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第77話:絶望の古代竜と「最強のエコエンジン」

ゴゴゴゴゴッ……!!


アビス最下層の強固な天井(岩盤)が、紙屑のように吹き飛んだ。

降り注ぐ瓦礫の中、漆黒の巨大な翼がバサァッと展開される。全長数十メートル。その威圧感だけで空気が凍りつくような、絶望の化身。

人類の天敵たる神話級魔物、『古代竜エンシェント・ドラゴン』が最下層へ降り立ったのだ。


『愚かなる人間どもよ……!』

地鳴りのような声が響き渡る。

『我が最強の同胞たる特Sランク・ドラゴンの心臓を、あろうことか【風呂沸かしのヤカン】にしている屈辱、万死に値する!』

竜の金色の瞳が、怒りに血走っていた。


『さらに、我が絶対の主たるダンジョン・コア様を捕らえ、あのような恐ろしい拷問にかけているとは……! おのれ、塵一つ残さず焼き尽くしてくれるわァァァッ!!』


古代竜の視線の先では、手のひらサイズの精霊(コア公)が、極上チュロスを口いっぱいに頬張りながら「ふにゃぁぁっ♡ 油と砂糖は最高じゃのう……っ♡」とだらしないアヘ顔を晒してクッションに沈み込んでいた。それを「自我を破壊される非道な拷問」だと、古代竜は盛大に勘違いしているのである。


『ヤバいヤバいヤバい!!』

『神話級の古代竜とか世界が終わるぞ!!』

『コア公ただの餌付けだろww』

『終わった……アビス最下層、完全崩壊だ……』


同接600万のコメント欄が一瞬でパニックに陥る中、現場の労働者たちも圧倒的な絶望感に顔を青ざめさせていた。


「ひぃぃっ! 親方様ぁぁッ、神話の化け物(害獣)ですぅ!」

ヤンデレ現場警備員のマリアが、震えながらケントを庇おうとし、元パワードスーツ部隊の筋肉たちも絶望に顔を覆う。


「ああ……もうダメだ……親方だけでも逃がさねぇと……!」

屈強な元・エリート特殊部隊員たちですら、その巨大な質量と圧倒的な魔力の暴風を前に、膝から崩れ落ちそうになっていた。ただ息をするだけで肺が焼けるような熱気。神話の生物が放つ絶対的な『死』のプレッシャー。


「みんな……今まで応援してくれてありがとう……っ。ルミナ、最後にみんなと出会えて幸せでした……」

ルミナは涙声で、ドローンに向かって『人生最後のお別れ配信』を始めていた。


地上の超高級タワマンで配信を見ていた元・サバイバル配信者、泥水どろみずススルも、高級ワインのボトルを取り落としていた。

「オワタ……。あんなのが地上に出てきたら、人類そのものが終了じゃねえか……っ!」


世界中が絶望の淵に立たされる中、誰もが己の命の終わりを悟り、ただ目を閉じることしかできない、その時だった。


「……見つけたぞ!」


絶望した皆の前に立っていたのは、くたびれた一級建築士、ケントである。

彼は上空でホバリングする古代竜に向けて、その『図太い太もも』や『巨大な胸板』を舐め回すように見つめ、目をキラキラと輝かせていた。


「おい霞! 見ろあの太え脚! あれなら何十トンもあるジェットコースターを坂の上まで引っ張り上げる『バカヂカラ』としては文句なしだ!」

「おまけにアイツ、火を噴くってことは体の中でススが出ないように綺麗に燃やしてる証拠だ。つまり、地下で使っても煙(一酸化炭素)が出ない! 換気いらずで永遠に回り続ける『超・エコな最強エンジン』じゃないか!!」


「親方!? なんで神話の竜をモーター目線で見てるんですか! いくら地下で排気ガスが出せないからって、神話の生物を動力源にしようとしないで!!」

現場監督補佐の東雲しののめかすみの悲鳴のようなツッコミが響く。


その異常な光景は、上空で威圧感を放っていた古代竜の目にも奇妙に映っていた。

『……む? なんだあの人間は』

自分を見上げているにもかかわらず、一切の恐怖を抱いていない。それどころか、まるで『ホームセンターで丁度いいサイズの木材を見つけた大工』のような目で、己の四肢を呑気に値踏みしているではないか。


『き、貴様……我をなんだと思っている!? その無礼な視線……まさか我を恐れていないのか!?』

古代竜の困惑混じりの咆哮すら、現場監督の耳には届いていない。


『おっさん、古代竜をモーター扱いwww』

『目の付けどころがおかしい』

『おっさんにかかれば神話の化け物もただのエンジン』

『車検(構造把握)通っちゃったよこの竜ww』

『ゼロ災(一酸化炭素中毒防止)の最強エンジンキタ━(゜∀゜)━!』

『絶望の化身が、ただの「重機」に見えてきた……』

『泥水ススル:親方逃げてぇぇぇ!! いや、親方ならマジでアイツを歯車に巻き込みそうで怖ええ!!』


ススルの絶叫がタワマンから木霊し、コメント欄が絶望から一転して大爆笑の渦に包まれる中。


「おい、そこのデカいトカゲ!」

ケントはアビス最強の存在に向かって、とびきりマイルドな営業スマイルを向けた。

「お前、ホワイトな職場で『最高の労働』をしてみる気はないか? 3食まかない付き、極楽温泉入り放題の好待遇だぞ!」


『グオォォォォッ! 貴様ら、我が怒りの中で死ねいッ!!』

自分を完全に「機械の部品」兼「新規のアルバイト」扱いする人間たちの呑気な態度に、古代竜の誇りと怒りが頂点に達した。殺意を剥き出しにし、地上に向けて音速のダイブ(突撃)を開始する。


「よし筋肉ども、総員退避! 無傷のエンジンを捕獲するぞ! 」


世界の危機すらもインフラの部品にしてしまう現場監督の狂気の指示が、今、アビス最下層に響き渡った――!

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