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第91話:あやとりの理屈と「神殿の捕獲」

「……はぁ。ホント、勘弁してほしいよな。なぁ視聴者のみんなも、そう思うだろ?」


アビス最下層の上空3000メートル。

宇宙の『管理者』たちが乗る超巨大な浮遊神殿が、地上を丸ごと消し去るための『創世の光(神罰レーザー)』のエネルギーを充填し、ピカピカと物騒な光を放ち始めたその時。


首にタオルを巻いた現場監督・ケントは、ルミナのドローンカメラに向かって、中間管理職の悲哀をたっぷり背負ったため息をこぼした。


「せっかくのBBQ会場の真上で、あんな『特大の草焼きバーナー』みたいな光を当てられたら、昨日張ったばっかりの高級芝生が焦げてやり直しじゃねえか。施主様にどう言い訳しろってんだよ、あの悪質クレーマーどもは」


『いやおっさん! あれ芝生どころか地球が焦げるヤツ!!』

『人類の滅亡より、自分が張った芝生の心配してて草』

『またクレーム恐れてるよこのおっさんww』


ドローンが視聴者の的確なツッコミを拾う中、現場監督補佐の東雲霞が、あまりの絶望に膝から崩れ落ちていた。

「お、親方! 草焼きバーナーなんてレベルじゃないです! 星のことわりを焼き尽くす、神話級のレーザーですよ!? 防御魔法を張らないと、私たちが蒸発しちゃいます!」


「エリート君、現場に魔法なんていう不確かなモンは持ち込まない主義だ。それに、ただデカいだけのハリボテなら、的がデカくて外しようがない」


ケントの瞳が青く発光する。

上空で偉そうに浮かぶ神殿の『重心』、そして外壁の装飾の隙間(脆いジョイント部分)。そのすべてが一瞬でケントの脳内に青い図面として透けて見えた。


「よし、寸法通りだ! 」


ギャリリリリリリッ! バチバチバチィッ!!

ケントは足元に転がっていた『鉄骨の端材』と『魔獣の骨』を無理やり繋ぎ合わせ、凄まじい火花と油を浴びながら、巨大なボルト打ち機で「特大の釣りアンカー」を錬成。それに『魔獣の極太の筋繊維ワイヤー』を結びつけ、巨大な手巻きウィンチをパズルみたいに組み上げた。


『いやおっさん! ここアビスの最下層(地下)だぞ!? 地上通り越して上空までワイヤー届くわけないだろww』


「地下から地上までブチ抜いた『巨大換気シャフト』があるから射線は通ってる。それに、射出と保持のパワーは解決済みだ、古代竜のパワーを直結させているしな」


ケントの合図と共に、四方から放たれた極太のワイヤーが上空へカッ飛び、神殿の脆い外壁にズバァァァンッ! と容赦なく、かつ完璧な角度で深々と突き刺さった。


『な、何事だ!? 下等生物め、我らが神殿に物理的なヒモを突き刺しただと!?』


神殿内部で、宇宙の管理者たちが慌てふためく声が響く。


『ええい、鬱陶しい! 浮力を最大まで上げろ! 推進力120%! 一気に宇宙空間まで引きちぎって上昇し、安全圏からレーザーで焼き尽くしてくれるわ!』


ゴォォォォッ! と、神殿が凄まじい魔法の推進力で真上へ逃げようとする。

その恐るべき力に、ワイヤーがギリギリと悲鳴を上げた。


「お、親方! ワイヤーが引っ張られてちぎれそうです! やっぱり神様の力には勝てませんっ!」

霞がヘルメットを押さえて絶叫するが、ケントは余裕の表情でドローンにウィンクを飛ばすと、巨大なパイプレンチでウィンチの歯車を『ガコンッ!』とロックした。


「慌てるな霞! 画面の前の連中も、子供の頃に指に毛糸を引っ掛けて『あやとり』をやったろ!?」


ケントはカンカンッ! と、ピンと張り詰めたワイヤーをレンチで叩く。


「今、俺たちは神殿の四隅からワイヤーを引っ掛けて地面のウィンチに完全固定した! あいつらが上に逃げようと力(浮力)を上げれば上げるほど、ワイヤー同士がバチバチに引っ張り合って、逆に空中の『完全に同じ位置』から動けなくなるんだよ!!」


『宇宙の超技術を、ただの「あやとり」の理屈で無力化したぞこのおっさん!』

『引っ張れば引っ張るほどガチガチに固定されるの物理法則エグい』


ケントの宣言通り。宇宙へ逃げようとした神話級の神殿は、自らの『無限の推進力』と『ワイヤーの張力』が見事に拮抗し合い、空中でピタッと静止してしまった。


『ば、馬鹿な!? なぜ1ミリも上昇しない!? 限界まで魔力を放出しているのに、ただ空中でブルブル震えているだけだと!?』

『こんな原始的な物理のヒモに、我らの神殿が敗北したというのかぁぁっ!?』


上空から響き渡る、神々の完全な絶望と発狂の声。

その滑稽すぎる姿を、ルミナがドローンカメラで世界中に配信する。


「み、みんなー! 宇宙の神様の島が、遊園地で迷子にならないように腕に結ばれた『フワフワの風船』みたいに繋がれちゃいましたー!」


『神話の要塞が、完全に迷子防止の風船扱いで草』

『地上のタワマンで絶望してた俺の涙を返せww』

『おっさんの前じゃ、宇宙の神もただの「建築資材(空き地)」なんだよなぁ』


「よし、足場(神殿)の固定ヨシ! お前ら、よくあの強烈な張力とワイヤーの衝撃に耐えたな! 危険手当だ!」


ケントは傍らで予熱していたBBQグリルから、『Aランク魔獣の極上厚切りタン塩(特製ネギ塩ダレ)』を熱々の串ごと取り出し、ウィンチを支えていた筋肉たちにドンッと気前よく振る舞った。


「「「いただきますッッ!!!」」」

「ああっ……! 疲弊した筋肉に、極上のタンパク質とネギ塩の塩分が爆発的に染み渡るぅぅっ! 噛むたびに溢れる肉汁が細胞を修復していくゥゥッ!」

「うひぃぃっ♡ 地球の危機なんてどうでもいい! 親方様の現場のまかない(焼肉)が最高すぎるでありますぅぅっ!」


頭上で神殿が「離せぇぇ!」と藻掻き苦しんでいるというのに、現場の筋肉たちは完全に焦点の合わないアヘ顔を浮かべ、極上の肉に齧り付いて歓喜の涙を流す究極の社畜へと堕落しきっていた。


『頭上で神が泣いてるのに、下では焼肉食ってアヘ顔キメてるの狂ってて好き』

『これがホワイト現場の圧倒的余裕(タンパク質補給)』


「おのれェェェッ! 下等な人間ごときが、我ら管理者を風船扱いだと!? ええい、こうなれば直接下界に降りて、物理的に奴らを消し去ってくれるわッ!」


最大の神罰をただの『あやとり』で封じられ、神としてのプライドを粉々に打ち砕かれた宇宙の管理者たち。

彼らは怒りで完全に我を忘れ、ついに自らの肉体をケントたちのいるアビス最下層(BBQ会場)へと直接転移ワープさせたのだった!

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