、多分本人にあまり自覚が無い。というか色恋事に鈍い。スグルも鈍いけど。…俺の好意に気が付かないくらい。


 視界はまだ微かに霞んでいる。一度使い過ぎると回復に丸一日以上かかるから、実質あまり使い物にならない気がする。なんていうか、使い過ぎると、これ以上使うなと視界に幕がかけられるような…靄がかかるような、不思議な感じだった。無理しようと思えばもっとできるんじゃないかと思えるのだが、先に頭が痛くなって使えなくなる。

『そういや櫛って、自分の?』

『いや』

 ふと気になって尋ねて見たが、ヴェルフリードは静かにそう答えて、それ以上は喋らない。ほんと、無口過ぎる。話しかけないと会話が皆無だ。

『誰かにあげるの?』

『ああ』

『誰に』

『……スグルに』

『えっ』

 思わず立ち止まる。ヴェルフリードはこちらを振り向いて、僅かに眉間に皺を寄せた。

 ぬ、ぬ、抜け駆けじゃないのか、それは! 口をパクパクさせていると、ヴェルフリードは『何だ』と低く問いかけて来た。そ、そうだ、この男も鈍いんだった!

『いやっ、べ、べつに』

 何だこの悔しい感じ!うあー、ずるくない?それ!!お、俺だって何かあげたいなあって思ってたのに…!

 身体から力が抜ける。とぼとぼ歩くと、隣を怪訝そうな顔をしてヴェルフリードが歩いた。悔しいから何か俺も買おう、なかなかスグルに会えなくなったけど…ていうか羨まし過ぎる、ずっとスグルにべったりじゃないか。何で俺じゃないんだ…そりゃあ剣の腕じゃ敵わないけど。目は良いんだからさあ。…ずっと使ってたら多分使い物にならないけど。なんで俺こんな燃費悪いんだよ!


◇ ◇ ◇


 小さな雑貨屋にヴェルフリードを押し込んで、はあ、と溜息をつく。流石に一緒に選んでやる義理はない。


 聖都は露店で装飾品が売られていることが多い。店の壁にぼーっと背中を凭れさせていると、通りの向かいで丁度首飾りが売られているのに気付いた。

 とぼとぼ歩いて行って、じっと首飾りを見下ろす。色々並んでいるが、その中の1つに目が行った。細い鎖で、台座には植物の文様が細かく刻まれている、繊細な首飾り。台座にはまだ石は嵌っていない。

『お兄さん、 作ってやろうか?』

 そう店主のおじさんに声を掛けられて、うう、と唸ってしまう。スグルに似合うかな。スグルの灰色の目は綺麗で、銀色の鎖はとても合いそうだけど…。受け取ってくれるかすらもわからない、ああ、でも身につけてくれたら、それだけで――。

『じゃあ、翠の石で、ひとつ…』

『あいよ』

 店主のおじさんの手が滑らかに動いて、素早く首飾りを完成させて行く。ああ、作っちゃった。作ったんならあげなきゃ、と1人でこっそり決意を固める。

『30ルスカな』

『ええ!?たっか!』

『俺の腕にケチつけんのか?あ?』

『うっ、払います…』

 せっかくの貯金が…。泣きそうになりながら、はあ、と今日何度目かわからない溜息をついた。絶対2人きりになるチャンス作って、渡してやる…!


 と思っていたのだが、リーゼロッテさんも警護について、2人きりになれるチャンスなんてどこにも無くなるということを、この時の俺は知らない。

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