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第80話:古代竜のコマ回しと、ネバネバの扇風機

ガラガラガラガラッ……!!


アビス最下層に、巨大な車輪の回る音が響き渡っていた。

絶叫マシンの動力源としてスカウトされた神話級の化け物・古代竜が、極上ステーキの匂いに釣られてご機嫌に走り続けている。ここまでは完璧だった。


『おおっ……我が主よ! 本日もマッサージ機の上でとろけるお姿、最高に愛らしゅうございますぞぉぉっ♡』

「うむ。苦しゅうない、もっと走れトカゲ」


古代竜が、特等席でだらしなく溶けるダンジョン・コアのコア公を見るたびに、ハッスルして猛ダッシュしたり、逆に見惚れて立ち止まりそうになったりするのだ。

そのたびに、巨大な車輪の回転は「ギュンッ!」と急加速し、「ガクンッ!」と急減速する。


「お、親方! 竜の情緒が不安定すぎて、コースターを引っ張り上げるチェーンがガッチガチに暴れてます! このままじゃ金具が千切れ飛びますよ!」

ヘルメットを押さえながら、現場監督補佐の東雲しののめかすみが悲鳴を上げた。


「チッ。機械ってのは気分で出力がブレるのが一番寿命を縮めるんだ。世話の焼けるエンジンだぜ。……よし、その辺の端材でパパッと直すぞ」

ケントは首に巻いたタオルを締め直すと、アイテムボックスからバカでかいレンチと番線(太い針金)を抜き放ち、稼働中の車輪の軸へ飛び乗った。


『神話のバケモノが完全に情緒不安定な犬になっとるww』

『コア公へのデレで遊園地が停電しそうになるの草』

『おっさん、また現場合わせのDIY始める気だぞww』


ルミナのドローンが的確なツッコミを配信する中、ケントは「オラァッ!」と掛け声を上げ、現場に転がっていた廃材(Sランク魔獣のバカ重い甲羅)を何枚も重ね合わせ、番線とボルトでガッチガチに軸に縛り付け始めた。


「いいか霞! 軽いプラスチックのコマはちょっと小突くとすぐ止まるが、ズッシリ重い鉄のコマは一度勢いがつけば、ちょっとやそっとじゃ止まらないだろ!」

ケントは強引にレンチを振り回しながら、マイルドに笑う。

「だから、軸をアホみたいに重くしてやるんだ。 そうすれば、竜がちょっとサボったり急加速したりしても、重りの勢い(バカヂカラ)が全部を飲み込んで、常に同じスピードで回り続ける!」


「物理の暴力でムラをねじ伏せた!」

霞がツッコミを入れるが、ケントのDIYは終わらない。


「これだけじゃチェーンへの衝撃は消えねぇ。動力の間に『クッション』を挟むぞ!」

ケントは次に、余っていた鉄骨の切れ端をパズルみたいに溶接して『デカい箱』を車輪とチェーンの間に割り込ませ、その中にドラム缶数本分の『特Sランク・スライムの粘液(ネバネバの油)』を手作業でドバドバと流し込んだ。


「向かい合わせに置いた二台の扇風機を想像しろ! 片方の電源を入れると、風の力でもう片方の羽も勝手にクルクル回るだろ? それを風じゃなく、この『スライムの油』の中でやるんだ!」

ケントがレンチで最後のナットを「ガキンッ!」と力の限り締め上げると、手作りの箱の中の油がズズズッと重々しい音を立てて循環し始めた。


「竜が突然暴走しても、直接金具が引っ張られるわけじゃない! 間に挟まったドロドロの油が衝撃を全部フワッと吸収して、氷の上を滑るような綺麗な回転だけをチェーンに伝えてくれるってわけだ!!」


ドグゥゥンッ!

直後、古代竜がコア公への愛で急加速した。しかし、チェーンは一切暴れることなく、ヌルッと滑らかに、そして恐ろしいほど静かにコースターの車両を引き上げ続ける。


『むっ……? わ、我の足元が急に歩きやすくなったぞ!?』

古代竜は目を丸くした。

どれだけ不規則に走っても、足元の車輪からは嫌な反発(衝撃)が一切返ってこないのだ。おまけに目の前には極上ステーキが常にぶら下がり、大好きな主の顔が見放題である。


『ああっ……なんと足腰に優しい無重力のような労働環境……。そして肉ウマッ……主よぉぉ……私は今、天国にいますぅぅ♡』

アビス最強の絶望と恐れられた神話の竜は、一切の抵抗を放棄し、よだれと嬉し涙を撒き散らしながら「アヘ顔の完全な社畜」へと堕落しきっていた。


『扇風機とスライムの油で、バケモノの暴走を無効化しやがったww』

『端材とゴミを合わせただけのDIYなのに、完璧に理にかなってて怖いわww』

『親方の現場力、マジで魔法よりチート』


同接600万のリスナーが大爆笑する中、ケントは満足げに腰に手を当てた。

「よし、巻き上げの安定化ヨシ! これでいつでも絶叫マシンをテストできるぞ!」


ケントが安全確認の指差呼称をした、その時だった。


『ゲェェェェップ……!』

極上ステーキを腹一杯食ってご機嫌な古代竜の口から、莫大な熱量を持った「幸せな火炎ゲップ」が盛大に吐き出された。

ボワァァァッ! と、地下空間の温度が一気に跳ね上がり、焦げ臭い空気がサウナのように淀み始める。


「……ふぅ、ふぅ。親方様ぁ……なんだか急に、息苦しくなって……っ」

ヤンデレ警備員のマリアが、作業着の胸元をはだけさせ、顔を真っ赤にしてパタパタと扇ぎながらへたり込んだ。元・エリート軍人の筋肉たちも、滝のような汗を流してゼェゼェと息を切らしている。


先ほどまでマイルドに笑っていたケントの目から、スッと笑みが消えた。

「……チッ。エンジンは絶好調だが、肝心の労働環境(空気)が最悪に汚染されてやがる」


ケントは淀んだ地下の天井を睨みつけ、首のタオルで汗を拭いながら低く厳しい声で呟いた。

「俺の現場で、一酸化炭素中毒(労災)なんて絶対に許さねぇ。……地上に向けて、特大の『空気清浄機』をブチ抜くぞ」

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