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第78話:水鉄砲のバカヂカラと、最強エンジンの陥落

ゴゴゴゴゴォォォォォッ!!


アビス最下層の暗闇を切り裂き、音速を超える速度で巨大な質量が降下してくる。

「親方ァッ! 来ます、神話級の化け物が!!」

元・エリート特殊部隊員と元・軍人の筋肉たちが、恐怖に顔を引きつらせて叫んだ。


だが、ケントは首に巻いたタオルを締め直し、マイルドな笑顔のまま指示を飛ばす。

「よし、全員退避! 霞、例の『特大クッション』のレバーを引け!」

「了解です、親方!」


現場監督補佐たる東雲しののめかすみが、迷いなく巨大なレバーを押し込んだ。

ガコンッ! という重低音と共に、落下地点の地面から、巨大なすり鉢状の網と、それを支える『4本のぶ太い鉄の筒』がせり出してくる。


「ケントさん! あんな網じゃ、音速で突っ込んでくる竜の勢いは止められませんよぉ!」

ルミナが半泣きでドローンのカメラを回す中、ケントは呑気に種明かしを始めた。


『あの巨体をどうやって受け止める気かよ!?』

『おっさん、竜を傷つけないこと(新品のエンジン確保)を最優先にしてて草』

『またトンデモDIYの時間だぞww』


同接700万のコメント欄がハイスピードで流れる中、ケントは両手でジェスチャーをする。


「ただの網じゃない。あの鉄の筒の中には、たっぷりの『スライムの油』が入ってるんだ。いいか? 水鉄砲を想像してみてくれ。先っぽの小さな穴から水を出す時、ゆっくり押せば水はスッと出るけど、力いっぱい『ドカン!』と急激に押そうとすると、水が穴に詰まってものすごく固くなるだろ?」


「あ……! 穴を通る水の反発力……!」

霞がハッと息を呑む。


「その通り。筒の中に、小さな穴の空いた板と油を入れておく。音速でぶつかってきた『とんでもないスピード』は、油が狭い穴を無理やり通り抜ける時の『強烈なブレーキ』に変わるんだ。……どんな巨大な害獣でも、絶対に傷つけず優しく受け止める、特大のクッションさ!」


配信リスナーたちが息を呑んだ次の瞬間。

ズドゴォォォォォォォンッ!!!


古代竜エンシェント・ドラゴンの巨体が、すり鉢状の網に激突した。

だが、アビスの岩盤すら砕くはずの音速の突撃は――4本の巨大な鉄の筒が「プシュウゥゥゥッ!」と凄まじい湯気を噴き出しながらゆっくりと縮むことで、まるでふかふかのベッドに飛び込んだかのように、ふんわりと、そして完全に勢いを殺されて停止したのだ。


「よし! キャッチ成功、無傷のエンジン確保ヨシ!」

ケントが安全確認の指差し呼称をする。


一方、水鉄砲の原理で完璧に拘束されてしまった古代竜は、何が起きたか理解できず目を白黒させていた。だが、すぐに気を取り直し、誇り高き竜としての咆哮を上げる。


『お、おのれ人間ども! 姑息な罠を! だが我が命に代えても、主だけは……! さあ主よ、今こそ忌まわしき拷問からお助けしま――……す?』


勇ましく叫んだ古代竜の視線が、ピタリと止まった。

その視線の先。


「ふにゃぁぁぁ〜っ♡」

「ああ〜っ、そこじゃ、もうちょい右……いや左じゃ。うむ、人間の作った『ちゅろす』は最高じゃな……」


そこには、ケント特製の『全自動マッサージチェア』のバネ仕掛けの揉み玉に背中を預け、口いっぱいにチュロスを頬張りながら、だらしなく溶けたような顔で足をパタパタさせる、ダンジョン・コア――コア公の姿があった。


『しゅ、主よ!? なぜ人間の恐ろしい拷問器具の上で、そんなだらしないお顔を……!?』

「む? おお、古代竜ではないか。騒々しいやつじゃな。吾輩は今、『極楽』を味わっておるのだ。邪魔をするな」

『ご、極楽……!?』


古代竜は、文字通りポカンと口を開けた。

自分の絶対的な主が、人間の拷問を受けているどころか、アビスの歴史上もっとも怠惰で幸せそうな顔をしてくつろいでいるのである。


チュロスを飲み込んだコア公は、マッサージチェアの上でふんぞり返り、捕獲された最強の番犬に向かって、とんでもないことを言い放った。


「丁度よい。吾輩は今からこの『じぇっとこーすたー』とやらに乗りたいのじゃが、登る力が足りんらしい。お主、あそこで走って歯車を回せ」

『…………え? 走……え? 我が、回し車の中のネズミのように……?』


パキンッ……。

アビス最下層の静寂の中、神話級の古代竜の気高きプライドが、音を立てて粉々に崩れ去る音が響き渡った。


『うおおおおっ! 水鉄砲の原理で無傷で止めやがった!!』

『現場の知恵、強すぎるだろww』

『神話の突撃をクッションで吸収するとか頭おかしい』

『泥水ススル:古代竜が完全にハムスター扱いで腹痛いwww』

『親方の現場、物理法則が絶対すぎる』


「ははは! お前、なかなか良いガタイ(排気量)してるじゃないか。採用だ!」

呆然とする古代竜の口に、ケントは無造作に『Sランク魔獣の特大極厚ステーキ』を放り込んだ。


『むぐっ!? ……な、なんだこの肉汁と小麦の旨味はァァァッ!? 我が今まで食らってきた生肉の味など、泥水に等しいではないか……ッ!!』

「しっかり食って働けよ。ウチの現場は残業なし、メシは食い放題だからな」


『……ッ! グスッ…… 我、喜んでハムスターにならせていただきますゥゥッ!!(号泣)』


一切の裏表がない圧倒的な待遇まかないと無償の優しさを前に、世界最強の古代竜すらも人権(竜権)を投げ捨ててアヘ顔で昇天し、圧倒的な手のひら返しから歓喜のエンジンへと即座に堕落してしまうのだった――!

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