第96話:神の鍵のハンダ付けと、全自動お世話システム
「……はぁ。本当に、困っちゃうな。明日はついにリゾートのグランドオープンだってのに、最後の配電盤チェックの最中に『光る石っころ』なんか持ってこないでくれるか? 暗くて手元が見えにくくなっちゃうじゃないか」
アビス最下層の極楽リゾート、その中枢を担う地下配電室。
すっかり「現場のWi-Fiルーター(通信インフラ)」として馴染み、頭にタオルを巻いた宇宙の管理者(元・神々)たちが、恭しく両手で掲げていたのは、地球のダンジョン全てを意のままに操れるという宇宙の至宝『マスターコア(神の鍵)』だった。
「お、親方ァ! これは我々の忠誠の証! この鍵を使えば、世界を意のままに――」
「あー、わかったわかった。ありがとうね。要するに『ちょっと性能のいい制御盤』なんだろ? ちょうどいいや、基盤の隙間に組み込んであげるから」
ケントはマイルドな笑顔を浮かべながら、宇宙の至宝をポンと受け取った。
『宇宙の至宝が「ちょっと性能のいい制御盤」扱いww』
『神々が完全に親方に媚びる下請け業者になっとる』
『親方の受け取り方が、近所のおばちゃんからみかん貰うテンションww』
ケントはマスターコアを素手でペタペタと触る。
【構造把握】――!
今回は視覚ではなく「指先から伝わる微弱な静電気(脈動)」を読み取り、コア内部の複雑怪奇な神の回路と、現場の配電盤のどこを繋げばいいか、一瞬で完璧な結線ルートを脳内に弾き出した。
「よし、回路は読めた。結線するぞ」
【超速クラフト】起動。
ケントは腰袋から、愛用の『魔獣爪のワイヤーストリッパー』を取り出し、配電盤から伸びる極太の魔力神経の皮をスッと綺麗に剥く。
そして、むき出しになった導線にマスターコアを添え、カンカンに熱した『火の魔石付き・精密ハンダごて』を優しく、しかし迷いなく当てた。
「いいか? 配信を見てくれてるみんなも、DIYの参考にしてみてね。ハンダ付けのコツは、金属をドロドロに溶かしたあと、表面張力で『綺麗な富士山の形』になるようにスッと熱を逃がすんだ。そうすれば、絶対に断線しない現場仕様の完璧な結線になるんだ」
『出た! おっさんの優しすぎる現場の知恵!』
『神の鍵をハンダ付けで電子工作するおっさんww』
ジュワァァァァッ……。
心地よい松ヤニの匂いと共に、宇宙の至宝は、一級建築士の滑らかな手さばきによって「配電盤の一部」として物理的に溶接(ハンダ付け)されてしまった。
「お、親方!? 宇宙の至宝に直接銀色のドロドロ(金属)を垂らして、無理やり配電盤に繋いじゃいましたよ!?」
現場監督補佐の霞が顔を引きつらせる。
「慌てるんじゃないぞ、霞。これでこのリゾートは完成だ」
ケントは額の汗を拭い、マイルドで優しい笑顔で親指を立てた。
「あのコアを『現場のデカい脳みそ』として配電盤に直結したんだ。これで、人間が通れば勝手に照明が点き、お風呂のお湯が冷めたら勝手に沸き直す。いちいち手でスイッチを入れる手間を省くための、究極の『全自動スマートホーム』の完成だ」
『神の鍵を人感センサーライトの親機にしやがったwww』
『風呂の自動お湯張り機能(宇宙の至宝)』
『スケールバグりすぎて笑い止まらんww』
ピカァァァァッ!
その瞬間、アビス極楽リゾート全域の照明が、まるで生きているかのように完璧なタイミングで一斉に点灯し、地下空間を真昼のように優しく照らし出した。空調も、常に人間にとって最も心地よい温度の微風を送り始めている。
『うおおおお! リゾート全体が生きてるみたいだ!』
『神様の鍵、めちゃくちゃいい仕事してるww』
「よし、通電ヨシ! 全自動システム稼働ヨシだ! みんな、よく手伝ってくれた。開通記念の手当だ」
ケントはクーラーボックスから『Aランク魔獣ミルクと蜂蜜で作った、極冷えの特濃ソフトクリーム』を取り出し、神々と筋肉たちに一人ずつ丁寧に手渡した。
「「「いただきますッッ!!!」」」
「ああっ……! 配線の熱気で乾いた喉に、極上の冷たさとミルクの暴力的なコクが溶けていくぅぅっ♡」
「しかも、座ってるだけでちょうどいい風(自動空調)が吹いてくるでしゅ! もうこの完璧な空間と甘味から一生抜け出せないでしゅぅぅっ♡」
自分たちの至宝を配線工事の部品にされたというのに、管理者たちは完全に焦点の合わないアヘ顔を浮かべ、ソフトクリームを頬張りながら歓喜の社畜へと堕落しきっていた。
『神様がソフトクリームで昇天してるww』
『完全に餌付け完了してて草』
「ふぅ、これで全てのインフラが完璧に繋がったな」
ケントは首のタオルで汗を拭い、完璧でマイルドな営業スマイルで光り輝く遊園地を見渡した。
魔法も呪いも宇宙の脅威も、すべてを「快適な現場の設備」へと変えてしまった一級建築士の超絶DIYと、圧倒的なホワイト待遇。
そしていよいよ、究極のスマート・リゾートの『グランドオープンの朝』がやってくるのだった!




