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実際、源次郎の巨体には、この客席は収まりきらないおそれがありました。かれ一人で、三人分の座席を占領しそうな気がするほどでした。
蒸気車後部には荷物を置くためのスペースがあり、そこは吹きっさらしの空間でした。
「僕はお父さんと前座席に座るよ。操縦を習得する必要があるからね」
太郎が一歩前へ出て声を上げました。
「それなら五人になるから、なんとかなるんじゃない?」
洋子の言葉にそれまで黙っていた藤村が動きました。
「少しお待ちを……」
藤村が進み出て、手にしたあの算盤を源次郎の全身のあちこちに向けました。算盤に仕込まれている超小型のカメラが、源次郎の全身を細かくスキャンしています。
「さて源次郎さんの全体の容積と、客室のスペースを計算しまして……」
ぶつぶつつぶやきながら、藤村は忙しく算盤の珠をはじきました。
かちゃかちゃかちゃ……算盤の珠が細かく上下して計算結果をはじき出しました。
さらに藤村は美和子とアイリスについても計算をつづけました。
うん、とうなずき晴れ晴れとした笑顔になります。
「大丈夫です。源次郎さんと洋子さんを前の座席に座らせまして、わたくしが美和子さんとアイリスさんの真ん中に座れば、なんとか詰め込めると数字が出ました!」
アイリスは藤村を疑わしそうな眼付きでじいっ、と睨みました。
「あんたが美和子はんと一緒にすわりたいから、そんなんいうてるんちゃうやろな?」
「と、とんでもない! わたしはそんな……」
眼鏡の奥の両目を飛び出るばかりに見開き、藤村は抗議の声を上げました。
おずおずと源次郎が両手をひねくりながら発言しました。
「あの……わっちは最初言ったように、荷物置きでええですだ」
それまで黙っていた美和子がぴしゃりとその場を切り捨てました。
「もう、出発が遅くなるだけだわ。とにかく荷物を運んで、用意を終えないといつまでたっても出かけられないわ」
そして美和子は源次郎に言いました。
「あんたは後部荷物置き。それでいいわね?」
「へえ、ありがたいこってす!」
あきらかに源次郎はほっとした様子でした。
全員がどうにかこうにか乗り込み、蒸気車は中庭から真行寺家の前庭へと移動を始めました。




