第十二話
数年前と同じように、私がレジを担当するようになった。
__今までが楽すぎただけ。
そうわかっていても、体力のなさも相まって、すぐに疲れてしまう。
あの子……叶夜が死んで、5日。
始めは悲しんでいた常連たちも、次第に元の生活に戻っていく。
今も悲しんでいるのは、もう数えるほどしかいなかった。
鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。……今日で、最後です。……受け取っていただけませんか?」
嗚呼、今日も彼が来てしまった。
彼は今まで、直接叶夜に渡していたのに。
「ええ、わかったわ」
ありがとうございます。
そう言って、彼は笑う。
その笑顔には、私達が持つ諦めとはまた違う、〝ナニカ〟が滲んでいた。
「それと……彼女が1番好きだったパンを、教えていただけませんか?」
「あの子が好きだったパン……私にも、わからないわ」
けれど、と付け足す。
「あの子はよく、クリームパンを食べてたわ」
本当に好きだったかは、わからない。
こんなことになるなら、もっと聞いておけば……。
そんな考えが、私を支配する。
「そう、なんですね……ありがとうございます」
笑おうとしたのだろう。
けれど、無理に口角をあげようとしているのがバレバレだ。
「泣いてもいいのよ」
暫くの間、沈黙が流れる。
「私達だって、そりゃあ悲しいけど……きっとあなたも、同じくらい悲しかっただろうから」
「……僕は、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
そう言って、彼はカウンターから離れていった。
__その日、彼はふたつのパンを買った。
いつも買っていたクロワッサンと、クリームパン。
どこか、悲しそうにしながら。




