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第85話:夜のパレードと、アナログ巻尺(ドローン測量)

「……はぁ。とりあえずスポンサー(えらいさん)のご機嫌取りは上手くいったが、息つく暇もねぇな。現場監督ってのは、施主が寝てる間に『次の工程の安全』を気にしなきゃならねぇんだからよ……」


VIPたちが最高級ドームの中で極上ステーキと完璧な空調に溶け、幼児退行して爆睡し始めた頃。

ケントは一人、外の泥だらけの資材置き場にドカッとしゃがみ込み、首のタオルで汗を拭いながらボヤいていた。彼の視線の先には、アビス最下層の奥深く、巨大な暗闇の壁がそびえ立っている。


「どうもさっきから、あの奥の壁の向こう側から、嫌な『水漏れ』の音がするんだよな。……よし、サクッと現場の地形測量チェックをするか」


ケントがドンッと泥の上にぶちまけたのは、一機数十億円は下らない『超最新鋭の軍事用AIドローン』の残骸の山だった。


「ちょっ、親方!? それ国連軍の最高機密兵器ですよ! なんでそんな国家予算レベルのヤバいもん、ただの鉄屑みたいに持ってるんですか!」

現場監督補佐の東雲しののめかすみが悲鳴を上げると、ケントは鼻をほじりながら答えた。


「あ? さっきVIP共がエレベーターで降りてくる前に、ウロチョロと偵察に飛んできたからよ。マリアたちが『親方の空を飛ぶな』って、ハエ叩き感覚で全機叩き落としてたのを回収しといたんだよ」


「だからあのお偉いさんたち、死を覚悟してガタガタ震えながら降りてきたのね!?」


霞の納得のツッコミを背に、ケントは泥だらけの手でドローンに触れ、チートスキル【構造把握】を発動した。


「ほう……なるほどな。無駄に繊細な回路だ。こんなもん、現場の泥ぼこりですぐバグっちまう。いらねぇ!」

ブチィッ!!

ケントはスキルで数十億円の機体の構造を完全に理解した上で、躊躇なくAIチップ(頭脳)をペンチでむしり取り、ポイッと背後に投げ捨てる。


「いくぞ、……」

ケントが五十肩を回しながら気怠げに【超速クラフト】を発動した瞬間。

その辺で拾った『音波コウモリの魔石』と『赤い光を放つ火の魔石』が光に包まれ、ドローンの基盤とパズルのように一瞬で完璧に直結された。

さらにケントは、ペンチで針金をギリギリッとねじり上げ、ドローン全体を乱暴に縛り上げてガッチリと現場仕様に補強する。


「いいか霞! 魚の群れがぶつからないのは、お互いの距離を測ってるからだ! このドローンも同じ! コウモリの音波で仲間とぶつからないように飛び回らせ、赤い光を壁に当てて距離を測る! ただのアナログな『空飛ぶ巻尺』の完成だ!」


「数十億円の機体を一瞬で解析したと思ったら、最新の『3Dレーザー測量』の理屈を、ただのコウモリの石と針金で強引に作らないでよ!? 兵器の無駄遣いにも程があるわ!!」


『チートスキルからの、最後は番線(物理)で補強ww』

『親方の前では最新AIもただのデリケートなゴミ』

『国家機密をペンチでむしり取るおっさん』


ルミナのドローンが的確なコメントを拾う中。

霞のツッコミを背に、ケントは「……よっこいしょっと。夜勤は体にこたえるな」とボヤきながら、針金だらけの無骨なドローンたちを、まるで生ゴミでも捨てるような雑な手作業で夜空へ向けて次々とブン投げた。


ブゥゥゥゥンッ!!

空に舞い上がった数百機のドローンが、一斉に赤いレーザー光線を放射する。

壁の距離を測るために飛び交う無数の赤い光は、まるで夜空を泳ぐ巨大な光のクジラや、流星群のように美しくアビスの暗闇を彩った。


一方、その頃。VIPルームの窓からその光景を見た国連トップたちは、ワイングラスを取り落としていた。


「お、おおお……っ! 見ろ、神が我々を歓迎するために、あのような美しい『光のパレード(イルミネーション)』を見せてくださっているぞ……!」

「なんて慈悲深い……! 先陣のドローンを落とされた時は終わったと思ったが……完璧な空調と極上肉に加え、極上のエンタメまで! 我々は、一生このグランピング施設のとしてスポンサー費用を払い続けますぅぅっ!」


『おっさん、えらいさんのためにパレード開催してて草』

『VIPたちが光のクジラ見てガチ泣きしてるぞww』

『ロマンチストなおっさん監督(※ただの測量です)』


同接700万の配信画面では、かつての殺人兵器が平和なエンタメへと昇華された光景に、世界中が感動の涙を流していた。


だが――当のケント本人は、ロマンチックな光景など一切見ず、手元のボロボロのタブレットに送られてくる『測量データ』を睨みつけ、中間管理職特有の険しい顔で舌打ちをしていた。


「……チッ。パレードどころじゃないな。壁の奥に、バカみたいな量の『水漏れ(ヘドロ)』が溜まりに溜まってやがる」


その直後だった。

ズドドドドドドドッ!!

ダンジョンの地殻が激しく鳴動し、最下層の全域に緊急アラートを知らせる不気味な地鳴りが響き渡った。ケントのアナログ巻尺が弾き出した測量通り、長年溜まり続けたアビスの老廃物が、ついに壁を突き破ろうとしていたのだ。


「ひぃぃっ!? 神の怒りだ! 光のパレードが終わって、神が怒っておられる!!」

「いやだぁぁ! 帰りたくないでちゅぅぅ!」

VIPたちが再びパニックに陥って泣き叫ぶ中、ケントは巨大なインパクトレンチを肩に「ガコンッ」と担ぎ上げた。


「……はぁ。次から次へと、どんだけ労災リスクの多い現場なんだよ。――おい霞、クレームが来る前にスポンサーを安全な場所へ避難させろ。特大の『防波堤』を組むぞ」


世界が感動の涙に包まれ、絶対的な絶望(自然災害)が迫る中。

ただ一人「現場の保全(水漏れ修理)」だけを見据えるくたびれたおっさんは、最悪の脅威へと立ち向かうべく、マイルドな笑みを消して最前線へと歩き出した!

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