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第82話:下敷きの静電気と、地上の青空

ゴォォォォォォォォッ!!

アビス最下層の天井をぶち抜いた巨大な縦穴へと、ケントが端材で組み上げた特大換気塔から丸洗いされた大量の風が、猛烈な勢いで吹き上がっていく。


「ふぅ……涼しくて最高ですが、親方。まだ何か不満でも?」

現場監督補佐の東雲しののめかすみが、風を浴びながら首を傾げた。


「チッ、まだだ。温度は下がったが、古代竜の獣臭さが微かに残ってやがる。俺の現場は『朝の森の中より澄み切った空気』じゃなきゃ許さねぇ」

ケントは一切妥協する気などなかった。彼はアイテムボックスから巨大なペンチを抜き放つと、その辺に転がっていた『特大の雷の魔石(バッテリー代わりのゴミ)』を無造作に引っ張り出した。


そして、太い鉄の針金(番線)をぐるぐると巻きつけ、ペンチでギリギリッと火花を散らしながら強引にねじり上げた。


バチバチバチッ! と危険な青い火花が散る中、ケントは稼働中の換気塔に飛び乗り、雷の魔石を『シャワー給水管』に力任せに縛り付け、ガンガンとハンマーで叩いて強引に固定する。


「いいか霞! 子供の頃、プラスチックの下敷きで頭をこすって髪の毛を逆立てたろ? あれと同じだ!」

ケントは火花と水しぶきを浴びながら、マイルドな笑顔で言い放つ。

「水に向かって電気を流し、水滴の粒すべてを『静電気の磁石』に変えてやるんだよ! そうすりゃ、空気中に漂ってるミクロの汚れや獣の悪臭が、水滴の磁石にピタッと吸い寄せられる。あとは水ごと重くなって下に落ちるだけだ。現場の知恵ってやつさ!」


「シャワーの水滴を静電気の磁石にして汚れを吸着するって、それ完全に『最新式の超強力空気清浄機』の理屈だけど、その辺の魔石と太い針金を縛り上げただけで力技で作らないでよ!!」

霞の的確なツッコミと同時に、ケントが無理やり増設した配電盤のブレーカーを「ガコンッ!」と叩き込んだ。


シュゴォォォォォォッ……!!

換気塔から吹き出す風が、目に見えない微細な『電気を帯びたミスト』へと変貌する。


『……すぅっ、はぁぁぁぁ〜っ……♡』

直後、空気を吸い込んだマリアと元・エリート軍人の筋肉たちが、完全に瞳の焦点をすっ飛ばして地面に倒れ伏した。


「ああっ……! な、なんて神聖で美味しい空気……ッ! 肺の中の汚れが、親方様の純度100%の愛で一つ残らず洗浄されていくぅぅ……っ♡」

古代竜までもが『おおおっ、我が体臭が完全に消えた!? まるで新緑の森の中で寝そべっているようだぁぁ♡』と、アヘ顔でよだれを垂らしながら回し車の中でヘソ天になって腹を見せている。


「よし、空気の品質ヨシ! お前ら、良い汗かいたあとの『風呂上がりの一杯』だ!」

ケントはドンッ!と、『Sランク魔獣の搾りたて牛乳から作ったフルーツ牛乳』がたっぷり入った巨大な樽と氷を現場に支給した。


「極上の空気の中で飲む、キンキンに冷えたフルーツ牛乳ゥゥッ! 最高ォォォッ!!」

「俺、もう絶対に地上に帰りません! 一生親方の現場で骨を埋めますぅぅッ!!」

究極の空気と美味すぎる現物支給(給料)のコンボにより、屈強な筋肉たちと神話の竜は、もはや完全に『歓喜の作業員』として完成しきっていた。


『ドラゴンが完全に腑抜けたペットww』

『空気うますぎて全員アヘ顔で草』

『福利厚生の暴力で神話級が堕落していく』

『親方の現場、ついに空気の質までファンタジー超え』


地下の労働者たちが「究極の空気とフルーツ牛乳」に堕落しきっていた頃。

はるか上空の『地上』では、人類の歴史を揺るがす異常事態が起きていた。


地上は長年、アビスから漏れ出す有毒な『魔素公害(どす黒いスモッグ)』に覆われ、人々は常にガスマスクを持ち歩くどんよりとした生活を強いられていた。

超高級タワマンのベランダにいた元・サバイバル配信者の泥水どろみずススルも、濁った空を見上げてため息をついていた。


「はぁ……。あの地下現場は天国みたいだったけど、地上は相変わらずクソみたいな空気だな……ん?」


突如、ススルの足元のはるか下(アビスの入り口)から、凄まじい勢いで『微細なミスト』が天高く吹き上がったのだ。


『な、なんだあれ!?』

『アビスから謎の噴水!?』

ルミナのドローン配信を見ていた地上のリスナーたちも、空の異変に気づいて騒然となる。


ケントが放った『静電気の磁気を持ったミスト』は、上空のどす黒い魔素スモッグに触れた瞬間、その有害物質を次々と吸着。黒い汚れだけを無害な泥の粒に変えて、ポロポロと地上へ落としていった。


そして――数百年ぶりに、地上の空を覆っていた分厚い雲が晴れた。

雲の隙間から、眩いばかりの『青空』と『太陽の光』が、ススルのタワマンに、そして世界中の街に降り注いだのだ。


「あ……あぁ……っ」

ススルは手に持っていた高級ワインのグラスを落とし、ガスマスクをむしり取った。

吸い込んだ空気は、かつて嗅いだことのないほど澄み切った、森の香りがした。


「そ、空が……青い……っ。俺たちがずっと苦しめられてきた有毒な魔素が、一瞬で消えた……!」

ススルはベランダに膝をつき、大号泣しながら配信カメラに向かって叫んだ。

「あの人はただの現場監督じゃねえ! 世界の空を晴らす、新世界の神だァァァッ!!」


『空が! マジで青空が見えるぞ!!』

『俺たちの喘息が治った!!』

『親方ぁぁぁ! 一生ついていきますぅぅ!』

『同接1000万突破! 世界がおっさんを崇拝し始めたww』

『泥水ススル:親方ァァ! 全財産払うから俺ももう一回地下で働かせてくれぇぇ!!』


ただ「現場の獣臭さを消したかっただけ」のケントの大雑把で泥臭いDIYは、結果的に人類を長年悩ませていた世界規模の環境問題を、たった数分で物理的に解決してしまったのである。


そしてその青空を、地上の安全圏にある国連本部の最上階から震える目で見つめるトップの姿があった。

「……奇跡だ。あの地下の『神』は、我々人類を救済してくださったのだ……!」

国連幹部は涙を流して立ち上がり、全軍の精鋭に向けて叫んだ。


「ただちにアビス最下層へ向かえ! 我々も直接、あの神(一級建築士)の元へ巡礼(土下座)しに行くのだッ!!」


現場の空調整備が引き起こした圧倒的なスケールバグにより、ついに世界のトップ(国家権力)すらもが、ケントの前にひれ伏そうとしていた――!

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