第70話:狂信的警備隊の誕生と「見えない物流網」
「……はい、全世界のリスナーの皆様。今日も『ケント様観察チャンネル』のお時間がやってまいりました。見てください、重機を操るあの輝く汗……ああ、今日のケント様も尊い……♡」
アビス最下層の片隅。
冷酷な暗殺者から『ガチ恋同担拒否のヤンデレ』へと重篤なクラスチェンジを果たしたスパイのリーダー、シルヴィア……もとい『にゃんこ☆マリア』が、物陰から自撮り棒を構えて熱っぽい吐息を漏らしていた。
「あ、マリア姐さん。ちわっす。現場のパトロールお疲れ様ッス」
通りかかった元パワードスーツ部隊の屈強な男(筋肉)が愛想よく挨拶すると、マリアはスッと冷酷な暗殺者の目つきに戻り、殺気を放った。
「チッ。汗臭い筋肉風情が、親方様の美しい現場をウロチョロするんじゃないわよ。空気が汚れるでしょ、消えなさい泥棒猫」
「ヒエッ、筋肉で泥棒猫!? す、すんません!」
涙目で逃げていく大男。
「あの……リーダー。私たちの潜入任務、完全に忘れてませんか……?」
ケントに支給された真新しい作業着姿の部下たちがドン引きして怯える中、マリアの瞳は完全にキマっていた。
彼女のカメラの先――建設現場の中央では、ケントがフォークリフト(元・最新鋭兵器)を改造したドリル重機に乗り込み、先日固めたばかりの強固な地盤に『巨大な地下トンネル』を猛スピードで掘り進めていた。
「おや、マリアたちか。安全パトロールご苦労さん!」
物陰からの視線に気づいたケントが、首のタオルで汗を拭いながらマイルドな笑顔で手を振る。
するとマリアは「ひゃんっ♡」と奇声を上げ、さっきまでの殺気が嘘のように尻尾を振る犬の速度ですっ飛んでいき、冷たいフルーツ牛乳とおしぼりを差し出した。
「お、親方様ぁ! お疲れ様ですぅ! あの、遊園地の『上』の遊具を作らないで、どうしてこんな巨大な地下通路を掘っているんですか……?」
「ああ、こいつは遊園地の裏側を支える『見えない裏道』だ」
ケントはフルーツ牛乳を飲み干し、誰にでもわかるように呑気に種明かしを始める。
「いいか? 夢の国と呼ばれるようなテーマパークで、パレードの横を『ゴミ収集車』や『商品のトラック』が走ってたら、夢がぶち壊しだろ? だから、お客さんの足元にでっかい地下通路を作って、荷物の出し入れは全部『見えない場所』でやるんだ」
ケントは足元の固い地面にチョークで、丸い円とそこから伸びる線を描いた。
「真ん中にでっかい『倉庫』を置いて、そこから各アトラクションに向けて、自転車の車輪みたいに『放射状の道』を伸ばすんだ。この『自転車の車輪方式』にすれば、どこへ行くにも道に迷わず一発で荷物を運べるだろ? それに、地上でお客さんがフォークリフトとぶつかる事故(労災)も絶対に防げる。……完璧な安全第一ってやつさ」
「徹底した安全管理と景観の維持……。某・夢の国の地下システムを、たった一人でパズル感覚でDIYしてるの!?」
現場監督補佐の東雲霞が、ヘルメットを押さえて的確なツッコミを入れた。
『某夢の国の地下を個人で作るおっさん』
『だから親方のスケールはおかしいってww』
『マリアちゃん、筋肉には殺気放つ癖に親方の前ではデレデレで草』
『自転車の車輪方式、わかりやすい。そして合理的すぎる』
『同接450万! ヤンデレ観察枠、需要ありすぎ』
『泥水ススル:俺のタワマンの地下にも専用通路作ってくれ親方ァ!!』
ルミナのメインチャンネルと、マリアの観察チャンネル。二つのカメラが映し出す圧倒的な地下インフラ網の全貌に、地上で実況するススルのツッコミも加わり、コメント欄は驚愕と爆笑の嵐に包まれる。
だが、その広大な地下空間を見下ろしていたマリアの部下(元スパイ)たちは……超一流のエージェントとしての『職業病』から、とんでもない勘違いに行き着いていた。
「……自転車の車輪のように広がる地下通路。特Sランク魔獣の骨を混ぜた、絶対に破壊不可能な壁。そして、完全に独立した空気の通り道……」
部下の一人が、震える声で呟いた。
「これ……ただの裏道なんかじゃない。いざという時、中央の巨大倉庫からすべての場所へ瞬時に最強兵力を出撃できる、完璧な『地下要塞シェルター』です……!」
「ええ、間違いないわ」
マリアは頬を赤らめ、うっとりとした目でケントの広い背中を見つめた。
(核兵器の直撃すら耐えうる究極の要塞……! ケント様は、私たちを守るために、こんな途方もない防衛施設をたった一人で……ああ、なんて慈悲深きお方なの……ッ!)
完全に脳内がピンク色に染まりきり、世界規模の勘違いを起こしたマリアは、部下たちを従え、ケントに向かって直角に頭を下げて絶叫した。
「一生ついていきます、親方様ァッ!! この完璧な地下要塞(遊園地)は、我々『狂信的・現場警備隊』が命に代えても守り抜きますッ!」
「ははは! お前たち、本当に体を張った配信のロールプレイが好きだな! その意気で現場の安全パトロールを頼むぞ。今日もご安全に!」
一切の裏表がないマイルドな笑顔で笑うケントと、熱い涙を流しながら彼を崇拝する美女スパイたち。
アビス最下層の『夢の地下遊園地』は、最強のヤンデレ要塞として、着々とその狂ったスケールを拡大していくのだった――!
「続きが気になる!」「おっさん頑張れ!」と思っていただけましたら、
ぜひブックマークの追加と、下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、更新の大きな活力になります!
(後から変更して頂いても嬉しいです!)




