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とはいえ、シティはなだれこんだ群衆が右往左往していて一歩も前へ進めない状態でした。もちろん、こんな混乱の中で白鷺号を無理に進ませようとしたら、それはそれであらたな危険をまねくことは明白でした。
状況を素早く見て取った五郎は、太郎に声を掛けました。
「太郎、執事防衛術の朝練はさぼってはいないだろうな?」
「はい、お父さん」
「行くぞ!」
掛け声をかけ、五郎と太郎の二人は人ごみのなかへ身を躍ろさせます。すると、ふたりの通ったあとだけ人の波がさーっと分かれていきます。ふたりの動きはまるで舞のようでした。殴りかかったり、掴みかかった様子はないのですが、ふたりが軽く触れた相手は、まるで操り人形のように自分から通り道を作っていくのでした。
これが執事防衛術の神髄なのです。
人間の体にある無数の点穴に必要な刺激を与えるだけで、勝手に動いてしまうのです。
相手に無用な傷を与えず、主人を守るための必要最低限の防衛術、それが執事防衛術だったのです。
美和子もただ黙ってふたりに頼るだけではありません。前にも記したように、美和子は中学生のときから様々な武道の一流師範をまねき、訓練をかさねてきました。とちくるって美和子に掴みかかろうとするならば、一瞬で合気道、または柔道の技で地面に叩きつけられてしまいます
活躍しているのは幸次もでした。かれは料理道具のフライパンをつかって、近づく暴徒をぱんぱんと小気味いい音をたて撃退します。
洋子とアイリスも、執事学校の出身ですので、執事防衛術の基本はできています。五郎と太郎のあとにつづき一同の逃走路をつくるため、八面六臂の活躍を見せています。
最後に庭師の源次郎が、その大柄な体で人波をかきわけかきわけ、ばったばったと相手を下していました。
藤村だけが、戦いには不得手で必死に眼鏡をささえて走り続けました。




