第74話:安全第一の暴力と、無敵のスライム免震
ゴゴゴゴゴォォォォォッ!!
突如として、アビス最下層の空気がビリビリと震え、大地が爆発したかのように激しく揺れ始めた。
「きゃあぁぁっ!?」
ルミナが特等席のクッションから転げ落ち、現場監督補佐の東雲霞が慌てて近くの鉄骨にしがみつく。
「親方ァッ! ア、アビスの『大崩落(異常地震)』です! ダンジョンそのものが崩れる前兆だァァッ!」
歴戦の元軍人である隊長たちが、顔を真っ青にして頭を抱えた。アビスの大崩落といえば、一度起きれば地上に甚大な被害をもたらす人類規模の天災である。
「ケント様ァッ!! 落ちてくる岩は、私がすべて弾き返します! さあ、私の胸の中に……ッ!」
ヤンデレ現場警備員へと覚醒したマリアが、己の命を投げ出す覚悟でダボダボの作業着姿のままケントの上に覆い被さろうとした、その時だった。
「ん? 今日はちょっと揺れるな。重機に気をつけて作業しろよー」
サクッ。
ケントは一切のパニックを起こすことなく、先ほど地下の巨大厨房で温め直したばかりの『極上チュロス』を呑気にかじっていた。
「ケントさん!? 何を呑気にチュロス食べてるんですか! 世界が終わる大災害なんですよ!?」
涙目で叫ぶルミナに、ケントは首に巻いたタオルで口元の砂糖を拭いながら、あくび交じりに呑気な声で種明かしを始めた。
「いいか? 俺の現場の合言葉は『安全第一』だ。お前ら労働者の命を預かる『親方』として、この地下遊園地は、アホみたいに頑丈に作ってある」
ケントは全く揺れていない太い鉄骨の柱をポンと叩く。
「アビスの大崩壊? その程度の揺れじゃ、この柱のヒビ一つ入らないさ。ほら、あの柱や天井の骨組みを見てみろ。全部『ナナメ』に組んで、パズルみたいに『三角形』にしてあるだろ?」
「え? あ、本当だ……。全部、綺麗な三角形の組み合わせに……」
「四角形だと、上からちょっと押されただけで簡単にひし形にひしゃげちまう。だが三角形のパズルにしておけば、上からどれだけ重い岩が落ちてきても、力が横にシュッと逃げるから絶対にペチャンコに潰れないんだ」
「さらに!」と、ケントは足元の地面を指差した。
「柱の根元には、そこら辺で狩った『特Sランク・スライムの肉』をこれでもかってくらい分厚く敷き詰めてある。地面がどれだけ激しく揺れても、スライムのブニョブニョが全部の揺れを吸い込んでくれる。コンニャクの上に石ころ乗せて揺らしても、石ころは動かないだろ? 現場の知恵ってやつさ」
「ただのナナメの骨組みとスライムで、国家の最新鋭の『高層ビル用免震システム』を完全に超えてるの!? どんだけ安全第一の要塞よ!」
霞の悲鳴のようなツッコミが響く中、ケントの言葉を証明するかのように、周囲の岩盤がガラガラと崩れ落ちる中でも、彼らが立つ遊園地の基礎やジェットコースターのレールは『1ミリの歪み』すら発生していなかった。
「……信じられない。これほどの大地震なのに、私たちがいる空間だけ、まるで揺りかごのように安定している……」
マリアが頬をピンク色に染め、うっとりとした表情でケントを見つめる。
(ああ……アビスの怒りすら無効化する、ケント様の圧倒的な愛(安全第一)……! 私、もう一生この現場から離れられない……ッ♡)
『アビス崩落(世界の終わり)の中でチュロス食うおっさんww』
『おっさんだけ緊張感ゼロで草』
『コンニャクの例え、めちゃくちゃ分かりやすい』
『スライム、最強の免震ゴムだった』
『同接550万! 無敵の要塞からの生中継』
『泥水ススル:親方ァ! 俺のタワマンの地下にもスライム敷き詰めてくれぇ!! ちょっと揺れてワインこぼれた!!』
ルミナのドローンが、崩壊するダンジョンの中で『無傷で屹立する巨大インフラ』と『呑気にチュロスをかじる現場監督』を全世界に配信し、タワマンから実況するススルのツッコミと共にコメント欄は大爆笑と驚愕に包まれていた。
やがて、激しい揺れがピタリと収まった。
土埃が晴れた後、そこに残っていたのは、崩壊した周囲の岩肌とは対照的に、傷一つ、ヒビ一つないピカピカの地下遊園地だった。
一方その頃――。
この配信映像を、真っ青な顔で食い入るように見つめている男たちがいた。
地上の安全圏にある、国連の『アビス対策本部』の幹部たちである。
「ば、馬鹿な……。先ほどの地震は、観測史上最大クラスの『マグニチュード9』のアビス震だったはずだぞ……!?」
「それが、ただの土木作業員がパズル感覚でDIYで作った施設に、ヒビ一つ入れられなかっただと……!?」
各国の軍トップやエリート幹部たちは震える手で頭を抱え、絶望の声を漏らした。
「あいつが作っているのは、ただのテーマパークなんかじゃない……。どんな大量破壊兵器も、人類滅亡クラスの自然災害すらも無効化する……絶対に破壊不可能な『神の要塞』だ……!!」
アビス最下層の一級建築士が『現場労働者の安全第一』を呑気に追求した結果、それは世界最強の防衛施設として、地上のトップたちに前代未聞の絶望(と大いなる勘違い)を与えていくのだった――!
「続きが気になる!」「おっさん頑張れ!」と思っていただけましたら、
ぜひブックマークの追加と、下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、更新の大きな活力になります!
(後から変更して頂いても嬉しいです!)




