第89話:グランドオープン前夜祭と、迫り来る「観測者」
「……はぁ。勘弁してくれ。明日はアビス極楽リゾートのグランドオープンだって言うのに、施主から『前夜祭の宴会を頼む』って直前の無茶振りか。下請けの現場監督を居酒屋の幹事か何かと勘違いしてんじゃないのか……」
アビス最下層に完成した巨大な地下遊園地の広場。
首にタオルを巻いたケントは、ため息をこぼしながらも、手にはしっかりと巨大なディスクグラインダーを握っていた。
「だが、愚痴ってても始まらない。文句つけられないレベルの美味い飯を食べさせて、現場の士気を限界まで上げるぞ!」
ケントの瞳が青く発光する。
【構造把握】――!
地下広場の気流、酸素濃度、そして目の前に積まれた大量の『Aランク魔獣の素材』と『鉄骨の端材』。そのすべてが一瞬にして、ケントの脳内で完璧な排熱構造のパズルとして組み上がった。
ケントのスキルにより、魔獣の素材と鉄骨が一瞬で絶妙な角度に組み上がる。
だが、現場の作業は魔法の自動組み立てでは終わらない。
「……よっこいしょっと! 夜勤明けの四十肩には堪えるなぁ」
ケントは火花と油を全身に浴びながら、現場用の『巨大なシャコ万力(鉄のクランプ)』で甲殻と鉄骨をガコンッ! と強引に挟み込んで仮止めする。
そして、愛用の超大型インパクトレンチを構えると、極太のボルトを「ダダダダダッ!」と次々に打ち込み、力任せにバキバキに縛り上げて完全固定していった。
泥臭い手作業による補強。わずか数十秒で完成したのは、スタジアムの観客席のような『超巨大な反射板付きBBQグリル』だった。
「いいか霞、 炭火ってのはただ熱いだけじゃない。 炭から出る『目に見えない熱の波』を、この背後の魔獣の甲殻(反射板)でグリルの中央に全部集めるんだ」
ケントはマイルドな表情で、バイオマス肥料から爆速成長した『極上の巨大野菜』と、『分厚いAランク魔獣肉』を網の上に豪快に放り投げた。
「表面を強火で一気に焼いて、キャラメルみたいにサクッと焦がす! そうすりゃ、肉の表面が『分厚いフタ』になって、中に極上の肉汁をガッチリと閉じ込める(鍵をかける)ことができるんだよ! 現場の知恵だ!!」
『炭火の反射熱と焦げ目の科学を、現場の知恵だけで完璧に制御してて草』
『肉汁に鍵をかけるって表現、ズルすぎるだろ腹減ってきたww』
『親方のDIY、ついに究極の調理器具まで錬成したぞ!』
ルミナのドローンが的確なコメントを拾う中。
ジュワァァァァァァッ……!
広場全体に、脳の理性を吹き飛ばす暴力的な肉と脂の香ばしい匂いが充満した。
「よし、焼き上がりヨシ! お前ら、食え!」
ケントの合図と共に、ヤンデレ現場警備員のマリア、元軍人の筋肉たち、そして国連トップや大富豪のVIPたちが一斉に肉と野菜に群がった。
「「「いただきますッッ!!!」」」
一口噛み締めた瞬間。
「あぁぁぁっ……! 表面はサクッとしてるのに、中からとんでもない量の肉汁の洪水がぁぁっ! 親方様の極上の愛が、私の全身の細胞を犯していくぅぅっ♡」
「ダメだ、こんな美味い野菜食ったことないでちゅ! ヘドロから育ったなんて信じられないでちゅ! もう一生この現場でタダ働きするんでちゅぅぅ!」
VIPも筋肉も、完全に焦点の合わないアヘ顔を浮かべ、歓喜の涙とよだれを撒き散らしながら究極のBBQを貪り食う。
動力源の古代竜すらも『おおおっ、我が人生(竜生)に一片の悔いなしぃぃ♡』と、極上肉を丸呑みしてヘソ天で完全に堕落しきっていた。
『大統領も神話の竜も、完全に餌付けされた社畜で草』
『この現場、報酬がカンストしてて誰も逆らえねぇww』
時を同じくして。地上の超高級タワマンのベランダから配信を見ていた元サバイバル配信者・泥水ススルは、自前で用意した『最高級A5和牛のステーキ』を噛み締めながら、ガクガクと膝を震わせて血の涙を流していた。
「な、なんだよこれ……。俺の食ってるウン万円の高級和牛が、ただの消しゴムに思えてきたじゃねえか……っ! もしもし不動産屋か!? このハリボテのタワマン、今すぐ売ってくれ!! その金で俺もアビスの底(VIP待遇)に行かせてくれぇぇっ!!」
「ふぅ、これで施主様からのクレームは回避できたな。明日のオープンも問題なく迎えられそうだ」
ケントは首のタオルで汗を拭い、キンキンに冷えたビールジョッキを掲げた。
世界で最も過酷なはずのアビス最下層は、一級建築士の規格外のDIYと福利厚生によって、完全に「平和すぎる大団円の宴会会場」と化していた。
――しかし。
そのバズりまくった「平和な宴」の配信を、宇宙の果てから無機質な目で見つめる存在がいた。
『……観測結果を報告する。あの辺境の星(地球)に、我々の予測を凌駕する技術的特異点が存在する』
『ただの土木作業で、神話級の脅威や星の理すらも捻じ曲げている。このままでは宇宙の法則が崩壊するぞ』
『ええい、ならば手加減は不要! 我々【管理者】自らが、超巨大要塞(神殿)ごと地球へ降臨し、直接神罰を下す!』
地球の平和な宴の頭上で、宇宙規模の絶望的兵器が、静かに、そして確実に迫り来ようとしていた。
だが、そんな星を揺るがす宇宙の脅威すらも、翌日のケントにとっては「オープン記念に無料配達されてきた、ちょっとデカいだけの粗大ゴミ(建材)」にすぎないことを、彼らはまだ知る由もなかった――!




