2
執事心得その一、執事はいついかなる時も無表情をすべし、という教えがあります。
五郎の指先が、パネルに並ぶスイッチのひとつをはね上げました。
その瞬間、ダッシュボードにまんまるな顔のキャラクターがホロ映像で浮かび上がりました。
「どうもどうも、それがし白鷺号AIのマルでございます。本日はお日柄もよく、久しぶりの遠出となって、拙者恐悦至極感謝感激あめあられでござりますう!」
「こ、これって……」
太郎はぼう然と目の前のホロ映像を見つめました。
「言ったとおりだ。この車には操縦者は本当はいらないんだ。コースを設定すれば、AIが勝手にハンドルを操作して、車を運んでくれる」
五郎の言葉に、マルと自己紹介したAIの映像ははげしくうなずきました。
「さようでございますとも。この白鷺号、いっさい事故はおこしませんぞ。大事なお客様のお命をお預かりして、どこまでもお運びますのでご安心を!」
五郎は太郎にそそいでいた視線を外し、前をむきました。
「わたしは自分で運転するのが好きだから、今はマニュアルモードにしている。疲れたらAIに任せられるから旅は楽にできる仕掛けだよ」
言葉を切ると、五郎はちょっと前方の上あたりを見上げました。
五郎の視線を追った太郎は、あっと小さく声を上げ、操縦席で伸びあがりました。
森がつきて、目の前に大京シティの全景が見えてきます。




