第88話:巨大生ゴミ処理機(コンポスト)と、泥だらけのVIP
「……はぁ。勘弁してくれないか。せっかく水漏れ(津波)は防いだが、この残ったヘドロの山、どうやって片付けりゃいいんだ。」
可動式防波堤が受け止めた数万トンの猛毒ヘドロの海を前にして。
ケントは、ため息をこぼした。
だが、嘆いていても現場は進まない。
ケントの瞳が青く発光すると同時に【構造把握】を発動させる。
泥の中に含まれる毒素と有機物の割合、そして地下空間の気流。すべてがケントの脳内で一瞬にして分解され、一つの「処理ルート」が導き出された。
「要するに、栄養が腐って毒になってるだけの『特大の生ゴミ』じゃないか。無駄なパーツは不要だ」
ケントは防波堤からヒラリと飛び降りると、資材置き場から『Sランク魔獣のバカでかい甲羅』と、大量の『鉄骨の端材』を引きずり出してきた。
ケントのチートスキル【超速クラフト】が発動。
ケントのスキルにより、巨大な甲羅と鉄骨が一瞬で合体する。だが、ここからが現場監督の真骨頂だ。
「……よっこいしょっと! 夜勤の四十肩には堪えるな」
ケントは現場用の『特大シャコ万力(鉄のクランプ)』で甲羅と鉄骨をガコンッ! と強引に挟み込んで仮止めする。
そして、愛用の超大型インパクトレンチを構え、極太のボルトを「ダダダダダッ!」と次々に打ち込み、火花と汗を散らしながら力任せに完全密閉していった。
あっという間に、不格好だが異常に頑丈な『超巨大な密閉カプセル』が組み上がった。
「親方! ゴカ箱を作ったのは分かりますけど、ただ泥を入れただけじゃ猛毒は浄化されませんよ!」
現場監督補佐の東雲霞が的確なツッコミを入れる。
「慌てなくていい霞! 生ゴミってのは、密閉して『適度な熱』を加えてやれば、中の菌が勝手に泥を食って、ガスと綺麗な土に分解してくれるだよ」
ケントは、カプセルから伸ばした極太の鉄パイプを指差した。
「だから、このパイプの先を、回し車で走ってる『古代竜』の換気口に繋いできた! あいつの吐き出す排熱をパイプでタンクに流し込み、コタツみたいにぬくぬくと温めてやるんだ」
『古代竜の排熱をコタツ代わりにすなww』
『神話の竜、ついにただの「温風ヒーター」に降格』
『現場合わせの生ゴミ処理機のスケールがバグってる』
だが、ここで問題が起きた。
ヘドロの量が多すぎて、重機だけではカプセルに放り込むスピードが追いつかないのだ。
「……えーと、親方。後ろを見てください」
霞が引きつった顔で指差した先。
そこには、最高級のスーツを脱ぎ捨て、ケントから渡されたスコップを構えた国連トップや大富豪(VIP)たちが、目を血走らせて並んでいた。
「か、神よ! フルーツ牛乳のため……いや、我々にもその神聖なる浄化の儀式(泥かき)を手伝わせてください!!」
「我々の手で、世界を救うお手伝い(日雇いバイト)をさせてくれぇぇッ!」
ケントは額に青筋を浮かべた。
(……はぁ!? さっきの俺の冗談(煽り)を真に受けて、本当にガチのドカタ作業やる気なのか!? 施主にこんな泥だらけの作業させて、万が一怪我でもしたら一発で大クレームだな)
胃痛に耐えながらも、ケントは完璧でマイルドな営業スマイルを顔に貼り付けた。
「……助かります、施主様。では、絶対に怪我のないよう安全第一でお願いしますね」
その瞬間、世界のトップたちは「うおおおおッ!」と狂喜乱舞し、猛毒だったはずの泥(すでにケントのタンクに吸われかけて無害化し始めている)を、泥まみれになりながら満面の笑みでスコップで放り込み始めたのだ。
『大統領がただの日雇いバイトになっとるww』
『国連トップがドブさらいに歓喜する異常空間』
『おっさん、クレーム恐れて結局止められないの草』
数時間の泥臭い労働の末。ヘドロはすべて巨大カプセルに収まった。
「よし、お疲れさん。現場の手伝いボーナス(現物支給)だ」
ケントは、泥だらけでへたり込むVIPたちの前に、ドラム缶をぶった切って湧かした『極上の特設温泉』と、クーラーボックスから取り出した『キンキンに冷えた特製フルーツ牛乳』をドンッと置いた。
「「「いただきますッッ!!!」」」
ひとっぷろ浴びてフルーツ牛乳を喉に流し込んだ瞬間。
「ああっ……! 労働の後の、この圧倒的な冷たさと甘味……ッ! 五臓六腑に染み渡るぅぅっ♡」
「ダメだ、もう大統領なんか辞めるでちゅ! 俺はずっとこの現場で、スコップ握ってフルーツ牛乳を飲むんでちゅぅぅ!」
世界を牛耳るトップたちが、完璧に焦点の合わないアヘ顔を浮かべ、歓喜の涙とよだれを垂らしながら完全な社畜へと堕落した。
『VIP、完全に陥落してて草』
『この現場、報酬が即物的なのにホワイトすぎる……』
プシュゥゥゥゥッ……!
その時、古代竜の熱で発酵を終えた超巨大カプセルのバルブから、澄み切った無臭のガスが排出され(遊園地の電力へと変換され)、下部から『透明な水』と『ふかふかの豊かな黒土』がドサリと吐き出された。
そして、その極上の黒土の栄養を吸って、アビス最下層の硬い岩盤に――一輪の美しい花が、パッと咲き誇ったのだ。
『……うわぁ……花が、咲いた……』
『猛毒のヘドロが、世界一綺麗な土に……』
『親方ぁぁぁっ! 一生ついていきますぅぅ!』
配信画面越しに、全世界の人間が奇跡に感涙し、平伏した。
最凶のダンジョンを蝕んでいた猛毒のヘドロすらも、一級建築士のおっさんにとっては「美味しい野菜を育てるための、ただの良質な肥料」でしかなかったのである。




