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第92話:風の魔石と泥だらけのVIP

「……はぁ。マジで勘弁してくれよ。せっかくの最高級BBQの真っ最中だってのに、変な『空間の歪み』が発生してやがる。どこぞの馬の骨とも分からねえアポなし訪問者が、宇宙のバイチリを食い物に撒き散らしたら、食中毒で現場が営業停止になっちまうだろ……」


アビス最下層の極楽リゾート。

ケントは、ため息をこぼしながらも、腰袋から愛用の工具を引き抜いた。


「チッ、来るなら来い。だが、現場の衛生ルール(手洗い・うがい)は絶対に守らせるぞ!」


【超速クラフト】を発動させる。

ギャリリリリリリッ! バチバチバチィッ!!

ケントは足元に転がっていた『鉄骨の端材』と『Aランク魔獣・突風鳥の巨大な肺』を引っ掴み、凄まじい火花と油を浴びながら、ポータブル溶接機で強引にパズルみたいに組み上げていく。

転移地点をスライムの粘液で隙間なく囲い込み、あっという間に『鉄の小部屋(特大の手洗い場)』を錬成してしまった。


「いいか霞! パンパンに膨らませた『風船』の口を開けたら、中の空気が勢いよく『外』に飛び出すだろ!?」

ケントは魔獣の肺を小部屋に繋ぎ、マイルドな笑顔で言い放つ。


「この小部屋の中は、魔獣の肺から送る風で常に『パンパンの風船状態』にしてある! だから外の扉が開いても、中の風が外に向かって吹き出すから、絶対にバイチリが入り込めないんだ!」


『エアシャワーと二重扉の理屈を、風船とロープで完全再現してて草』

『神様の転移先を、ただの「手洗い場」で囲うおっさんww』

『食中毒への危機感が宇宙の危機を上回ってる』


その直後だった。

『愚かな下等生物どもめ! 我ら管理者が直接、貴様らに死を――』

ピカァァァァッ! と神々しい光と共に、宇宙の管理者たちが小部屋の中に転移してきた。


しかし、彼らの威厳に満ちた宣告は、最後まで続くことはなかった。

ゴォォォォォォォォッ!!!

「ぎゃあああああッ!?」

部屋の中に充満していた凄まじい突風(魔獣の肺の全力ブレス)が、管理者たちの全身を物理的に殴りつけたのだ。彼らが纏っていた神々しいオーラや宇宙のチリは、情け容赦なくすべて吹き飛ばされ、ただの「ピカピカに殺菌された宇宙人」へと成り下がってしまう。


「おい、そこの新入り! 現場のルールも知らんのか!」

突風に揉まれてフラフラになった管理者たちの背後から、怒声が飛んだ。

そこにいたのは、作業ですっかり泥だらけになった国連トップや大統領(VIP)たちだった。

彼らは「BBQの前に手を洗う」という現場のルールを忠実に守り、トイレの順番待ちの列を作っていたのだ。


「いいか! 親方様の現場では、神だろうが何だろうが『手洗い・うがい』は絶対だ! 順番(列)を割り込むな、最後尾に並べぇッ!」

世界経済を回すトップたちが、宇宙の神に向かって「現場のオッサン」特有の激しい説教をかます。


『大統領がただのドカタのオッサンになっとるww』

『宇宙の神様、便所の順番待ちで怒られるの巻』

『腹痛いwww』


「よし、スポンサー様。現場の風紀を守ってくれて助かる。」

ケントは小窓から、最高に香ばしく焼き上がった『極上の霜降り魔獣肉のジャンボ串焼き』と、『キンキンに冷えた強炭酸の生ビール』をVIPたちに差し入れた。


「「「いただきますッッ!!!」」」

「ああっ……! 説教で乾いた喉に、極冷えのビールが致死量の快楽を運んでくるぅぅっ! 労働の後の肉、最高だァァッ!」

宇宙の神が目の前で呆然としているというのに、VIPたちは完全に焦点の合わないアヘ顔を浮かべ、ビールを浴びるように飲んで歓喜の社畜へと堕落しきっていた。


「な、なんだこの屈辱は……! 貴様ら、我らを誰だと――」

ピカピカに殺菌(物理)され、プライドを粉々にされた管理者たち。

その時、ガチャリと奥の扉が開いた。


そこには、巨大な粘着カーペットクリーナー(特大コロコロ)を手にしたケントが立っていた。


「よし、衛生チェック合格だ! お前ら、随分と威勢がいいが……今日から入る遅れてきた新人バイトか?」


宇宙規模の絶望的脅威すらも、一級建築士のおっさんにとっては「手洗い場を通り抜けてきた、ただの威勢のいい新入り」でしかなかったのである――!

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