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百合子はぼんやりと美和子を見つめました。
「それをしたいと……?」
「はい」
短く答え、それまでひねくっていた膝のハンケチをテーブルに置きました。手許を一切見ていないのに、見事な鶴がおられています。
「わたくしこのお屋敷と、学校生活しか知りません。あまりに世間知らずで、これでは花嫁になるには教養も、常識も足りないと自覚しています。だからこの際、世間を知るということもふくめ、日本国を旅したいと思うのです」
それまで壁際で三人の会話を聞いていた太郎が、そばにいた五郎を見上げ執事特有の”暗話”という技術で話しかけました。これは特殊な発声法を用いて周囲には聞こえない音で、会話する執事やメイドたち召使の技術です。もちろん洋子やアイリスも二人の会話は聞こえています。
「お父さん、妙な具合になりましたね。花嫁修業とはつまり?」
「ああ、本当の目的はF田のお宝だ! 美和子お嬢様、考えたものだ」
「どうしますか。僕は美和子お嬢様が心配です」
「だが、お嬢様の意思は固い……というより、こうと決めたら一歩も引かないのがお嬢様だ。お前も覚悟するんだな!」
「僕が! それはどういう意味ですか?」
ここで五郎は太郎に顔を向けました。
「決まっているだろう。お前がお嬢様を守るため同行するんだ」




