第十三話
「いらっしゃい。……おや、お客さん、ここは初めてかい?」
そう言って、笑いかける。
「そう、なりますね。そして、今日が最後」
嗚呼、これは。
こいつもまた、わたしに蘇生をさせる気だ。
「……そうかい。それは残念だ。で?誰を蘇生させたいんだい?」
「5日前に死んだ、Aというパン屋の娘を。対価はこれで」
そう言って、彼は机にアタッシュケースを載せた。
その中身を、少しだけ覗く。
__ざっと500万ロア、ってとこか。
この程度の年齢のやつにしては、良く用意したな、と思う。
「いいだろう。嗚呼、そうだ。誰の命を犠牲にする?」
「自分の命で」
その言葉に、迷いはない。
本当に、覚悟を決めてきたのだろう。
「そうかい。それじゃあ、お前の名と、蘇生したい娘の真名、もしくは戸籍名を教えてくれないかい?」
「……どうして、ですか」
そりゃあ、そうだ。
戸籍名でさえ、この世界の住人は話したくないのだから。
「それって本当に意味あるんですか?」
「私にもわからない。だけれど、その方が成功率は高い」
言葉に宿る神様が、手伝ってくれている気がする。
なんて子供じみたことは、言わないけれど。
「……俺は、翠雨といいます。翡翠の翠に雨で、翠雨」
「そして、娘の名は?」
瞳が揺れる。
目が覚めるような碧色の瞳が、こちらを向いたのは、しばらくしてからのことだった。
「叶うに愛と書いて、叶愛」
「そうかい。……ふたりとも、良い名前をもらったんだね」
そんなことより早く、という瞳に急かされながら準備をする。
「汝、彼の者……翠雨の魂をかけて、彼の愛する者をこの世に蘇らせ給え」
その瞬間、視界が真綿のような白に染まった。




