第83話:国連巡礼団の降下と、スポンサー接待(VIPルーム建設)
「えっと、ケントさん……。たった今、地上の国連トップや世界中の大富豪たちが、武装を解除してアビス最下層へ向かってきているそうです。『神の御前にひれ伏し、巡礼する』って……」
特等席のクッションで配信画面を見ていたルミナが、引きつった声で報告した。
その言葉を聞いた瞬間。ケントは首に巻いたタオルでガシガシと頭を掻き回し、深々とため息をついた。
「……はぁ。マジかよ。国連と世界の大富豪が来るって……つまり、この地下遊園地の『超大口スポンサー』が、アポなしでいきなり現場視察に来るってことじないか。勘弁してくれよ……」
「いや、勘違いのスケールがヤバいですって! 彼らは親方を神として崇めに来るんですよ!?」
現場監督補佐の東雲霞が慌ててツッコミを入れるが、ケントの濁った目には届かない。
「バカ野郎、現場において『スポンサー(金を出してくれる人)』は神様より上なんだ。こんな土ぼこり舞う現場にVIPを立たせたら、一発でクレームが入ってプロジェクト凍結だ。……筋肉たち! 休憩終わりだ、今すぐ『VIP専用の待機所』を突貫工事で建てるぞ!」
『おっさんの前では世界の大統領も「ただの厄介なアポなし客」にすぎない』
『完全にクレームを恐れる中間管理職の顔になってて草』
『くたびれたおっさんの血が暴走し始めたぞww』
ケントは血相を変えて資材置き場に走り、以前解体した『Sランク・飛竜のバカでかい胃袋(気球用の綺麗な皮)』をズルズルと引きずり出してきた。
「いくぞ……」
ケントが少し気怠げに【超速クラフト】を発動した瞬間、転がっていた鉄パイプと『特大の風の魔石』が光に包まれ、パズルのように一瞬で組み合わさり、無骨な『特大手回し式ブロワー(送風機)』が錬成された。
ケントは皮の袋にホースを突っ込むと、「……っとと、腰にくるな」とボヤきながらも、ブロワーの巨大なハンドルを「オラァッ!」と汗を散らして力任せにぶん回し、凄まじい風を送り込み始めた。
ブゥゥゥゥンッ!!
巨大な皮の袋がパンパンに膨らみ、あっという間に真っ白な『巨大なドーム型のテント(風船)』が出来上がった。
「よし! 次は外壁だ!」
ケントは、ドラム缶に『Sランク・スライムの粘液』と『温泉のミネラル泥』をドバドバと放り込み、錆びた鉄の棒で強引にドロドロになるまで掻き混ぜる。そして、そこから伸びる極太のホースの先端に、端材で作った巨大スプレーガンをガチャンッと接続した。
「いいか霞! ただの風船じゃ、突っつけば一発で割れる。だがな、その風船の表面に『空気に触れると数秒でカチカチの岩になる魔法の泡(スライム泥)』を分厚く吹き付けたらどうなる?」
「あ……っ! 中の風船が割れても、外側の固まった岩の殻だけで、絶対に崩れない『ドーム型の建物』になる……!」
「そういうことだ。これが現場の裏技、即席かまくら(インスタントハウス)だァッ!」
ケントはスプレーガンの引き金をギリリッと引き絞った。
ズババババババッ!!
ケントの作業着に泥の泡が激しく飛び散り、凄まじい勢いでスライムの泡が巨大風船に吹き付けられていく。泡は空気に触れた瞬間、モコモコと膨張しながらコンクリート以上の硬度を持つ『真っ白な岩のドーム』へと変貌していった。
『チートスキルと泥臭い手作業の合わせ技ww』
『スライムの泡を壁にするの天才か』
「おおおっ……! 親方様は、下等な人間(巡礼者)たちのために、自ら泥まみれになって神聖なる神殿を……っ!」
ヤンデレ現場警備員のマリアが両手を組んで恍惚の涙を流し、筋肉たちも「俺たちも最高のおもてなし(警備)をするぞォ!」と狂喜乱舞で赤い絨毯(レッドカーペット代わりの魔獣の毛皮)を敷き始めた。
数分後。ケントが巨大なディスクグラインダーで岩のドームの壁を「ギャリリリリッ!」と凄まじい火花を散らしてぶち抜くと、そこには外の騒音もアビスの熱気も完全に弾き返す、美しい真っ白な『即席かまくら(VIPルーム)』が完成していた。
中に最高級のふかふかソファと、完璧に温度管理された空調を設置すれば、もはや五つ星ホテルのスイートルームである。
「よし、スポンサーの接待準備ヨシ!」
ケントが泥だらけの顔をタオルで拭き、歴戦の営業スマイルを浮かべた、まさにその時だった。
ガシャン、ガシャン、ガゴォォンッ……!!
先日ブチ抜いた換気塔の巨大な縦穴を通って、アビス最下層に『工事用の仮設ゴンドラ(金網むき出しのケージ)』が降りてきた。
地上からのメンテナンス用にケントが余ったワイヤーで適当に吊るしただけの、スリル満点の現場用リフトである。
南京錠で止められただけの鉄格子が開き、中から現れたのは、最高ランクの防具に身を包みながらも、風吹き晒しの金網で地下深くまで降ろされるという恐怖で、ガタガタと生まれたての子鹿のように震える国連トップと世界の大富豪たちだった。
「お、おお……ここが、神の座す最下層……」
「我々は、かつてあの神の温泉を『魔獣の罠だ』などと馬鹿にしてしまった……。だからこんな、底が抜けそうな恐ろしい鉄の檻で神の試練を与えられたのだ。きっとこの後は、業火で焼き尽くされるに違いない……っ」
大富豪たちが涙を流し、死を覚悟してギュッと目を瞑った瞬間。
「いらっしゃいませぇぇッ! 遠路はるばる現場視察、本当にお疲れ様です、スピンサー様!!」
バッ! と、完璧な角度でお辞儀をする男の声が響いた。
国連トップたちが恐る恐る目を開けると、そこには、血塗られた神ではなく――泥だらけの作業着を着たケントが、クレームを絶対に防ぐ中間管理職特有の『100万ドルの営業スマイル』を浮かべて立っていた。
さらにケントは、彼らの頭に「現場じゃヘルメット着用が絶対です!」と安全第一の黄色いヘルメットを強制的に被せると、有無を言わさず 真っ白なVIPルームへと案内する。
「ささっ、外は危ないのでこちらの冷暖房完備のVIPルームへどうぞ! 出来立てのチュロスと極上ステーキもご用意しておりますので!」
『神の試練(ただの工事用リフト)を乗り越えたら、超絶ホワイトな接待(と安全講習)を受けた件ww』
『施主(大富豪)、脳がバグってて草』
『マリアちゃん(暗殺者)が裏で「親方にクレーム入れたら殺す」って顔して出迎えてるの怖すぎ』
『世界最強のおっさん監督による、究極の接待が始まる……!』
「……え? あ、れ……? か、神様……?」
絶対的な死を覚悟していた国連トップたちは、あまりにも場違いな『圧倒的ホワイト待遇(接待)』と黄色いヘルメットを前に、完全に理解が追いつかず、アホのように口をぽかんと開けることしかできなかった――!




