表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/98

64.邂逅

『いやはや、ここが見つかるとは、完全に想定外でした』

 カスケードはあの時みたいな暗い色の長いローブみたいなものを着て、薄暗い空間に溶け込むようにして立っていた。この状況、明らかに相手の方が不利だと思うのだが、カスケードは平然と喋り続ける。

『それにまさか、貴方達もここにいるなんて』

 薄い金の瞳がこちらを向いて、薄っぺらい笑みを浮かべた。もうすっかり治っているはずなのに、斬りつけられた場所が熱を持ってずきずき痛む。

『以前お話しした術式が効かない面白い血の少女ですよ。ねえ、実験材料に良さそうじゃありませんか?』

 カスケードに意識が向き過ぎていて、その背後に立っている人影に気が付かなかった。カスケードが振り向いた先に立っているのは、真っ黒なフードをかぶった…男なのか女なのかすらよく分からない人物。そしてその足元には、同じように黒い布をかけられた、大きな獣の姿。黒い毛並みがちらりと覗く。その姿を、初めて見た筈なのに、どこかで見たことがあるように感じるのは…気のせいだろうか。

『捕縛しますか』

『無論だ、やれ』

 団長さんが小さく問いかけた声に、クラウスが冷たい声で言い放つ。カスケードはこちらに視線を戻して、ローブの中から長剣を引き抜いた。その表情に全く変化は無かったが――どことなく空恐ろしいものを感じて、足が竦む。

『捕まるわけにはいかないので、逃げましょうか』

『そうだな』

 初めて、後ろの影が言葉を発した。低い声は、男性のもの。しかし、どこかで聞いたことがあるような…。それが誰のものなのか分からなくて眉をひそめる。

『逃がさねえよ』

 フェルステルさんが低く呟いた。ぶわりと空間に走る気配は――転移妨害の術式。皮膚を駆け上がる感覚で、それがかなり強い術式だと分かる。

『おっと、これは…。やはりさっさと転移で逃げるべきだったと思うんですが』

 カスケードは薄っぺらい笑みを崩さず、ローブの中から長剣を抜いた。僅かに黒い剣身には、魔獣の血が塗られているのだろう。眼前の聖騎士達の背中にも緊張感が走る。フードの男はカスケードの方に頭を向けて、微かに笑った。

『どちらにせよ、ここに来なければならなかっただろうが』

『まあ、そうですが。すみません、私、解除系の術式はどうも苦手でして。物理手段に訴えかけようかと思いますので、お手数ですが、援護を頼めますか?』

『いいだろう』

 フードの下から覗く口元が、ニタリと笑みを作った。その口調と笑い方に、更に既視感を覚える。

 不意に男を起点にして、ぶわりと黒い円が広がった。こちらの足元まで、まるで液体が侵食するように広がった術式に、思わず後ろに数歩下がる。

『…見たことない、術式です』

 今まで、訓練で様々な術式を見て来たが…こんなものは無かった。感じたことがないくらい気持ち悪い気配がする。

『そりゃあそうだろう。禁術の類だ。液体に触れないようにしろ』

 私の言葉に、クラウスが静かに返した。クラウスは、これがどういう術式なのか知っているようだ。冷たく響く声と、威圧的な赤い瞳が、真っ直ぐフードの男に向けられる。

『お前、何者だ』

『…っは、はは』

 男は何がおかしいのか、低い声で嗤った。いつの間にか手に持っていた小瓶をひっくり返して、床に何かの塊をぼろぼろと落として行く。黒い水はそれを吸収して、一瞬赤く光った。

 黒い床が、徐々に変容していく。ぽこぽこと水が沸騰するように床が泡立ち、ずるりと黒い塊が這い出て来た。

『…っ、うえっ』

 横でリュゼが小さく唸る。凄く良く分かる、その気持ち。床から這い出て来た黒い塊は人の形になって、こちらに向かって来たのだ。動きはのろのろとしていて、なんというか…ゾンビみたいで気持ち悪い。指にあたる部分からぼたぼたと床に落ちた黒い液体が、波紋を作る。

『奴まで切り拓く。お前らはフードの方だ。援護しろ』

『はっ』

 団長さんのその言葉に、聖騎士が剣を構える。フェルステルさんとアレクシスさん、リーゼさんが素早く移動した。

『行くぞ』

 その合図で、団長さんと側の聖騎士がカスケードに向かって走り出す。団長さんが黒い塊を剣で弾くと、塊はびしゃりと黒い飛沫を飛び散らせて霧散した。強度は無いようだが、あれに触らないようにとなると面倒だろう。それに、量が多い。前を進む団長さんたちの周囲を、黒い影がどんどん取り囲んで行く。その正面から、カスケードがフェルステルさんに鋭く斬りかかった。

『っ』

 思わず息を呑むが、フェルステルさんは全く動揺しているようには見えなかった。団長さんがその前に割り込むように飛び出して、カスケードの剣を弾く。更に左手でもう一振りの剣を抜き、そのまま斜めに振り抜いた。ギリギリのところで後ろに引いたカスケードのローブを、その剣先が掠める。

『流石ですね』

 カスケードは笑って剣を構え直した。団長さんはそれには答えず追撃する。両手の剣が様々な方向からカスケードに振り下ろされて――正直殆ど見えない。その見えない斬撃を、ギリギリのところでカスケードはさばいているようだった。その戦闘には他の聖騎士は介入せず、真っ直ぐにフードの男の方へ突き進む。彼らの前には、地面からどんどん生えてくる黒い塊が立ちはだかっていた。

『アレに触ると、どうなるんですか…?』 

 気になってクラウスに小さく問いかける。クラウスは真っ直ぐ前を見据えたまま、低い声でそれに答えた。

『皮膚を侵食される。毒のようなものだな。お前に通用するのか知らんが、もし効果があった場合助ける手段が無い。術式でしか治せんからな。決して触れるなよ』

『は、い』

 足元の黒い液体を見下ろして、ごくりと唾を嚥下する。幸い相手はまだこちらに攻撃は仕掛けてきていない。

『…っ、面倒ね!凍結させるわ!』

 リーゼさんが何やら苛立ち混じりにアレクシスさんに向かって声を上げた。アレクシスさんは剣を鞘に戻しながら、『ええ…?』と渋る。

『床はやめてください、滑るんで!』

『分かってるわよ』

 その言葉に、フェルステルさんとアレクシスさんがリーゼさんの後ろに下がる。急激に気温が下がるような感じがして、リーゼさんの足元に青く光る陣が一瞬現れた。リーゼさんは剣を一度鞘に戻すと、まるで居合でもするかのように、片足を後ろに下げて、低い姿勢になる。

『破壊だけお願いします、範囲を限定すると短時間凍結させるのがやっとなので』

 そう低い声で言って、彼女は唐突に剣を横一文字に振り抜いた。反対側のこちらまで届くほどの強烈な冷気に、ぞわっと鳥肌が立つ。

 前方の黒い塊は全て、まるで凍りついたように動きを止めて行った。霜が降りて、体表を覆う。その塊を破壊していきながら、彼らは一気にフードの男へと突き進んでいった。

『これは少々…相性が悪そうです』

 団長さんから大きく距離を取って離れたカスケードが、小さく呟いた。

『お前、目的は何だ』

 団長さんはいつの間にか折れた剣を床に落として、新しい剣を腰から抜く。両手に下げられた剣が、シャンデリアの光を反射して、冷たく光っていた。

『答えるわけないでしょう』

 カスケードはふっと笑う。不意に視線が団長さんから逸らされて、薄い金の目がこちらを射抜くように見た。その目が見据えているのは、私ではなく…私の後ろに立っている、クラウスだ。

『…ほう、不敬な目だな』

 クラウスはそれに傲然と笑って応える。燃えるような赤い目は、酷く冷徹に見えた。それにカスケードは楽しそうに笑って、フードの男に目配せする。

『っはは』

 フードの男は、不利な状況のはずなのに、楽しそうに声を上げた。…その声で、ようやく気がつく。男の声は、クラウスに似ている。いや、似ているというより、そのものだと感じるくらい、音が近い。

 ぞわりと背中を駆け上がる悪寒。また知らない術式の気配がする。

『クラウス、何か…変』

 外套を軽く引っ張って、クラウスを下がらせる。この場で一番優先すべきは、クラウスの命だ。前に立つヴェルとルーカスさんの背中が僅かに緊張する。

 床が一気に、更にどす黒く色を変える。それは壁まで侵食して、どくん、どくん、と鳴動した。

『…ヴェル……』

 恐怖で足がすくむ。小さく声を上げると、ヴェルはこちらを一瞬だけ振り向いた。

『…陛下、この術式はご存知ですか』

『知らん』

 クラウスはそう言って、背後に視線を向ける。私達の背後の壁も既に真っ黒だった。庇うようにリュゼが立つが、僅かにその身体はふらついている。クラウスは自分も剣を抜いて、真っ直ぐフードの男を見据えた。

『起点は分かるか』

『分からないです、気配が強すぎて』

 床の真ん中に、ずる、ずる、と黒い塊が集まって行く。白い骨みたいなものが骨格を形作って、黒い大きな人影になった。胴から上だけのそれは、長い腕を床から引き抜いて、ゆらりと広げる。

 リーゼさんがその塊を凍結させようとするが、全て固める前に上から黒い影がかかって、その術式を洗い流してしまう。遠くでリーゼさんの舌打ちが聞こえた。皆一様に攻めあぐねるように、距離を取って塊を見上げる。少しだけ震えながらそれを見ていたら、クラウスに肩を掴まれた。

『お前の血、効力はどれくらい続く』

 クラウスは険しい顔でこちらを見下ろして、小声で問いかけてきた。

『フライさんによると、身体から離れて約1秒、です』

『使えるな』

 クラウスは腰に手を回して、短剣を抜く。

『ヴェルフリード、投擲しろ』

『はい』

 ヴェルの手に移った剣に、チューブから血を流す。銀色の剣身が赤く染まっていった。

『やれ』

 ヴェルは手袋をはめた手で剣を握って、鋭く黒い塊に向かって短剣を投げる。剣先が塊に当たった瞬間、ばしゃりと液体を飛び散らせて霧散した。そのまま短剣は真っ直ぐフードの男へと突き進む。男は少しだけ動いてそれを避けたが、剣先がフードを掠めた。

『…ふうん』

 フードの隙間から覗いた目が、真っ直ぐ私の目を見据えた。一瞬だけ見えた、真っ赤な、血のような目。高い鼻筋と、形のいい唇。その顔は、クラウスに、良く似ていた。

『……な』

 小さく、動揺したような声が背後で漏れたのが聞こえた。全員一瞬、その顔に愕然とし、意識を奪われる。その一瞬で、カスケードは唐突に団長さんに斬りかかった。はっとした表情でそれをいなした団長さんの、僅かにバランスを崩した身体に、カスケードは強力な衝撃術式を投げつけた。

『っぐ』

 かなり強い術式に、団長さんが僅かに後ろに退がる。その隙にカスケードはホールを駆けて、フェルステルさんへと、薙ぎ払うように剣を振った。今までと明らかに空気が違う、どこか…人としての気配から変わったような感じがする。微かに笑みを浮かべたカスケードの剣が、フェルステルさんの身体を斜めに斬りつけた。

『っ!』

『フェルステル!』

 団長さんが焦ったように声を上げる。

 殆ど何も見えないほど、素早い斬撃。がきん、という音と共に、庇うように前に出されたフェルステルさんの剣が砕けた。フェルステルさんの肩口から血飛沫が上がって、カスケードの顔を赤く染める。

『フェルステルさん!』

 膝をついたフェルステルさんの白い騎士服の背中が凄い勢いで血に染まっていく。思わず前に出ようとしたが、クラウスに素早く腕を掴まれ、動きを封じられた。空間を覆っていた転移妨害の術式が崩壊していく。床の転移陣が光って、カスケード達の身体が形を失っていく。

『ヴェルフリード、前に出ろ』

『…は』

 低い声で返事をして、ヴェルはカスケードの方に向かって一直線に走り出す。カスケードはそれを、微かに笑みを浮かべて待ち構えていた。もうきっと、転移し終わるまで時間は殆ど残されていない。フードの男が軽く手を上げて、何かの術式を起動する。

『ヴェル!』

 ヴェルは私の言葉にぴくりと反応して、横に大きく避ける。さっきまでヴェルがいた場所が、酸でもかけられたみたいに、どろりと溶けた。ぞっとして口に手を当てる。あれが人に当たったら、ただじゃ済まない。

『邪魔ですね、貴方。まさか感知もできるとは思いませんでした。…あの時殺しておけば良かった』

 カスケードが鋭い視線をこちらに向ける。今まで見たことがない、歪んだ笑み。床の転移陣がぎらぎらと光り出して、まるで溶けるように彼らの姿は消えていった。

 消える直前、彼らの足元にいた獣が、真っ直ぐ私を見ているような――その灰色の目が、どこかで見たことがあるような気がして、よく分からないまま、目からぽろりと、一滴だけ涙が零れた。



 腕を掴むクラウスの手から力が抜けた。慌ててニルさんを引っ張ってフェルステルさんの側まで走る。

 フェルステルさんの傷は、凄く深かった。それから、魔獣の血が…まるで木が根を張るように侵食している。どくどくと血が溢れるのを、先に彼の元にたどり着いたヴェルの術式が僅かに押し留めていた。

 チューブから出てくる血ではゆっくりとしていて遅い。こんなんじゃ間に合わない。針を腕から引き抜き、腰の短剣を抜いて、前腕部に刃先を当てる。

「間に合う?」

――ギリギリだろうが、急げば。

 それなら、私も覚悟を決めよう。唇を噛んで、刃先を強く腕に押し当てた。どぷりと溢れた血が、フェルステルさんの傷口に流れ込む。悲痛な声を上げながら暴れる身体を、どこか泣きそうな顔の団長さんが押さえ込んだ。フェルステルさんの手が伸びて、私の二の腕を掴む。強い力に一瞬たじろいで、でもそのままで血を流し続けた。横でニルさんが爪で前脚を裂いて、血を流す。

――もういい、代われ!

 ニルさんの合図で手を離す。べっとりと自分の血とフェルステルさんの血が付いた腕は、赤黒く染まっていた。フェルステルさんの指から力が抜けて、腕から手が離れる。直ぐにニルさんがその血をフェルステルさんの身体に注いだ。内側からみるみるうちに傷が修復されて行く。

『止血する、来い』

 ヴェルが焦ったように言って、私の手を引いた。手袋をはめたままの手が傷口を強く押さえる。ヴェルはそのまま私の腕を上に持ち上げた。ヴェルの指の隙間から漏れた血が、肘まで伝って、防護服にぼたぼた落ちる。…血はかけないように、と思っていたのに。フライさんとゲーゼさんに申し訳ない。

『血が止まるまでこのままだ。上に戻ったらちゃんと処置してやる』

『…うん、ありがとう』

『やり過ぎだ、馬鹿が』

 低い声に視線を上げると、ヴェルは物凄く怖い顔でこちらを見下ろしていた。

『スグル…っ』

 慌てたように膝をついたリーゼさんが、血塗れの腕を見つめる。

『治せないの…!?』

『治せない』

 ヴェルの返答に、リーゼさんは唇を噛む。

『大丈夫、です』

 こればかりはどうしようもない。笑ってみせると、リーゼさんは泣きそうな顔で拳を握った。

 フェルステルさんの傷は既に塞がっているが、呼吸が浅いし、顔色もかなり悪い。ヴェルは私の腕を掴んだまま、フェルステルさんの身体をちらりと見下ろした。

『出血が多いです。聖都に送って輸血してもらうしかないでしょう』

 ヴェルがそのままの姿勢で、団長さんに視線を向ける。団長さんは頷いて、小さく息を吐き出した。

『ルーカス、フェルステルを上に運んでやれ。聖都に連絡して、転移で直ぐ移送しろ』

『はい』

『移送が終わったら、上から治療箱を持って来い。スグル、悪いが…もう少し、やれるか。今この階の確認ができれば、あとは研究員と調査員を派遣するだけで済む』

『はい、やれます』

『…スグル』

 ヴェルはかなり苛ついているみたいで、聞いたことがないくらい低い声を出した。

『大丈夫、「アドレナリン」出てるから』

『意味のわからんことを言うな』

 ヴェルは険しい顔のまま、腕を握る手に力を込めた。ルーカスさんがフェルステルさんを背負って、こちらに心配そうな視線を向ける。

『じゃあ、俺行きます』

『ああ』

 頷いた団長さんに一礼して、ルーカスさんは階段を上がっていった。背中のフェルステルさんはぐったりしているし、血塗れで、生きているのが不思議なくらいだが――ちゃんと、息をしている。無茶した甲斐があった。

『…俺も戻る。少々考えることができた。後は任せる』

 クラウスは静かにそう口にすると、外套の裾を翻して、ルーカスさんの後に続いた。その後ろを団長さんに目で指示されたアレクシスさんが追いかける。

『…大丈夫、かな』

 フェルステルさんもだけど、クラウスも。いつも余裕綽々といった風の彼が、酷く動揺していたように見えた。

『自分の心配をしろ』

 溜息混じりのヴェルの声は、元の落ち着いたものに戻っていた。腕の血はまだちゃんと止まらなくて、防護服に染みをつけて行く。

『…すまなかった。また血を流させたな。…グレイプニルにも礼を言う』

『いえ』

 笑ってみせると、団長さんは複雑そうな顔で苦笑した。

『奴らを追いたい所だが…この転移陣はもう使えんだろう。使用可能なままにしておく筈もない』

『…はい、もう、壊れてるみたいです』

 床は彼らの転移直後から、術式の気配を失っていた。尻尾をつかませる気は無いらしい。

『あれがカスケード、か。殺さんよう手加減はしたが…相手も本気になっていなかったようだった。強いな』

 団長さん、あれで手加減していたのか。とんでもない男だ。やっぱり聖騎士って人間じゃないんじゃないかと思えてくる。

――あの者達だが、どうにも意識が拾いづらかった。思考が読みづらいというか、読ませないようにしているというか。

『精神干渉の防御術式かもしれんな』

『と言うことは、奴らの素性は不明か…』

――ああ。

『…ここからは調査員と研究員の仕事だ。術式をなんとか辿らせるしかない』

『…そうですね』

 思っているより、状況は悪い気がする。たった2人の人間に翻弄されて、結果得られたものは殆ど無い。思わず漏れた溜息は重い空気に溶けて、消えていった。


◇ ◇ ◇


 その後すぐ戻ってきたルーカスさんが持ってきた治療箱から包帯や薬を取り出して、ヴェルが腕の傷を治療してくれた。

 それから直ぐに移動を再開して、壁や床を片っ端から確認して行く。針は一度消毒して、チューブも新しいものに替えてもらった。1時間くらいかかったが、全部確認して、隠されていた場所も全部術式を解除して――終わった頃には疲労と貧血で意識が朦朧としていた。階段を1人で上がれず、ヴェルに抱き上げられて、その腕に安心して…そのまますとんと、意識を失ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ