第79話:魔法の歯車のパズルと、竜の完全陥落
カラカラカラカラ……。
アビス最下層に、巨大な回し車(車輪)が回るのどかな音が響いていた。
『ふふっ……この地下空間、空調が完璧に効いてて最高に涼しい……。それにあの肉……噛んだ瞬間に滝のように溢れ出す肉汁と旨味……早くまた食べたい……っ♡』
つい先ほどまで「人類を滅ぼす」と息巻いていた神話級の化け物、『古代竜』である。
ケントの提供した『極上ステーキ』と『絶対的ホワイト待遇』に完全に脳を焼かれた最強の番犬は、一切のプライドを捨て去り、完全なる『ハムスター(動力源)』へとジョブチェンジを果たしていた。
今は四つ足で回し車の中に入り、嬉しそうに尻尾を振りながらトコトコと歩いている。
「し、神話の絶望が……嬉しそうにカラカラ回ってる……」
「俺たち、さっきまであんなのに怯えてたのか……?」
昨日まで「世界の終わりだ」と絶望していた元・エリート特殊部隊と軍人の筋肉たちや、ヤンデレ警備員のマリアは、あまりのスケールバグに完全に毒気を抜かれ、ポカンと口を開けたアヘ顔でその光景を眺めていた。
『古代竜の散歩配信で草』
『人類の危機、メシで完全解決ww』
『おっさんの前では神話もただのハムスター』
『同接600万! みんなで竜が歩くのを見守る枠』
ルミナのドローンが映し出すシュールすぎる光景に、コメント欄は開始早々から大爆笑の渦に包まれている。
だが、ここで現場に一つの問題が発生した。
「親方! 竜のパワー(回す力)は申し分ないんですが、歩くスピードがのんびりすぎて、ジェットコースターのチェーンを巻き上げるスピードが全然足りません!」
現場監督補佐の東雲霞が、ヘルメットを押さえて報告する。
「心配すんな、霞。自転車のペダルと同じだ。ゆっくりで力強い回転を、猛スピードに変換する『魔法のパズル』をかますぞ」
ケントは首のタオルで汗を拭い、フルーツ牛乳を飲みながらマイルドに笑った。
「ただのデカい歯車の周りに、ちっこい歯車をパズルみたいにガッチリ噛み合わせるんだ。そうすりゃ、竜のゆっくりした歩きが、何倍もの超高速回転に変わる」
「でも親方、そんな巨大なバカヂカラで回したら、歯車が割れるか、ものすごい騒音が出ませんか?」
霞が心配そうに尋ねると、ケントはニヤリと笑い、宙に青い設計図を展開した。
「だから、歯のギザギザをちょっと『ナナメ』に削って、そこにたっぷりの『スライムの油』を塗る。そうすりゃ、ガチガチぶつかる音も消えて、氷の上みたいにスルスル滑らかに回りながらバカヂカラだけが何倍にも跳ね上がる。現場の知恵ってやつさ」
ケントは愛用のレンチを力強く振り下ろした。
「よし、パズルの設計完了! 筋肉ども、ちょっとそこ退いてろよ」
ガキィィィンッ!
ケントのチートスキル【超速クラフト】が発動し、大量の特Sランク魔獣の骨(鋼材)が一瞬で宙を舞う。そして、たった数秒で超巨大な歯車の組み合わせ(ギアボックス)が、音もなくピタッと組み上がってしまった。
「なるほど……! 歯車をナナメに削ってスライムの油を塗るだけで、神話級のパワーを1ミリも逃がさずに、音も出さずに高速回転させるんですね!」
霞が目を輝かせて納得する。
「ご名答! どんな巨大な力でも、静かに完璧な超高速回転に手なずける。ただハコを作るだけじゃなく、そこで動く『設備』を完璧に制御してこそ、一級建築士ってやつさ!」
さらにケントは、竜が走る回し車の目の前に、とある『カラクリ装置』を設置した。
「よし。これで『一定距離を走ると、自動でさっきの特大ステーキが一口分ポロッと落ちてくる』全自動・ご褒美システムの完成だ! これでアイツはずっとご機嫌に走り続けるぞ!」
『ガチャン!』という音と共に、目の前に極上肉がぶら下がった瞬間。
『おおおッ! 肉! 肉ゥゥゥッ!!』
古代竜の目の色が変わり、よだれを撒き散らしながら凄まじい勢いで走り始めた。
キュイィィィィンッ!!
完璧なナナメの歯車と油、そして『肉の暴力』により、古代竜ののんびりしたハムスター歩行は、一切の騒音を出すことなく、数十トンのコースター車両を引き上げる『超高速のチェーン巻き上げ』へと完璧に変換されたのだった。
『泥水ススル:いやおっさん、それ完全に機械開発の領域だろwww 俺のタワマンの自動ドアも直してくれぇ!!』
『なぜ一級建築士が歯車のパズルまで完璧に作れるんですかね……』
『馬の目の前にニンジン(神話級の竜の目の前にステーキ)』
『もはやアビス最強の魔物がただのハムスターwww』
タワマンから実況するススルのツッコミが木霊し、コメント欄の熱狂が最高潮に達する。
「えっと……全世界のリスナーの皆様」
ルミナは特等席のクッションから、未だに信じられないものを見る目でドローンのカメラに向かって語りかけた。
「人類を滅ぼすと言われた古代竜の襲撃(世界の危機)は……ケントさんの美味しいご飯と、圧倒的な福利厚生で、めちゃくちゃ平和に解決しました……」
最強の竜が自ら進んで「ホワイトな現場の部品」になり、嬉し泣きしながら回し車を爆走するという、あまりにも平和で圧倒的なカタルシス。
そしてついに、魔法の歯車によってチェーンが巻き上げられ、古代竜の動力による『絶叫ジェットコースター』の、狂気の初乗りテストが幕を開けようとしていた――!




