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第72話:絶叫マシンの基礎設計と「安全なカーブ」

アビス最下層に、けたたましい金属音が鳴り響く。

地下遊園地の目玉アトラクション、『超巨大ジェットコースター』のレール敷設工事がいよいよ本格化していた。


「……ふふっ、皆様見てください。火花を散らしてレールをパズルみたいに繋げていく親方様……。あのたくましい腕筋と安全帯、今日も最高に尊いですぅ♡」


完全に『ガチ恋同担拒否のヤンデレ』として覚醒した現場警備員のマリアが、ケントから支給されたダボダボの作業着つなぎ姿のまま、物陰から自撮り棒で『親方様観察配信』を続ける。

そんな平和な光景の裏側で、現場ではちょっとしたパニックが起きていた。


「お、親方! この『ループ軌道(一回転する部分)』、マジでヤバいですって!」

元・国家最強パワードスーツ部隊の隊長が、顔を真っ青にして悲鳴を上げた。

「我々は戦闘機乗りの過酷な訓練も受けているから分かります! この猛スピードで『真ん丸なループ』に突入したら、遠心力と首への負担で、乗ってる人間は一瞬でミンチになっちまいますよ!!」


歴戦のエリート軍人たちですら恐怖する「死のループ」。

だが、ケントは溶接面を外し、首に巻いたタオルで汗を拭いながらマイルドな笑顔を浮かべた。


「おいおい、俺を誰だと思ってる。一級建築士を舐めるなよ」

ケントは呑気な手つきで、巨大な特Sランク魔獣のレールをポンと叩いた。


「よーく見てみろ。このループ、コンパスで描いたような『真ん丸(正円)』じゃない。少し縦に潰れた、しずくみたいな形をしてるだろ?」


「え? あ、本当だ……。入口と出口が少し緩やかなカーブになってる……?」


「車を運転する時を想像してみてくれ」

ケントは隊長たちに向けて、誰にでもわかるようにマイルドに解説を始める。

「高速道路を猛スピードで走っている時、いきなりハンドルを全開まで切ったらどうなる? 車はひっくり返るし、乗ってる人間は窓ガラスに激突して大怪我(労災)するよな。安全に曲がるためには、最初はゆっくりハンドルを切り始めて、徐々に深くしていくはずだ」


ケントは宙に指で滑らかな曲線を描く。

「ジェットコースターも全く同じだ。猛スピードで『真ん丸なレール』に入ると、首がムチ打ちになってミンチになる。だから、レールのカーブの角度を少しずつキツくして、出口に向かって少しずつ緩めるようにパズルみたいに組んでるんだ。そうすりゃ、体がフワッと浮く『安全で楽しい絶叫』だけが作れる。現場の知恵ってやつさ」


ケントはフルーツ牛乳を飲み干し、あくび交じりに呑気に笑った。

「お前たちは、俺の現場の大事な労働力だ。お前らの命を預かるんだから、安全設計の手抜きなんて絶対にしない。安心して絶叫してこい!」


「某・夢の国どころか、高速道路のインターチェンジと同じ安全設計を、たった一人のパズル感覚でダンジョンに持ち込んでるの!? どんだけガチでホワイトな土木工事よ!」

現場監督補佐の東雲しののめかすみが、ヘルメットを押さえて悲鳴のようなツッコミを入れる。


だが、その完璧すぎる安全性と、自分たち(底辺の労働力)の命を第一に考えるケントの『無償の愛(安全第一)』に触れた筋肉たちは――。


「お、親方ァァァッ!! 国家から使い捨ての兵隊として扱われてきた俺たちの命を、これほどまでに大切にしてくださるなんて……ッ!」

「うおおおお! 一生ついていきます! 喜んで一番乗りのテスト走行でミンチ一歩手前の絶叫をさせていただきますゥゥ!」


屈強な大男たちが、ボロボロと大粒の涙を流してケントを胴上げし始めた。


『筋肉たち、親方のホワイト発言ですぐ泣くの草ww』

『国家の最終兵器が、ジェットコースターのテスト係に大喜び』

『ジェットコースターが真ん丸じゃない理由、初めて知ったわ!』

『パズル感覚で絶叫マシンの安全設計を完璧にする男』

『泥水ススル:親方ァ! 俺のタワマンからそこまでの直通コースターも引いてくれぇ!!』


ルミナのドローンが映し出す熱い光景と、タワマンから実況するススルのツッコミに、コメント欄は感動と爆笑に包まれる。

そして、もう一つの配信枠であるマリアのカメラの前では。


「ふふん、見たかしら全世界のリスナー! これが私の親方様の完璧な頭脳と優しさよ! 当然の配慮ね!」

マリアは画面に向かって、まるで自分の手柄のようにドヤ顔で言い放った。


(ああ……ケント様が、私の命を預かってくれる……私の体を安全第一で優しく扱ってくれる……ふふん、あの理屈っぽいメス(霞)や小娘ルミナには、この深い愛の形は絶対に理解できないわね……あああっ、尊いッ……♡)


最強の暗殺者すらメロメロにする完璧な現場の知恵と、泣き叫んで喜ぶ筋肉たち。

アビス最下層に作られる絶叫マシンは、狂気と安全第一が入り交じる最高の熱狂を生み出しながら、空へとその軌道を伸ばしていくのだった――!

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