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第76話:巻き上げ機の設計と、過去の因縁(古代竜の目覚め)

「よし、筋肉ども! 資材をあっちに運びなさい! 昨晩いただいた極上の肉と温泉の恩返しとして、親方様の偉大なる『純金製・等身大スケール銅像』の基礎工事を今度こそ強行するわよッ!」

「おうっ! 姐さん、任せとけ! 命に代えても親方の像を建てるッス!!」


アビス最下層の地下遊園地では、前回の圧倒的な福利厚生(現物支給)によって完全に脳を焼かれ、重篤な忠誠心に目覚めたマリアと元軍人たちが、早朝から勝手に銅像作りに取り掛かろうとしていた。


「いや、だから恩返しに俺の銅像を建てるな! 遊園地の景観に合わないって言ってんだろ! さっさとその純金しまえ!!」

ケントがマイルドな笑顔のまま、青筋を立ててボッシュート指示を出す。

まったく、この現場の労働者たちはホワイト待遇を与えすぎるとすぐに俺を神格化しようとする。安全第一の土木作業員に宗教は不要だ。


そんなドタバタをよそに、ルミナは特等席のクッションの上からドローンを操作していた。


「はいはーい、本日の『最下層からスローライフ配信』! 今日の親ケントさんは、完成したジェットコースターのレールを前に、なんだか腕組みをして悩んでますよー!」


ルミナのカメラが捉えた先で、ケントは首に巻いたタオルで汗を拭いながら、巨大なレールの「登り坂」を見上げていた。


「親方、コースの骨組みは完璧なのに、まだ何か問題でも?」

ヘルメットを被った現場監督補佐の東雲しののめかすみが尋ねる。


「ああ。コース自体は完成した。だが、肝心の『トロッコを坂の頂上まで引っ張り上げる仕組み』がまだできてない」

ケントは地面にチョークで、自転車のチェーンのような図を描いた。


「ジェットコースターってのは、最初に一番高いところまで登って、あとは落ちる勢いだけで走る乗り物だろ? じゃあ、その最初の『登り坂』をどうやって進むのか? 答えは簡単。レールの真ん中に巨大な『鎖』を這わせて、それにトロッコを引っ掛けて強引に引き上げるんだ」


ケントは図の鎖の横に、ギザギザの歯車を描き足す。

「問題はその重さだ。鉄の塊みたいなトロッコに人間が乗れば、とんでもない重さになる。それを急な坂道で引き上げるには、とんでもない『回すためのバカヂカラ』が必要になるんだよ」


「なるほど。自転車で急な坂道を登る時に、ペダルがすごく重くなるのと同じですね」


「その通り! さすが霞、飲み込みが早いな」

ケントはフルーツ牛乳を飲みながら嬉しそうに頷く。

「おまけに、万が一鎖が切れても逆走して落ちないように、歯車に鉄のつっかえ棒をカチカチッと噛ませていくんだ。前にしか進まない、現場の『歯止め』ってやつさ。コースターが坂を登る時の『カチカチカチッ』っていうあの音の正体だな」


「へぇー! あの音って、落ちないための安全装置の音だったんだ!」

ルミナが感心したように手を打つ。


「仕組みは全部頭の中にある。だが……」

ケントは大きくため息をついた。

「その巨大なチェーンを回すための『動力源エンジン』が足りないんだ。ガソリンで動くやつを使えば簡単だが、ここは地下だ。換気できない場所で煙を出すエンジンなんか使ったら、一酸化炭素中毒(労災)になっちまう」


ケントは空を仰ぎ見て、呑気にぼやいた。

「煙が出なくて、静かで、おまけにバカヂカラで永遠に回り続ける『エコなエンジン』……どっかに落ちてないかなぁ」


『そんな都合のいいもの落ちてるわけないだろww』

『おっさんの現場、いつも要求スペックがおかしい』

『コースターのカチカチ音の正体初めて知った!』

『アビスの魔獣でどうにかしようとするフラグビンビンで草』

『泥水ススル:親方ァ! 俺のタワマンの家賃も払ってくれる自動集金エンジン作ってくれ!!』


同接600万のコメント欄が草を生やし、ススルがタワマンから無茶振りをする中。


……ケントたちの呑気な会話を知る由もない、アビスの遥か奥底、灼熱のマグマが煮えたぎる『最深部のひとつ手前』の階層で。


ズズンッ……!!

巨大な岩山が崩れ、中から『絶望』と呼ぶにふさわしい、漆黒の鱗を持つ神話級の巨獣が目を覚ました。

全人類が束になっても敵わないとされる恐怖の象徴――『古代竜エンシェント・ドラゴン』である。


『……グルルルルッ……。この匂い……、間違いない』

古代竜は、鼻腔をくすぐる微かな魔力の残滓を感じ取り、怒りにその金色の瞳を血走らせた。


『我が同胞たる、特Sランク・ドラゴンの気高き魔力……! なぜ、こんな下層の端から立ち上っている……!?』


古代竜が感知したもの。

それは以前、ケントが「天然温泉のボイラー代わり」として地下遊園地の給湯設備に組み込んでしまった、『特Sランク・ドラゴンの心臓』から漏れ出る魔力だった。


『まさか、我が最強の同胞の心臓を……ただの「風呂沸かしのヤカン」にしているというのか……!?』

古代竜の口から、怒りのあまりマグマのような炎が漏れ出す。

『おのれ人間どもめ……! 誇り高き竜族を愚弄した罪、万死に値する! 塵一つ残さず、我が業火で焼き尽くしてくれるわァァァッ!!』


ゴォォォォォォォォッ!!!


復讐に燃える古代竜は、天地を揺るがす咆哮を上げると、巨大な翼を広げて空へ飛び立った。

その目は、ケントたちが呑気に作業を続ける『アビス最下層』を真っ直ぐに捉え、音速を超えた飛翔を開始する。


「あーあ、どっかにデカくてエコな動力源モーター、転がってこないかなー」

現場監督が呑気にぼやく頭上へと。

人類の天敵たる『最強の動力源(不遇の古代竜)』が、自ら出前のように突撃してこようとしていた――!

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