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美和子が着席すると、百合子は壁に下がっている太めの紐をぐい、とばかりに引っ張りました。どこか遠くでベルが壁の向こう側からかすかに聞こえました。
すると部屋のもう一方の端にある小さなドアが開き、そこからお盆をささげ持った一人の若者が姿をあらわしました。
まっ白な厨房の制服に、頭には小さなこれもまたまっ白な帽子をかぶっています。
身長は太郎と同じくらいで、福々しく太った、なんだか一目見ただけで笑いがこみあげてくるような、滑稽な印象をあたえる若者でした。せかせかとした小さな歩幅の歩き方で、途中毛足の長い絨毯につまずいたのか、ちょっと足元が乱れました。
おっとと、と小さく声を上げると待ち受けている両親のもとへ近づきます。
「幸次君。今日は落とさなかったわね」
百合子が目を細くして幸次、と呼びかけた若者に声をかけると、あいては真っ赤になり恐縮してしまいました。
「はい、なんとか」
つぶやくように答えると、お盆の布巾をめくりました。
そこにはティー・セットと数種類の小さなお菓子が載っていました。若者は素早くそれらを丸テーブルに配置すると、胸ポケットからハンケチを取り出し額をぬぐいました。気が付くとかれの額から大量の汗が噴き出していました。
田端幸次というのが、この若者の名前です。




