第十話
「……付き合ってください」
そんな声が、聞こえた。
「あのふたりか。あーあ、つまんないの」
思わず声が漏れた。
あぁ、今の声聞かれたかな。だとしたら厄介だし、情報集め失敗だ。
そんなことを思ってしまうあたしは、夢がないのかもしれない。
顔も覚えていない、ただの金づるたちの関心事。
昔は『トクベツ』だったはずの彼女のことも、もうその程度にしか思えなかった。
__彼女はもう、あたしのことなんて忘れているだろうけれど。
あたしも早く忘れたいな、と思いながら、ふたりの会話に聞き耳を立てる。
「……私でいいの?」
「君がいいんだ」
恋愛漫画のテンプレのような告白。
その姿はあたしに、昔の彼女を思い出させた。
〜〜〜
「付き合ってください!」
「ごめんね、恋人いるから……」
そう言って笑う彼女は、どこか、悲しそうだった。
「そう、ですよね……聞いてくれて、ありがとうございました」
諦観を持つ瞳。
その瞳から目を離して、あたしは玄関に向かう。
玄関で待ってるって、そういう約束だったから。
いつも通り、あたしの方が先について。
いつもと同じ言葉を、口から吐く。
「やっぱ告白?相変わらずモテるね〜」
「……どうせ見てたんでしょ?」
図星。けどそれを悟られるわけにはいかない。
だって、そんなことしたら『情報屋失格』だから。
「……そんなことないよ?」
「嘘つき」
「ごめん」
謝ったところで、どうにもならない。
けれど、謝った方が楽だったから。
「もう5回目だね。私、疲れたよ」
「そんなに嫌なら、別れる?」
すんなり出てしまった言葉。
その言葉が、私達の関係を狂わせた。
「そうだね。……ばいばい、蛍」
〜〜〜
それから何年が経ったのだろうか。
未練はもうない。
けれど、今でも思う。
どうしてあの時、別れたんだろう、って。
「コードは『スイ』だけど、本当の名前は聞いたことないから」
その言葉に、驚いてしまった。
「コード、って?呼び名みたいなもの?」
「たぶん、そう。昔付き合ってた子が、コードって言ってたんだ」
ねえ、叶夜。
どうして、あたしのことまだ覚えてるの?
「そっか。僕の名前は……」
言いかけたところで、離れた。
この世界で、名前を聞くのはご法度だから。
隣の家の屋根に飛び移ろうとしたとき。
叶夜と、ほんの少しだけ目があった気がした。
ありがと、叶夜。
そして、ばいばい。
……やっと終わりが見えてきた。
一応補足。
情報屋ちゃん → 蛍 / ほたる
パン屋ちゃん → 叶夜 / かや
名字はコストk(((
えーと、あっても使うことがないので自然となくなりました




