第6話 「建築確認申請」完了。絶対安全領域(セーフゾーン)の確立
数時間後。
すっかり寝こけていた精霊が、ハッと気づいたようにパチリと目を覚ました。
『はっ!? 吾輩としたことが、人間の浅ましい罠に……!』
「おはようございます。追加の燻製と、食後のデザートに甘い木の実もありますよ」
『……食べる』
もはや警戒心ゼロの速度で、差し出された木の実を両手で受け取る精霊。
俺は頃合いと見て、作業着のポケットに手を突っ込みながら本題を切り出した。
「単刀直入に言います。俺はただ、ここで誰にも邪魔されずに、静かにモノづくりをしながら暮らしたいだけなんです。あなたが俺の拠点を攻撃してこないなら、この極上の食事とベッドは、いつでも使ってもらって構いません。……どうでしょう?」
これは一種の交渉だ。
現実世界における「建築確認申請」。この土地の正当な管理者から、合法的な居住許可を得るための重要なプロセスである。これを怠ると、後々行政から指導が入って面倒なことになるのは、現場監督の常識だ。
精霊は木の実をもきゅもきゅと咀嚼しながら、小さな顎に手を当てて考え込んだ。
『ふむ……。お主の規格外な力で勝手に生態系をいじられるのは腹が立つが、この食事と寝床の快適さは、吾輩の数千年の寿命の中でも類を見ないほどの快挙じゃ。……よかろう! お主をこの最下層の「特例居住者」として認めてやる!』
精霊が小さな手を高く掲げると、ログハウスを中心とした半径数十メートルの地面に、淡い金色の魔法陣が幾何学的な模様を描いて広がり、スッと地脈に吸い込まれていった。
「今のは?」
『吾輩の権能じゃ。この小屋と、その周囲一帯の空間を「ダンジョン・コアの直轄地(ボスルーム扱い)」としてシステムに上書きしてやった。これで、吾輩の許可がない限り、知能の低い魔物は一切このエリアに侵入できなくなる』
なんと。
つまりこれは、RPGで言うところの『絶対安全なセーフゾーン』が形成されたということだ。
作業中に突進してくる大型魔獣や、資材を食い荒らす害獣駆除の心配がなくなり、安心して建築や農業に没頭できる。完璧なプライベート空間の完成である。
「素晴らしい……! ありがとうございます、えっと……」
『吾輩に名前などない。ただのコアじゃ』
「じゃあ、便宜上『コア公(公)』と呼ばせてもらいます。改めてよろしく、コア公」
『むぅ、なんだか犬みたいな呼ばれ方じゃな……まあよい。吾輩はもう少しここで寝る』
コア公は再び特製クッションにダイブし、幸せそうに目を閉じた。
「よしっ! 土地の安全基準もクリアしたことだし、いよいよ本格的なインフラ整備に取り掛かるか」
俺の一級建築士としての血が騒ぐ。
衣食住の「衣」と「住」は満たされた。食事もなんとかなっている。安全も確保された。
次に人間が文化的な生活を送るために必要なものは、一つしかない。
「お風呂だ」
ブラック企業時代、何日も会社に泊まり込み、冷たいウェットティッシュで体を拭くだけの生活を強いられていた俺にとって、足を伸ばして入れる広い風呂は悲願だった。
「まずは地下水脈の探索と、水圧をコントロールする配管システムの設計図を引くぞ。材料は……あそこにある巨大なスライムの膜が、水漏れを防ぐシール材(防水パッキン)として使えそうだな」
高トルクのポンプに代わる魔道具の作成や、熱源の確保。課題は山積みだが、それがいい。
俺は新たな「DIY」のアイデアに胸を躍らせ、スケッチブック代わりの平らな岩板に、猛烈な勢いで配管図を引き始めた。
最強の管理者を手懐け、絶対安全領域を手に入れたおっさんの建築ライフは、いよいよ本格的な「極楽リゾート開拓」へとシフトしていくのだった。
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(※第7話は15時10分、第10話は22時10分に公開予定です)
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