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第87話:遊園地トランスフォーム(可動式防波堤)と安全率の暴力

ズゴゴゴゴゴォォォッ!!


アビス最下層。ケントが即席で作った波消しブロックで勢いを殺したとはいえ、数万トンに及ぶ『猛毒ヘドロ津波』の総量は尋常ではなかった。行き場を失った泥水が、ついに横から溢れ出し、VIPルーム(即席かまくら)の方へと牙を剥く。


『うわあああ! 溢れた! 世界が終わる!』

『最下層ごと消滅するぞ逃げてええ!』

ルミナのドローン配信のコメント欄が阿鼻叫喚に包まれる中。


「……はぁ。マジで勘弁してくれよ。ちょっとバケツをひっくり返した程度の『水漏れ』で、いちいち大騒ぎしないでくれ」

一級建築士兼、現場監督・ケントは、悲哀をたっぷり背負った、ため息を深くこぼした。

「もし一滴でもあの泥水が飛んで、スポンサー様の高級靴を汚しでもしたら、一発で大クレームが入って俺の営業スマイルがパァになっちまうじゃないか」


『いや神話級の災害を「バケツの水漏れ」扱い!?』

『おっさん、クレーム対応の恐怖が災害の恐怖を上回ってるぞww』


ケントは【構造把握】を発動させると、地面に倒伏している遊園地の『外周コースターレール』。その僅かな隙間や耐久値、そして押し寄せる泥水の水圧が、一瞬でケントの脳内にパズルのように分解・数値化された。


「チッ。今のままレールを壁にしても、隙間から泥水がすり抜けてきやがるな。……無駄なパーツは不要だ!」

重機から飛び降りたケントは、レールに取り付けられていたファンシーな装飾品を巨大なペンチで躊躇なくむしり取った。


そして、足元に転がっていた『Sランク・スライムの分厚い皮』と『魔獣の骨(端材)』を蹴り上げる。

「いくぞッ!」

ケントのスキルにより、スライムの皮と魔獣の骨が一瞬で完璧なバランスでレールに吸い付く。

だが、ケントの現場は魔法の自動組み立てだけでは終わらない。


「……よっこいしょっと! 夜勤の四十肩には堪えるな」

ケントは火花と汗を全身に浴びながら、現場用の『巨大なシャコ万力(鉄のクランプ)』でスライムの皮とレールを「ガコンッ!」と強引に挟み込んで仮止めする。

そして、愛用の超大型インパクトレンチを構えると、極太のボルトをダダダダダッ! と次々に打ち込み、力任せに完全固定していった。


泥臭い手作業による補強。あっという間に、ただの鉄のレールが「巨大なゴムボート(浮き輪)」のような不格好な姿に変貌した。


「親方! 工作終わりましたか!? 津波がもう目の前まで来てますってば!」

現場監督補佐の東雲しののめかすみが絶叫する。


「よし! ロック解除だ! 霞、第3レバーを引けェッ!」

「はいッ!」

霞が重機のレバーをガコンッ! と引きちぎる勢いで押し込んだ瞬間、地面に固定されていたレールのストッパーが外れた。


「いいか霞! お風呂の底に『空の洗面器』を沈めて手を離すと、バコンッ! ってすごい勢いで水面に飛び出してくるだろ!?」

ケントはマイルドな営業スマイルで迫る津波を指差す。

「今、地面に寝かせてるレールを、ボルトとスライムの皮で『特大の浮き輪』に改造した! あとは泥水がぶつかれば、その泥水自身の重さと『上に浮き上がろうとする力(浮力)』だけで、勝手にレールが起き上がるんだよ!! 現場の知恵だ!」


『お風呂の洗面器理論クッソ分かりやすいww』

『チート能力と極太ボルトの暴力で、レールを特大浮き輪に改造した!?』

『現場合わせのスケールがバグり散らかしてる』


ズドシャァァァァァァッ!!

猛毒の津波が、遊園地の外周レールに激突した。

その瞬間。ドゴォォォォンッ!! という凄まじい地鳴りと共に、地面に平伏していたコースターのレール群が、津波の圧力と強烈な浮力を受けて『巨大な一枚の壁(防潮堤)』として猛スピードで自動的に立ち上がったのだ。


スライムの皮で隙間を完全にコーティングされた防波堤は、一滴の泥水も通さない。

数万トンの猛毒の津波は、自分自身の力で立ち上げた強固な壁によって完璧に受け止められ、アビスの奥底へと虚しくUターンしていく。


「よし、水漏れ対応完了! 現場の安全ヨシ! お前ら、よくパニックにならずに持ち堪えたな。特別ボーナス(現物支給)だ」

ケントは、背後のクーラーボックスから『Sランク魔獣エキスが入り、キンキンに冷えた特製エナジードリンク』と、『完璧な温度でカラッと揚がった極上魔獣肉の串カツ』を取り出し、筋肉たちとマリアにドサッと配り始めた。


「「「いただきますッッ!!!」」」

受け取った瞬間、絶望的だった現場の空気が一変した。

「ああっ……! な、なんて美味さだ……! 死の恐怖すら一瞬で吹き飛ぶ、純度100%の旨味成分……ッ!」

「親方様からの、極上のカロリー……最高ですぅ、はわぁぁぁっ♡」

マリアと元軍人の筋肉たちが、完全に焦点の合わないアヘ顔を浮かべ、歓喜の涙とよだれを垂らしながら串カツを貪り食う。


『最前線で串カツ食いながらアヘ顔決めてるww』

『恐怖の即時反転からの、遅延ゼロの飯テロ報酬』

『この現場、ホワイトすぎて誰も逆らえねぇよ……』


そして、そのドタバタ劇をVIPルームの安全な窓から見ていた国連トップと大富豪たちは、恐怖ではなく、あまりのスケールバグに腰を抜かしていた。


「ば、馬鹿な……。あんな神話級の大災害が、ただの『遊園地のコースターのレール』に防がれただと……?」

「以前、彼が地震の時に言っていた『安全率』……。まさか彼は最初から、この規模の絶望的災害すらも想定して、遊園地のインフラを『世界最強の要塞』として設計していたのか……!」


VIPたちは、串カツをかじる泥だらけの作業着姿のケントに向かって、まるで全知全能の神を崇めるかのように、窓越しに土下座を始めた。


『VIPたちが親方に平伏してるww』

『大災害すら遊園地のギミックの一部』


時を同じくして。地上の超高級タワマンのベランダからルミナの配信を見ていた元サバイバル配信者・泥水ススルは、ガクガクと震える膝を抱えて血の涙を流していた。


「お、俺の億ション(タワマン)の数十億円かけた防犯設備より……あの地下の『ただの鉄屑レール』の方が、何百倍も頑丈で安全じゃねえか……っ! もうこんなハリボテのタワマン、今すぐ売却してやる!! 全財産叩いてでも、俺もあの地下現場で串カツ食いながら社畜になりてえよぉぉっ!!」


「ふぅ、これで施主様からのクレームは回避できたな」

ケントは首のタオルで汗を拭うと、防潮堤の向こう側にチャプチャプと溜まった、莫大な猛毒ヘドロの海を見下ろした。


「よし、水漏れは防いだが、次はこいつを再利用リサイクルして極上の天然肥料に変えるぞ。……おい、そこの安全地帯で土下座してるスポンサー(えらいさん)共!」


ケントは完璧でマイルドな営業スマイルを浮かべると、窓越しに平伏している国連トップや大富豪たちに向かって、泥だらけのスコップをドンッ! と突き出した。


「せっかくの現場視察だ。あなたたちもスコップを持って! 最高の汗を流させてあげますよ!」


「えっ……我々が、泥かきを……?」

「ああ! 終わったらキンキンに冷えた『特製フルーツ牛乳』を奢ってやるから、死ぬ気で掘れ!」


「ふ、フルーツ牛乳だと……!? ごくりっ……」

さっきまで威厳を保っていた国連トップが、美味すぎる現場飯の魔力に抗えず、ふらふらとスコップを握りしめた。


『大富豪に泥かき(ドカタ)させる気だww』

『VIPすらも日雇い労働者にする男』

『フルーツ牛乳で国連トップを雇うなww』


世界を滅ぼす真の脅威すらも、一級建築士のおっさんにとっては「無料の資材」であり。

世界を牛耳る絶対的な権力者たちすらも、彼にとっては「ちょっと便利な無料の労働力インターン」でしかなかったのである――!

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