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第71話:究極のテーマパーク食と、地上の後悔

「お、親方様ぁ! 地下通路の中心に完成したこの巨大な施設は……! いざという時、兵士たちの胃袋を満たす『究極の地下兵站へいたん基地』ですね!」


狂信的警備隊のリーダー・マリア(元・世界最強の暗殺者)が、ケントの支給した作業着つなぎ姿のまま、目をキラキラと輝かせて真新しい設備を見上げていた。

彼女の視線の先にあるのは、ピカピカに磨かれた巨大な鍋や、銀行の金庫ほどもある巨大な冷蔵庫の数々。


「いや、ただの遊園地のデカい台所だぞ」

首にタオルを巻いたケントが、あくび交じりの呑気な声で答える。


「いいか筋肉たち。遊園地のチュロスや骨付き肉って、いつ、どこのワゴンで買っても同じ味で、熱々で最高に美味いだろ? あれは現場のちっこい屋台でイチから作ってるわけじゃない。全部この『地下の巨大厨房』で一気に作っているんだ」

ケントは真新しい銀色の機械をコンコンと叩きながら、新人マリアたちに向けてマイルドな笑顔で種明かしを始めた。


「ここで作った料理を『氷と風の魔石』を仕込んだ箱に入れて、一瞬でキンキンに凍らせてるんだ。中途半端にぬるいと、バイ菌が湧いて現場の労働者が腹を壊す(労災)だろ? だから熱々の状態から一気にカチカチにして、食う直前に地上の屋台のオーブンでチンする。そうすりゃ、いつでも安全で出来立ての美味い飯が出せる。現場のまかないの基本さ」


「作ってすぐ魔石で急速冷凍して、屋台でしっとり温め直す……。遊園地の裏側の『絶対にご飯を不味くしないシステム』を、たった一人で完全再現しちゃったの!?」

現場監督補佐の東雲しののめかすみが、ヘルメットを押さえながら深く納得のツッコミを入れる。


「その通り! 誰がいつ食べても安全で美味い。これこそが俺の現場の最高の福利厚生だ! さあ、テスト調理のチュロスとSランク魔獣の骨付き肉が温まったぞ。お前たち、みんなで検食(試食)ヨシ!」


ケントがオーブンの扉を開けた瞬間。

甘いシナモンの香りと、肉の焼ける暴力的な匂いが、爆発するように地下空間に広がった。


「「「うおおおおッ!! いただきまぁぁぁすッ!!」」」

元・最新鋭パワードスーツ部隊の屈強な男たちが、我先にと骨付き肉にかぶりつく。

「美味ぇぇぇぇッ!! 外はパリパリなのに、中から肉汁が滝みたいに溢れてきやがる!!」

「俺たち、一生この地下で働きます親方ァァァ!!」

国家の最高戦力たちは、極上の美味さに白目を剥き、だらしないアヘ顔を晒して次々と床に崩れ落ちていく。


「わぁ〜い! サクサクで中がモチモチ! 最高に美味しいですぅ!」

クッションの上で特等席を陣取るルミナが、満面の笑みでチュロスを頬張る。


「——ッ!? な、なんじゃこれはぁぁぁっ!?」

その横で、手のひらサイズで浮かぶダンジョンの管理者たるコア公が、目をひん剥いて叫んだ。

「外は香ばしくサクッと! なのに中はトロけるように濃厚! 一瞬で凍らせたおかげで肉汁と小麦の甘みがギュッと閉じ込められ、温め直した瞬間に口の中で旨味が大爆発しておる……! やはり、人間のメシは最高じゃのう……っ! ダンジョンの主としての威厳が、またしても小麦と油の旨味に負けてしまう……ふにゃぁぁぁっ♡」

すっかり餌付けされたコア公は、だらしない声を上げてクッションに完全に溶けていった。


そして、ヤンデレ現場警備員のマリアはというと――。

「ああ……ケント様の、愛が詰まったチュロス……ッ! 私たちの健康(胃袋)まで気遣ってくださるなんて……これが、無償の愛……ッ♡」

チュロスを両手で大事そうに抱え、狂気を孕んだピンク色の瞳からボロボロと大粒の涙を流して崩れ落ちていた。最強の暗殺者の面影など微塵もない。


『親方の究極の飯テロキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』

『マリアちゃん(元・暗殺者)がチュロスで泣いてるww』

『コア公の大御所食レポほんとすき』

『エリート兵士たち、アヘ顔で昇天すなww』

『遊園地の裏側の仕組み、めちゃくちゃ勉強になるわ』

『親方の現場、飯が美味すぎて完全に天国だろ』


ルミナのドローンが極上の食事風景と、笑顔の死体(気絶した筋肉たち)の山を映し出すと、同接500万のコメント欄は深夜の飯テロに阿鼻叫喚となった。


――しかし、その平和な配信映像を見て、世界で一番深い『絶望』を味わっている男がいた。


「う、うわあああああああっ!!」


ここは地上の超高級タワーマンションの最上階。

かつてアビス最下層から気送管エアロシューターで地上へ射出され、稼いだ莫大なスパチャで一生遊んで暮らせる財力を手に入れた元・底辺配信者、泥水どろみずススルである。


ススルの目の前の大理石のテーブルには、一流シェフが作った数万円の高級フレンチのフルコースが並んでいた。

だが、高級なフォアグラもトリュフも、画面の向こうで美味そうに食べられている『親方の作った熱々のチュロスと骨付き肉』の輝きに比べたら、まるで泥水のように味気なく感じられた。


「なんで……なんで俺は、あのまま親方の現場で『日雇いの土木作業員』にならなかったんだぁぁっ! 俺も、親方の作った熱々の肉が食いてえええっ!!」

ススルは高級なワイングラスを床に叩き割り、血の涙を流してふかふかの絨毯の上を転げ回った。安全で退屈なタワマンでの富裕層生活など、アビス最下層の『究極の福利厚生(天国)』に比べたら、ただの地獄だったのだ。


『ススル(勝ち組)が泣き叫んでるぞww』

『金を持っても親方の飯には勝てないススル哀れww』

『高級フレンチより親方のチュロスww』

『っていうか、マジであのダンジョンに行きたいんだが!?』

『俺も親方の現場で働かせてくれ!!』


完璧なまかないを食べて泣き崩れる元・敵スパイたちと、地上で圧倒的な後悔に発狂する成金配信者の姿。

そのあまりにも残酷な対比映像に、全世界のリスナーたちは「人類最悪のダンジョン、実は地球で一番のユートピアなのでは……?」と、前代未聞のパニック(アビス移住希望者の爆増)を引き起こしていくのだった――!

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